1. トップページ
  2. パラパラ漫画

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

2

パラパラ漫画

15/08/25 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1192

この作品を評価する

達也は、ひとりベッドから出ると、一階のキッチンにおりていった。
そのときちょうど、君江がそばをとおりかかった。
二人は顔をあわすこともなくすれちがった。君江はそのまま玄関におり、靴をはきはじめた。化粧もおえ、バッグを肩に、これから出勤するところだった。
達也はキッチンのテーブルに腰をおろすと、目の前に置かれた生パンをトースターにいれてスィッチをオンにした。パンが焼けるまでのあいだ、彼はポットでわかした湯をカップにそそぎ、ティーパックをたらした。
こんな生活がもう何か月もつづいている。二人の仲がうまくいかなくなったのはもっとまえからだが、以前は彼の健康をきづかう妻が、朝食には必ず生野菜を用意してくれていた。それも最近はなくなった。このパンとティーパックもいつまでもつかわからなかった。彼女は会社勤め、自分はフリーライターで収入も一定していない。そんな生活のちがいが、いつしか二人のあいだに距離をあけていたのだろうか……。
達也はそっけない朝食をおえ、自分の部屋にもどったものの、すぐにパソコンにむかう気にもなれずに、しばらく所在なさげにぼんやりしていた。
部屋の整頓でもやるか。じっとしていると、ろくなことを考えないと思って彼は、押入れを開き、中にごたごたと詰まったものをとりだしはじめた。
大小様々な箱、アルバム、筒、カバン類、本、ビニール袋のほかに、鋏や電池、プリンター用のインクといった細々したものもでてきたので、それらは新聞紙の上において、じっくり腰をすえて片づけていくつもりだった。
平たい箱のふたをあけたところ、なかから何冊ものメモや手帳がでてきた。
その一冊をひらいてみると、男女がむかいあっている絵がでてきた。ボールペンで描かれたもので、結婚前に君江がくれたものだった。達也はそれを最初からパラパラとめくっていった。すると各ページに描かれた男と女がしだいに顔をちかづけあって、そのうちキスをかわしたと思うと、くっつきあった二人の顔はやがてハートの形になった。
それはパラパラ漫画で、いまみてもなかなかよくできている。これをもらったとき、達也は感動して、その場で本当に君江にキスしたことをおもいだした。当時はそんなに仲がいい二人だった。
それがいまは………達也の口から深いため息がもれた。彼はけっして妻が嫌いではなかった。いまでも愛する気持ちに変わりはない。誓っていうが、これまで一度だって裏切ったりしたことはなかった。
それがいつのまにか気がついたら、二人の間に冷え冷えとした空気がわりこんできていた。いえることは二人とも、世間の連中とくらべて、不器用だということだ。自分の気持ちを素直に相手に伝えることができず、お互い誤解ばかりして、理由もないのにいがみあい、そのうち収拾がつかなくなってしまうのだった。そのくり返しの果てが、現在だった。顔もあわせることなく出勤する君江。朝のテーブルには生パンとティーパックだけ……。
この冷めきった関係を、なんとかもとにもどすすべはないものか。このままいけばまちがいなく、二人はよりをもどすことなく、離婚に追いやられるのは目にみえていた。
達也は無意識に、手の上でさっきのメモをパラパラやっていた。何度も何度も二人はキスをくりかえしている。
達也は、箱のなかをまさぐって、未使用のメモ帳を探した。それは簡単にみつかって彼は、ボールペンでおなじように妻とじぶんの顔を一枚一枚、すこしずつ移動させながら描きはじめた。まだまだみずみずしさを失わない君江と、横顔だけはちょっと自信のあるじぶんを、根気よく描きつづけた。
メモ帳全部を使って描き終えると、何度となくパラパラやってみた。二人は顔をちかづけていき、口づけをかわすと、やがてその顔はハートに変化した。我ながらよくできた。
これを妻にみせよう。達也は急に思いたった。これを見て君江の気持ちが少しでも変わってくれたら……。そんなことはまずありえないとは思いながらも、とにかく彼はこのおもいつきにすがりつくほかなかった。
達也はふたたびキッチンにおりていき、彼女の目にふれるところをさがして、フロアを歩いているとふと、電子レンジの上におかれた一冊のメモ帳に気づいた。
達也はそのメモをひらいてみた。そこには、はっきり自分と妻とだとわかるふたつの顔が描かれていた。おやっと思って彼は、パラパラとメモをめくりはじめた。
メモの中の二人は、だんだん顔をちかづけていって、キスをした。その顔がピンク色のハートに変わり、飛んできた矢がその中心に当たると同時に、『TATSUYA LOVES』の文字が表れた。
自分のものよりずっと手の込んだパラパラ漫画を、達也は君江が帰ってくるまでのあいだ、いつまでも飽きずにながめていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/08/25 rug-to.

素敵なおはなしをありがとうございました。

15/08/26 W・アーム・スープレックス

rug-to.さん、久しぶりです。お元気ですか。
また独自な世界のお話、待っています。

15/09/21 光石七

拝読しました。
すれ違ってしまったかに見えて、お互い関係を修復したかったんですね。
その思いを図らずも同じパラパラ漫画に託した二人、きっとやり直せると思います。
素敵なお話をありがとうございます!

15/09/21 W・アーム・スープレックス

パラパラ漫画って、学生時代描かなかったですか。私なんか教科書の隅っこに描いて楽しんでいました。これって、アニメの走りではないでしょうか。
私も久しぶりに描いてみようかなと思っています。
光石さんに太鼓判を押されたのですから、二人もよりをもどすことでしょうね。

ログイン