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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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山の彼方のヒマラヤンブルー

15/08/24 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:3652

時空モノガタリからの選評

様々な植物の描写が淡々としているのにキラッと光るエッセイですね。青いケシの花と松山さんの作品や人となりとが重なる美しい追悼作品だと思います。目に見えずとも人と人とは影響を与え合い、どこかで繋がっているのだと素直に思わされる作品でした。

時空モノガタリK

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今年の夏の始まり、志を持った1人の青年が突然に天へと召された。
私は泣いた。
あの頃聞いた蝉時雨は、今はもうかすれて遥かに遠い。


8月も後半に入ったとはいえ、こんなに蝉が少ないのは、毎年残暑の厳しい大阪にしては珍しいことだった。
とはいえ、都会の風景に馴染んだ鶴見緑地も、昼はやや暑くなる。メタセコイアの並木道を通り抜けると、眼前に大きな噴水が広がっていて、ビーチボールを手に水浴びする子供たちは一様に歓声を上げ、残り少ない夏休みを謳歌している。
左手に曲がり少し歩くと目的地はすぐ見えてきた。
旧世紀から咲くガラスの睡蓮は、今もなお健在だった。
一見無秩序に見える無数の銀縁の長方形のガラスが、近未来的なフォルムを際だたせる。
1990年の『国際花と緑の博覧会』において技術の粋を集め作られた、巨大なガラス張りのブロッサム型温室。
高速道路からも見た人が指差す程に、そのインパクトは大きい。
当時の私は高校生だったが、メインパビリオンだったここは、入場制限がなされ満員電車並みだった事を覚えている。だが、そのおかげもあり花博の閉幕に際し、感動した多くの人の嘆願でこの建物は残った。
日本最大級の温室・咲くやこの花館。そこかしこの旗やポスターに、25周年アニバーサリーの文字が輝くのを見た。


中は熱帯雨林室、ハイビスカスワールド、プチイングリッシュガーデンなど、様々なエリアに分かれていて、
名前しか知らない、あるいは名前すら知らない珍しい植物が一堂に会し、緑の空間を創り上げている。
通路には世界一の花ラフレシアの標本があって、これは花博の目玉の一つだった。夏休みだから家族連れや、三脚を持ったカメラマンは多かったが、待ち時間なしで見られるのはとても嬉しい。
トックリキワタという木に生っている綿が宙を舞っていて、ふと見上げたガラスの天井は高く、曇った空の色は厚く暗い。晴れていれば中は相当暑いのではないだろうか?
サボテンの群れた乾燥地植物のエリアは30℃を越えている。真冬でもこの温度を保たねばならないとすると、植物の維持の困難さがうかがい知れる。
この先が高山植物室だ。
自動ドアが開くと、急にひんやりとした冷気が覆う。温度21℃、湿度90%の表示、半袖ではかなりの冷え込みだ。


目の前の岩場に、チベットの経文を書いた5色の祈祷旗・タルチョがかかっている。これが風に靡くたび、経文が読まれたことになり、ルンダという風の馬が仏法を広めるという言い伝えがあるそうだ。
その付近に、ひっそりと咲く花があった。
ああ、と思った。
色々思う事はあったのに、いざとなると感嘆しか出ない。
光を透かす薄い花弁は、移ろいやすい高峰の空色を写しとったような、青から紫にかけた曖昧さで輝いている。花弁の枚数もまちまちで、一つとして同じ色形がないのは不思議だ。
ただ幻想的なだけではない。
背が高く細い茎や葉には細かい棘があり、動物に食われないよう健気にも防衛しているのは、過酷な野性の現れであろう。
ヒマラヤの青いケシ、メコノプシス。
神秘と可憐を併せ持つ中に、様々な表情を見せるその花は、標高3000m以上に咲く秘境の花として花博で紹介され話題を呼んだ。
特に天上の妖精といわれる、標高7000mでも花開くメコノプシス・ホリデュラは、シャングリラと評される仏教王国ブータンの国花でもある。
日本では平地栽培の困難なメコノプシスを、咲くやこの花館では独自の方法で一年中開花させている。
訃報を知って、言葉に迷っていたら、ようやくここに辿り着いた。
私は、青いケシに黙祷を捧げた。


