1. トップページ
  2. 二つの私

水原あさりさん

好きな作家さん[敬称略] 綿矢りさ/内田春菊/太宰治/宮沢賢治/江戸川乱歩/谷崎潤一郎/サガンetc...

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

2

二つの私

15/08/26 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:0件 水原あさり 閲覧数:1264

この作品を評価する

「え?北村さんて、魔法少女じゅえるたんの声優さんなの!?」
「まあ、一応...」
「えー!すげー!」

この合コンでは、私が声優をやっていることは絶対に言うまい。
そう思っていたのに、バイト仲間の小百合が口を滑らせて、ばれてしまった。

ガヤガヤとした、品性の欠片もない安いチェーン店の居酒屋。
私は気まずくなって何とも言えない表情を浮かべたまま、下を向いた。

「じゃあさ、じゅえるたんの声やってよ!いえー!!」
男たちのテンションがやたらとハイになっている。
...思った通りの最悪の展開だ。

「魔法少女じゅえるたん」とは、今流行っている萌系アニメで、最初は一部の美少女好きオタクから指支持されていたが、最近では子どもや女の人の視聴者も増えていて、徐々にオタクではない人にも浸透しているほど人気になっている。

私が今まで付き合ってきた男は、どいつもこいつも素の私になんか興味がなく、「じゅえるたんの声をしている」私目当てだった。
私は隣でみんなと笑っている小百合をそっと睨んだ。

「魔女魔女ラブパワー!へんし〜ん!」
やぶれかぶれで、全力でじゅえるたんの声で変身のポーズをしてみせた。

「すげー!本物じゃん」
さっきまで私に興味が無かった男も、挙って身を乗り出している。

「悪い子はお仕置きですっ!!」
ヤケクソになって、じゅえるたんの決め台詞を連呼する。
20後半の女がこんなことをしているとは。恥ずかしくて情けなかった。

結局こうして合コンの盛り上げ役になるだけで、今日も収穫なしか...。
そう思っていた時だった。

席替えをして隣に来た山崎という男性が、騒がしく盛り上がっているみんなに気づかれないようにこっそりと耳打ちしてきた。
「北村さん、連絡先、交換してもらえませんか」

山崎は、大手車メーカーに勤めている、32歳の男性で、見た目も清潔感があり、真面目そうで、この中で一番私のタイプだった。
この人はアニメにも声優にも興味無さそうだし、単純に私に興味を持ってくれていると感じた。

「はい」
顔が少し赤くなってしまったのはお酒のせいにしておこう。
私は思わぬ展開に有頂天になっていた。


それから山崎と私は何度か会ううちに、めでたく付き合うことになった。
デートを重ねるごとに、山崎の優しさ、面白さに気づき、どんどん好きになった。

そしてはじめて私が山崎の家に泊まりに行った夜、悲劇は起こった。
一緒にベッドに入って寝ようとした時、

「あのさ...」

山崎が気まずそうに口を開いた。

「何?」
「これ言うと嫌がるかもだけど」
「いいよ、何でも言って」
「今からさ、じゅえるたんの声でしてくれない」

結局お前もか...。
悔しくて悔しくて、涙があふれそうになるのを我慢して、黙って荷物をまとめて家を出て行った。

気がつくと、もう朝だった。自宅に帰った私は、メイクも落とさずそのまま寝ていたらしい。
どんなに悲しいことがあっても情けないことにお腹は空く。
私は食料品を買いに、デパートに行った。
子どもが大きな声でおもちゃコーナーでグズっていた。

「じゅえるたん買ってくれないとやだやだー!!」

男の子は、じゅえるたんのソフト人形が欲しいと言って暴れている。
その子のお母さんは、
「お金ないんだから!我慢しなさい!」
と周りの目も気にして困っていた。


「こーら!君わがまま言ってるのぉ?ママ困らしたらお仕置きだぞ!へーんしんっ!」
私は気がつくと、子どもに近寄って、じゅえるたんの声で話しかけていた。

「あれ?じゅえるたん?え?じゅえるたんだ!」
子どもは不思議そうに私の顔を見た。もう涙は止まっていた。

「いつも応援してくれてありがとう。でも、お人形はまた今度にしようね」
と笑顔で言うと、
「うん!」
と嬉しそうに目を輝かせた。
お母さんも、
「え?あなたじゅえるたんの声優さんなんですか?すごい!ありがとうございます!」
と驚いていた。


親子が手をつないで帰っていく背中を見ながら、
「これも職業病か...」
と呟いた。


じゅえるたんでいる私も、まんざら悪くはないのかな。

魔法少女じゅえるたんのおもちゃたちがキラキラ輝いているのを見て、そっとため息をついて笑った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン