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南野モリコさん

長い休眠から覚め、再始動しました。 よろしくお願いします。 ツイッター https://twitter.com/hugo_6892

性別 女性
将来の夢 一生文章を書き続けること。
座右の銘 非凡な花を咲かせるには平凡な努力をしなくてはならない。

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きっかけコーディネーター

15/08/24 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:0件 南野モリコ 閲覧数:1365

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大学生、ミタニは、時計を見て慌てて飛び起きた。
「何で目覚まし鳴らねーんだよ」

今日は、本命企業の最終面接の日。大急ぎで着替え、バタバタと玄関を出た途端、誰かにぶつかって倒れた。それも朝日に輝く水たまりの中だ。
「ちょっと、気をつけなさいよ」
ぶつかった女は、謝りもせず怒鳴った。見るからに就活中の女子大生だ。
「おい、ぶつかったんだから一言ぐらい謝れよ。このスーツ、どうしてくれるんだよ。これから本命企業の最終面接なのに」
「そっちが勝手にぶつかってきたんじゃない。そんなに大事な面接なら、もっと余裕を持って出かけなさいよ」

なんだこの女!ムカつきながらハンカチでスーツを拭き、時間ギリギリで面接会場に到着すると、隣にさっきの就活女子が。
「なんでお前がここにいるんだよ?」「あんたこそ何でよ?」
面接を終えて帰ろうとすると、エレベーターの前にまたしてもあの女がいた。がっくりと頭を下げ、溜息をついている。あれ、よく見ると意外と可愛いかも。
「何見てんのよ」「バ、バカ、誰がお前なんか」

二人は無事に内定をもらい同期入社した。配属先も同じ。些細な事で口喧嘩ばかりする二人だったが、同期の仲間や上司、先輩、取引先の相手とのややこしい三角関係を経て、ようやく自分の気持ちに気が付き、

「好きだ」

固く抱きしめ合うと、星が輝くオフィス街をバックにキスをしてハッピーエンド。…の筈。



ここは「きっかけコーディネーター事務所」。恋人ができない、やりたい仕事が見つからない、など、迷える青春を過ごす若者たちに、人生が希望に溢れる【きっかけ】を提供するのが「きっかけコーディネーター」ヨシザワの仕事だ。

今日のクライアントは、彼女いない歴22年の大学生ミタニ。「恋のきっかけ」は、ヨシザワの得意分野だ。就職活動中という現状と彼の性格と傾向を分析し、また、過去の膨大なデータを駆使して、ミタニ専用「きっかけ企画書コードMY」を作成した。

しかし、依頼主のミタニは、「きっかけ企画書コードMY」に不服そうな顔をした。
「最悪な出会いをした2人が喧嘩しながら恋に落ちていくっていうのは、一番人気がありる【きっかけ】ですよ」
「でも、ありがちなパターンじゃないですか」
「ありがちなのは、ドラマの中だけです。現実にはこんなこと、滅多に起こりません」
「でも、このアイコさんて女性、僕のタイプじゃないんですけど」

それは最初に説明したでしょう。と、ヨシザワは、喉元まで出かかったセリフを引っ込めた。

「きっかけコーディネーター」とは、好みの女性を紹介するのではなく、あくまで【きっかけ】の段取りをするのが仕事。好きになるのもならないのも全て【きっかけ】次第。親から「勉強しなさい」とガミガミ言われたことで、勉強嫌いになる子供、多いでしょう?

「きっかけコーディネーターは、長年の実績と経験により、依頼主様と彼に関わる皆さんが満足できる【きっかけ】を全力でプロデュースさせて頂きます。タイプじゃない、なんて言っていますが、ミタニ君とアイコさんは必ず恋に落ちます。それは、私どもの長年の経験と実績から、自信を持って断言致します」

ヨシザワがそこまで言い終えると、ミタニは数枚の書類をカウンターに出した。
「実は僕、こういうこと考えるの得意なんですよ。僕が考えた【きっかけ】プラン、見てもらえますか?」

「きっかけ希望リスト」とボールペンで書かれたリストに目を通すと、ヨシザワは呆れて言った。
「殺人犯を探している刑事が殺された男の娘と恋に落ちるなんて、あなた刑事ですか?それに、無人島に流れついた男女って、こんな【きっかけ】作ったら大問題です。もっと、安全で、現実にありそうな【きっかけ】を考えて来て下さい」

彼女が欲しい一心のミタニは、家に帰り言われた通り現実にありそうな【きっかけ】を考えようとペンを持った。しかし、頭に浮かぶのは、難病に苦しむ女性の前に現れた天才医師とか、無敗のボクサーを支える美人マネージャーの恋とか、爆撃に逃げ惑う中での出会いとか、ふと、およそ現実離れした【きっかけ】ばかり。ふと、ミタニは自分自身を見つめた。つまり俺は、平凡な人生では飽き足らない人間なのでは?



20××年、人気絶頂のアイドル女優、堀北サトミの電撃結婚が報じられた。相手は、一般にはまだ無名だが、映画ファンには絶大に支持されているという、新進の若手脚本家ミタニシンジだ。

「二人の出会いは?」
芸能レポーターにマイクを向けられ、
「僕の最初の脚本を彼女が手伝ってくれたのがきっかけでした」
照れくさそうに答えたのは、間違いなく、あの大学生ミタニだった。ミタニは、「きっかけ企画書」をきっかけに、脚本家の道を進んでいたのだ。

記者会見をテレビで見て、ヨシザワはニヤリと笑った。


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