素人小説家。
そう自らを評した青年の書いた主人公と、同じ精神障害を私は患っている。
その作品からきっかけのひとつを頂いて、拙作『アタシの消失≠スキゾフレニア』で障害を告白し、以来私は随分変わった。
障害者になってからやめていた図書館通いを再開し、活動のネックになっていた被害妄想を、こまめな休憩と人形への語りかけで克服した。
まだ書けると思った。
そんなさなかの、訃報だった。

松山椋さん、ご冥福を心からお祈りします。
そして、ありがとうございました。
貴方のくれたきっかけで、私も素人小説家になれました。

言葉が心の風に乗ったような気がした。


幻の花を守り、いつまでも、いつまでもそこに咲き続けるだろうガラスの睡蓮は、少し寂しげで、でも誇らしげだった。
外に出て見上げた空には太陽が戻っていて、私の目の前をたくさんのトンボが通り過ぎてゆく。
赤、青、緑……。意外とたくさんの種類があるんだな、私がそう思った時。
蝉が一匹、ひるまず懸命に木に向かって飛んで行く。
類まれないパワーとユーモアで疾走した、彼のように。
私は眩しい空を見上げた。
残暑は、きっと太陽がこの為にとってあったのだ。


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このストーリーに関するコメント

15/08/25 冬垣ひなた

≪補足説明≫

メコノプシスはギリシア語で「ケシモドキ」という意味で、麻薬成分などはありません。
普通に育てた場合の開花時期は5月終りから7月頃のようです。

15/08/25 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

私も花や植物が好きで自分でも栽培をしたりしますが、時折
彼らはその環境を選んで咲いてもしくは生きているのではないかと思ったりするのです。
的外れかもしれませんが、人間もまたそうかもしれないと思ったり。
だとしたら青いケシの花は、なぜそんな厳しい環境を選んだのでしょうか?
答えはわかりませんが、一方通行でもそんな会話をしてみることが、ひとときの安らぎであったりします。
いつか機会がありましたら見てみたいものです、メコノプシス。

15/08/25 草愛やし美

冬垣ひなたさん、拝読しました。

そうそう、あの花博へ私は二度も行きましたよ。町内会から斡旋された割引チケットで。あの温室は行けなかったんです、満員で最後まで回れてないのか、記憶がないんです。世界一の大きい花があったのは知っていますが。

記憶しているのは3D映像だけ、あまりに素晴らしいので再度見たくて行ったんです。いい意味でコンパクトで良い博覧会でした。万博の時は人ごみと暑さで死ぬかと思うほど苦しかったので……花博は良い印象がありました。
咲くやこの花館、今度行ってみたいと思います。私もその青いケシを見てみたいです。そして若くして違う世界へ旅立たれた松山さんのことを偲びたいです。

残暑も捉え方次第なんですね、最後の言葉が心に沁みました、ありがとうございます。

15/08/26 松山

冬垣ひなたさん、有難うございました。
夏、青い花、蝉と椋のキーワドが一杯で色々な事を思い出しました。
青いけしの花は、the pillows『OneLLife』の歌詞に出て来るものです。
椋は音楽も好きで中学の頃からバンド活動をしていました。
その中で特にこの歌が好きでいつも、ギターを弾きながら歌ってました。
その事があり、私の会社名は、椋が付けてOne・Lifeと言います。
大変素晴らしい作品を有難うございます。
私の携帯の待ち受けの中、OneLifeの会社の看板前で椋は微笑んでいます。

15/08/27 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

花や植物は見ていると本当に和みますね。成長も楽しみです。
私も1000m台の山には登ります。しんどいですが、頂上は仲間がいて賑やかでそれが楽しみです。
青いケシも孤高の花でなく、繁殖の為に仲間を求め旅立った寂しがりなのかもしれません。
棘を見てるとワイルドで、風に飛ばないよう根も進化したのでしょうか。
そういうことが直接聞けたら、とてもいいですね。
植物との会話を今、友人にも勧められていて、観葉植物から始めようと思っています。


