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小沼 道明さん

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今の稼ぎとは

15/08/25 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 小沼 道明 閲覧数:1080

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 今夜は地元の町内会で夏祭りがある。
前々から小学生の娘と中学になる娘は、家族みんなで夏祭りに行くことを楽しみに
していた。私も今夜の祭りをとても楽しみにしていたので、仕事は山積みだったが、上司に断って定時で退社させてもらうことにした。
 帰宅途中、残した仕事に後ろ髪を惹かれる思いだったが、家が近づくにつれ仕事の事は影を潜め、子供たちや妻が祭りの屋台で楽しんでいる光景が目に浮かんできた。
いつもはだらだらと歩いている帰り道も、気づくと息が切れるくらいに速足になっていた。
「ただいまー」
「おかえりー」
待ってましたと言わんばかりに元気に返事を返してくれた子供たち。
もう浴衣を着て準備万端。早速私も甚平に着替え、家族そろって祭り会場へ向かった。
 遠くから盆踊りの音楽が聞こえてくる。どこからか香ばしい醤油の焦げた香がする。
一つ路地を曲がると、道路は歩行者天国になり、両端には提灯と屋台が長い列をなして続いていた。普段では想像もつかないくらい人で溢れていた。
「こんばんは」
「あ、どうも、こんばんは」
いつも難しそうな顔であいさつをする近所のおじさんも、今夜はニコニコ顔だった。
 まずはビールを購入。次は夕飯代わりにと、焼きそばを6パック注文した。
「なんか、数が多くない?」
横にいた妻が言ってきた。
「俺、二つ食べるけど」
何だか妻は浮かない顔をしている。
「なんか、まずいかな?」
浮かない顔が不機嫌な顔に変わりつつある妻に聞いた。
「お祭りの物って高いから・・・」と妻。
「祭りの時くらいいいと思うけど」と私。
無駄遣いをしてもいいと言う訳ではないけれども、焼きそばくらいは気兼ねなく食べたかった。もちろん子供たちが、どんな物を欲しがっても祭りの時は「もったいないからやめなさい」などと言うつもりは全くなかた。
「好きにすれば」と言う妻の返事に、私は思いっきり気兼ねしながら焼きそばを4パック分だけ注文した。とても楽しみにしていた祭りだったが、出鼻を挫かれた思いだった。
私は無理やり楽しい雰囲気を作ろうとするが、なんとなく空回りする。
そのうち子供たちは友達たちと合流してそれぞれに楽しんでいるようだった。
 妻と二人になった私は、
「こんな時くらいあんまりお金のこと言うなよ」
と言うと
「お金が無いんだからしょうがないでしょ」
と妻。
お金が無い、お金が無いと言われると、家族の中で唯一の収入源である私には耳の痛い話である。
祭りも終わり、家族そろって帰宅した。
子供たちは結構ご満悦のような感じだったが、私と妻の間には冷たい空気が流れていた。
このまま、しこりを残したままにしたくなかった私は、ダイニングテーブルに腰かけ努めて明るく
「稼ぎの悪い旦那ですいません」と、テレビを見ている妻に投げかけた。
聞こえているのかいないのか?テレビ画面を凝視したままの妻は返事をしなかった。
「節約も大事だよね」と、再び声をかけるが無反応。
今回は、完全に無視されていることを悟った。
私は家族に、決して裕福ではないが、ものすごく貧乏な思いをさせているつもりは無かった。
どの程度が貧乏でどの程度が裕福かは、私自身判断がつかないが、人並みの生活は維持できていると思っていた。
何も話さない妻に嫌気がさしてきた私は
「まわりのみんなも、傍から見たり、思っているより稼いで来てはいないと思うよ」
すると、妻が沈黙を破り
「そんなことない」と、強い口調で言い放った。
あっけに取られた私は
「そうなんだ。誰の家がどれだけ毎月稼いできているか知っているんだ」
と問うた。
「知らない。けど、みんなの身なりや生活スタイルを見ていればわかる。あなたの年齢じゃ、普通はもう管理職で、お給料ももっと上がってきているはず。みんなのおうちもそう。今くらいの給料は、あって当たり前!」
いっきに言われた。
「じゃあそれは想像で言っているの?今の俺の稼ぎじゃ足らなくて、今くらいの俺の稼ぎがあることは当たり前だし、本来はもっと貰えるはずだとゆうことなんだ」
もう、喧嘩になってしまった。
「そう」
妻はポツリと言い、また沈黙に入ってしまった。
 かなりショックだった。他人の家族と比べられ、今の給料は当たり前で、自分の年齢なら本当はもっともらえていたはずだなんて、妻がそう思っているなんて私自身夢にも思わなかった。私はダイニングを後にして、自分の部屋に引き籠った。

そして私は思った。

 今、仕事があって、他人より上か下か知らないが、収入があり、人並みの生活ができていることに、心から感謝したいと。

 裕福でお金には何の苦労もしていないような人が、そんな生活がずっと続くと思っていた人が、ちょっとしたキッカケや気持ちの変化で、あっという間に泥水を舐めるような生活になってしまったことを知っているから。


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