轟 進さん

趣味で小説を書き始めようと思います。 インパクトがあり、心に残るような作品を書けたらと思っております。 右も左もわからない素人ですが、皆様どうぞよろしくお願い致します。

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何か

15/08/27 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 轟 進 閲覧数:1066

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 陽射しが強い八月、この日、パパの面影はもう無かった。

 太鼓の音は祭りが始まる合図。
各町内から自慢の山車が次々と道を埋めていく。
頑固な八百屋、物静かな畳屋、耳が遠い駄菓子屋。
普段とは違う顔つきの店主達が、仲間を鼓舞しながら山車を進めていく。
年に一度、誰もが「男」になれる日だ。

 わたしのパパは毎朝八時に家を出て会社に向かう。
同じ髪型、同じ靴、同じ鞄で一日を始める。
お昼はママが作ったお弁当を食べ、夜はきっかり七時に帰ってくる。
夕飯を食べ、ビールを飲み、テレビを観て、くすりとも笑わずお風呂へ向かう。
その後すぐに就寝。
 平日のパパはこんな感じで、見事なくらい喜怒哀楽を表に出さない。
普通、人間は何らかの感情が表に出て、それを喜怒哀楽のどれかに分類できるのだが、
パパの場合それが不可能なのだ。
別に怒っているわけでもない。感情が読めない。

 休日のパパはどうだろう。
わたしの家の特等席であるソファ。
この場所は非常に便利で、手を伸ばせば必要な物は大抵手に入る。
テレビのリモコン、新聞、お茶。
もちろんパパはそこに陣取る。
たまに訪れる周りからのアクションにも微動だにしない。
時折、心から心配になる時がある。
パパは何か悪い者に体を操られているのではないか、本人は気付いていないが得体の知れない何かが乗り移っているのではないか、と。

 乗り移っていたのだ。

 それは突然の出来事だった。
 遠くで太鼓の音、活気ある声が近付くと同時に、階段から何かがゆっくりと降りてくる。
 法被を身にまとい、鉢巻きを締め、凄まじい眼光でそれは姿を現した。
 誰?知らない人が家にいます。
すぐパパじゃないことはわかった。
パパのはずがない。
 その「何か」はとても近寄りがたく、わたしは声も上げられず、目をそらすので精一杯でいた。
 
 その時だった。

 「パパ!頑張って!」
 ママが発した声にわたしは驚きを隠せなかった。
 パパ?パパなの?
 いや、絶対に違う。
 とその瞬間、その何かはわたしの方を向き一言しゃべった。
もごもごして何を言っているのかわからなかったが、それはわたしの毎日の習慣の中にあるものだった。
 
 「いってきます」

 あれはパパだ。

 毎朝パパがわたしにかけてくれる言葉だった。
いつものトーン、いつもの場所で、いつものタイミング。

 その瞬間にわたしは自分を責めた。

 なぜ、なぜわたしはあれがパパだと気付かなかったのだろう。
情けなさと、罪悪感が一気にわたしの心を締め付ける。

 この状況に気付いたのか、ママは苦しむわたしにそっと近寄り、軽く肩を叩いた。

 わたしはいてもたってもいられず走ってパパを追い、勢いよく玄関の扉を開けた。
 目に入るその光景は、全てがスローモーションに見えた。

 眩しい陽射しの中、蝉の鳴き声とパパの大きな後姿が、妙にリアルだった。

 「パパ!ごめんね!パパ!!頑張って!!」
 わたしは目に涙を浮かべながらも必死でパパを見送った。

 陽射しが強い八月。
 この日、パパの面影はもう無かった。






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