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夏のひととき

15/08/27 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 たまごたち 閲覧数:831

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あの祭りの日、私は親友の紗耶香と、賑やかな屋台の並ぶ、地元の名所に遊びに向かった。

夏休みの、夕方。人が鬱陶しいほどに集まった場所で、小さな子供たちと並んで、香子は紗耶香と金魚すくいをしていた。
「待って!待って!」
しかし、すくおうにも、ポイの紙はすぐに破れた。
「あー…」
「香子、もっと丁寧にやらないと」
横で、2匹の金魚を容器に入れた友達の紗耶香が言う。
屋台で賑わう人ごみの中、ひたすら二人は金魚を目で追いかけていた。しかし、ポイはなかなか弱く、すぐに破けてしまう。
「おじさん!もう一回!」
「はい、破けないように、そうっとな」
店のおじさんは、優しい笑顔でそう言った後、新しいポイを2つずつペアで渡した。

「あーなつかしー」
その時聞こえた声。女性の声だった。
「金魚すくいなんて中学校以来じゃない?」
香子は振り返って見上げた。健気そうな20代の女性と、30歳くらいの色白の男性だった。
「私たちもやろ!」
女性は言う。

「難しいな、これ…」
しばらくして、隣で彼が呟いたのが聞こえた。
何度も水に紙を浸けていたせいか、香子の横で金魚を掬う男性のポイは、呆気なく破れた。
「あー…」
ポイを眺める、彼。
それを、様子を伺う猫のように、香子はきょとんとして見ていた。大人の人が金魚すくいに熱中するその様が、珍しかった、からだろうか。今でもそれは分からない。
そんな時、男性はふいにこちらを見た。思わず、香子は目を離した。
見ていたことを、怒られるのだろうか。
ただ、他人だから。目を合わせてはいけない気がした。

――…。
しかしその時、頭に何かが触って。香子は顔を上げて見た。
彼が、香子の頭をそっと撫でていた。
「え…?」
彼は、にこりと微笑んだ。
「金魚すくい面白いか?」
打ちあがる花火の中、彼は言った。幾度かなでると、彼は打ちあがる花火へと視線を移した。
「おーすごいすごい…」
喜ぶ彼の後ろ、香子は独り、ポカンとしていた。やがて花火が終わると彼は、香子の頭から手をどけた。顔を隠して、香子は彼の横から離れた。
逃げたわけではない。―― ただ。

ただ ―― どうしてなのか分からなかったから。

「次、行こうぜ」
数分後。彼は女性を連れて立ち上がった。
「次、どこ行く?」
女性は尋ねる。
「イカ焼きどうだ?」
「お、いいね」

知らない人なのに、なぜ、可愛がってくれたのだろう。

彼らが腕を組んで、去って行く後姿を、香子は見つめた。
賑やかな、夜空は騒々しく火が散る。
「…ねぇ紗耶香…」
そうして、金魚をすくう紗耶香の肩を叩いた。
「うん?何?」
やがて、彼らの後姿は人ごみへと飲まれていった。


「どこ行くの?」
紗耶香は腕を引っ張る香子に尋ねた。
「イカ焼きだよ…」
香子は言う。
花火が終盤に差し掛かって、激しく夜空は照らされた。
響き渡る花火。イカ焼きの屋台に近づくと、また彼らの後姿は見えた。花火に照らされた彼らの横顔。いつまでも笑う二人
「あれ?あの人たちがどうかしたの?」
でも、香子は彼らに声をかけることはなかった。ただ、見ていた。

そう、あれは――。
「一体、何だったんだろうなぁ…嬉しかったのかなぁ、私…」
香子は、かき氷をシャリシャリと食べながら、暗闇の中、近くの屋台と人ごみ、賑やかな音楽を聞きながら、夫の圭吾を隣に呟いた。
「何が?」
「何でもない…」

―― 誰も知らない。私だけの思い出。

あの人が、何を思っていたのかは分からないけれど。
大事にしたい、思い出。

隣に座った、7歳くらいの男の子。隣に座る、見ず知らずの家族ずれの子供。

私も、こんな風に見えていたのだろうか ――。

暗闇に、花火が打ちあがる中、香子はその子の頭を撫でた。

男の子は、こちらを不思議そうに見上げてきた。香子は、にこりと、笑った。


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