草藍やし美さん、コメントありがとうございます。

花博は人ごみばっかり覚えています。
私も2回行って、2回目に無理やりに咲くやこの花館に行きました。
国際色豊かで、良い博覧会でしたね。
冒頭に蝉の話は決めていたのですが、締めをどうしようか考えた時蝉が飛んだのは驚きました。
椋さんにこうしてほしいと言われたような気がしました。
色んな花の見ごろがあるので、私もまた行こうと考えています。


松山さん、コメントありがとうございます。

このたびは心からお悔やみ申し上げます。
初めて拝読した「お母さんを知らないか」は文学性だけでなく、実際の症例を調べ丁寧に書かれていて、几帳面な方という印象を受けました。
椋さんの作品はいつも衝撃的で、彼の作品から頂いた元気を何とかお返ししたいと思い、書かせて頂きました。
『OneLife』拝聴しました、心に響く素晴らしい曲ですね。
お父様の言葉から青いケシに託された想いを知ることが出来、有難く思います。
きっと椋さんは、天国から今もお父様を見守っているはずです。
まだ暑い日は続きますが、体調を崩されないようご自愛ください。

15/08/29 光石七

拝読しました。
そういうきっかけもあられたのですね……
残暑の風景、ガラスの睡蓮、青いけし。実際に行って目にしたわけではないのに、心にふわっと入り込んできました。
素晴らしい哀悼作品だと思います。

15/08/30 冬垣ひなた

光石七さん、コメントありがとうございます。

読者としても創作者としても、松山椋さんの作品はとても楽しみでした。
この若さで旅立ってしまわれた事を思うと胸が痛みます。
彼が青い花に何を思ったのか、考えてしまうのは小説家の性でもあります。
拙い文章ですが、少しでも空気が伝わって良かったと思います。

15/09/12 滝沢朱音

ヒマラヤンブルー、とても美しくてハッとさせられる言葉ですね。
そのはかなげな青さは、どこか松山さんの生き方を象徴しているような。
冬垣さんから見た松山さん、そして、きっかけ。また違った彼の一面を知った気がします。

それと、同じ小説書きとして、勝手にですが、
冬垣さんにはどこかシンクロするものを感じています。
松山さんのときと同じように、冬垣さんの初投稿の掌編に思わずコメントしたこと、よく覚えています。

お互いマイペースで、これからも書き続けていけたらうれしいです♪

15/09/14 冬垣ひなた

滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。

私もこのヒマラヤンブルーは松山さんの心の片鱗であるような気がします。
この花を読者の方に直に見て感じて頂けるように、追悼作品ですがフラットな描写を意識しました。
今までは読者の延長線上にいた自分が、物書きなんだなと初めて思えた作品です。

私の初投稿覚えて下さっていてありがとうございます、嬉しいです。
不思議なことですが、実は以前私の書いたという長編にも喋る黒猫が登場します。
作風は全然違いますが、成程、病弱な松山さんと私の深層心理は似ているのだなと思いました。
滝沢さんと私も、お互い知らないだけでどこかで繋がる部分があるのかもしれませんね。

マイペース大事ですね、これからも書き続けていけるよう頑張ります。これからもよろしくお願いします。

15/10/09 冬垣ひなた

時空モノガタリKさま、コメントありがとうございます。

松山さんの作品から頂いたものものを、少しでもご家族の方にお返しできたらと思い、このエッセイにさせて頂きました。
物書きでありながら恥かしい話ですが、私はメールなど生の言葉を書くのが非常に苦手で、どうしたら上手く表現が伝わるのか、かなり試行錯誤しました。
私はここで書き始めた当初ネットの活動を親から反対されていて、頂いた賞やコメントや閲覧数を見せ説得していました。
皆様のお力がなければここまで書く事が出来なかったと思います、本当にありがとうございました。
最近他の投稿者様ともお会いする機会がありましたが、このサイト様でのご縁をこれからも大事にしたいと思います。

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