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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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ニュー・アニメ・パラダイス

15/08/29 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:6件 クナリ 閲覧数:1169

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 幼馴染のアキユキの右目にアニメが映ることに気づいたのは、私達が小学校五年生の時だった。
 私は母がアニメ嫌いで、家では観ることが出来なかったので、なんと有難い超能力だと大喜びした。
 学校から帰ると、私は友達と遊んで来ますと言って家を飛び出し、裏山の段ボール製の秘密基地でアキユキと落ち合う。
 彼の右目にはアニメ限定で、テレビの電波の受信、録画、再生の能力が宿っていた。お陰で深夜アニメも、翌日にゆっくり観られる。
 アキユキの目一個分の面積の小さな映像は、しかし、不思議なことに画面の詳細な部分まで見て取ることが出来、テレビを見ているのとまるで変わらなかった。
 アキユキは放っておくとろくにしゃべらないので、私の方から秘密基地の中であれこれと話を振ってみた。私が好きなアニメのエピソードを熱く語ると彼は嬉しそうにして、私が嫌いな人の悪口を言うと悲しそうな顔をした。
 アキユキは、どうもなかなかいい奴だった。小学校六年生の頃には、アニメよりもアキユキに会うことが私の目的になっていた。

 中学二年になっても、私達の習慣は続いていた。
 さすがに少し気になって、私は二学期のある放課後、思い切って裏山の秘密基地でアキユキに聞いてみた。
「今日はアニメ観る前に、聞きたいことがあるんだけど。あのさ、アキユキって、この状況について何とも思わないわけ?」
「この状況?」
「だから、私が毎週あんたとこうしてることに、アニメ以外に別の理由があるんじゃないかなーとか、思ったりしないの?」
「別の理由?」
 オウムかお前は。
「私はもう中学生で、いい加減アニメ離れする歳だし、なのに友達の誘いを蹴ってまで飽きもせずあんたと顔つき合わせてることに、何の感想も抱かんのかいと聞いてるんだけど」
「……いや、別に。本当に君はアニメが好きなんだなあと」
 おお。マジだ。こいつはマジでおっしゃっている。
 私はがっくりと力が抜け、段ボールの床に両手をついた。まさかここまで明白に脈なしだったとは。
「暗くなったね」
 確かに周囲は、秋の夕闇に閉ざされかけていた。
「……帰る」
 その一択だった。ただ、毎年この時期になると、暗い裏山を歩くのには少々勇気がいる。
「待って、今照らすから」
 そう言ったアキユキの右目から、光が放射状に放たれた。まるで映写機のようだ。
 光は段ボールの壁に当たって直径一メートルくらいの円を描き、その中でアニメが放映されている。
「うわー、プロジェクタみたい。いつ出来るようになったのよ」
「最近。懐中電灯代わりにはなるよ。でも、出来なくなったこともある」
「何を?」
「制御」
 見ると、照射された光の円の中のアニメは、十数秒ごとに落ち着きなく作品が切り替わって行く。
 複数の作品が細切れになってガタガタと流れる映像は、まるで流行のタイトルのダイジェストのようだった。
「僕にはあるよ」
「え?」
「別の理由。僕はある」
 アキユキが、光の円を指差した。
 よく見ると、映し出されるシーンには共通点があった。
 作品ごとに異なったキャラクタとシチュエイション。でも、どのカットでも主役級らしい二人が必ず唇を合わせて行く。
 キスシーンのみを抜き出して、つなぎ続けたような映像だった。
「……何これ?」
「今の僕の右目は、……頭の中は、君といるとこうなる」
「私と?」
「僕らはもう、無邪気にアニメを楽しむだけの年齢ではなくなったんだと思う。こんな暗がりに、こんな僕と一緒にいたら――危ない」
 私は中途半端に上げていた腰を、ペタンと段ボールの上に落とした。
 すぐ目の前に、アキユキの顔がある。息遣いが感じられるほどに、近く。
「危ないって、……?」
 アキユキが目を閉じた。
 そのために映写が途絶え、秘密基地の中は一気に暗くなる。アキユキのシルエットが、私の顔に近づいて来た。
 いや待て待て展開が早過ぎるだろ、お前は打ち切りアニメの最終回かってやかましいわ、などと言おうしても声が出ず、代わりに私の平手がアキユキの頬をぺちんとはたいた。
「あ――ごめん。急だったから」
「いや――僕こそ。ゆっくりだったらいいの?」
 もう一度私は振りかぶり、アキユキのシルエットが慌てて向こうへ引っ込む。
 目が闇に慣れ、アキユキの顔が見えて来た。右目はもう映像をオフにしたようで、何も映っていない。
 いや、その目は私を見つめている。
 今、あそこには、私が映っているのだ。もしかしたら、この顔の赤みまで。
 散々間近でこいつの目を覗き込んで来たのに、直に触れたのは、そう言えば今のビンタが初めてだった。
 記念すべきファーストタッチの、手のひらに残るくすぐったいような熱に浮かされて、私はえへへと笑った。
 何がえへへだと、自分でも思う。
 でも、アキユキも多分、笑っている。


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このストーリーに関するコメント

15/08/29 クナリ

タイトルの意味がよく分からないかもしれませんが、映画の『ニュー・シネマ・パラダイス』をもじったんです。
もう自分で言います。

15/08/31 泉 鳴巳

特殊能力を日常にさらりと埋め込んだ爽やかな青春小説でした。

キスシーンのくだりは言わずもがなアルフレードの形見のフィルムのシーンがモチーフなのでしょうが、舞台や登場人物が異なってもあの情景が浮かび上がってくるようで、アキユキ君の想いの強さを感じました。
「王女と兵士の寓話」の100日間よりもずっと長く待ち続け、私の言葉をきっかけにその想いがついに爆発したと考えると、少し切なくそれから温かい気持ちになりました。

15/09/02 クナリ

泉鳴己さん>
自分、まったくもって映画通でもなんでもないですし、ニュー・シネマ・パラダイスのあのラストシーンは映像面だけでなく込められた精神こそが素晴らしいのだというのは分かっているのですが、不遜にも今回上っ面な感じでオマージュさせて頂きました(^^;)。
特殊な能力を持っていても、何だか日常生活の園長のような感じで過ごす二人の関係を描きたかったので、お言葉とてもうれしいです。
ありがとうございました!

15/09/21 光石七

『ニュー・シネマ・パラダイス』を観たことが無いのですが、二人の姿とアキユキの目に映るものが見えるようで、ノスタルジックで素敵なお話だと思いました。
特殊な能力なのに違和感のない日常の光景になっており、二人の関係性も親しみやすくて可愛くて……
自然と二人を応援したくなり、温かい気持ちになれました。

15/09/22 滝沢朱音

大丈夫です、タイトルの意、ちゃんとわかりましたよ!笑

一行目の凄い設定を読者に難なくクリアさせ、物語に一気に引きずり込ませる。さすがです。。

「出来なくなったこともある」
「何を?」
「制御」
このあたりで、キャーッ(〃∇〃)と萌えたのは私だけでしょうか…

15/09/22 クナリ

光石七さん>
突飛な能力の詳細や整合性を解説していると字数どころではなくなるので、さらりと話を進めていきました(^^;)。
「特殊かもしれないけど、この人たちはコレがあるのが当たり前」という書き方が好きなのです。
自分はたいてい不幸な方面に話を持っていくことが多かったのですが、題材がアニメということもあり可愛らしい話にしてみました。
コメント、ありがとうございました!

滝沢朱音さん>
恐れ多くも、タイトルは名画のあのシーンをイメージして拝借しました(^^;)。
一行目はもう、「こういう感じなのでついてきてください」という読み手様への案内状でもありますね。
イメージを具体的にするためにもう少し補足説明しようかとも思いましたが、二人のやり取りが以外にスペースを使ってしまい、解説よりはストーリーを展開させたほうがいいかな…と思って、ほとんど説明なしでしたね。
後半はなるべく恥ずかしいセリフを応酬させたかったのですが、こんな感じに仕上がりました。書いている方は充分恥ずかしいですが(^^;)。
コメント、ありがとうございました!

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