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ふたさん

今ほしいものはまず表現力、そしてきちんとしたプロットを立てられる計画性と、勢いを保持したまま最後まで書き続けられる頭の力。あと、しなやかな脚を持ったうるわしいおねえさまがほしいです。蹴り倒されたい。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 ジェントルマンな馬車馬であれ。

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まつり

15/08/23 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:2件 ふた 閲覧数:1134

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 私は自分の名前が嫌いだ。そう訴えれば、親がくれたものに文句を言うんじゃないとたしなめられる。しかしどう捉えても、真剣に考えてつけたものとは思えない。
 名前は、まつり。生まれたのは、村の伝統的な祭りの日だった。

 祭りの当日には、誕生日だからという意味不明な理由で一番に鐘を撞かされる。面倒くさいことこの上ない。
 幼馴染みの草太は昔から、私の出生に関して勝手な想像をしてはからかってくる。
 草太いわく、私は神の子で、成人したら神の元へ帰されるのだそうだ。それまでは祭りの日に一番に鐘を撞き鳴らすことで子の無事を伝えているのだと。
 ばかな話だ。それを聞いた当時、本気で怖がった自分もばかだ。そもそも鐘を撞いたのが誰かなんて分かるわけがない。
 草太は小さな頃からそうやって、私をからかっては面白がる。たまに度を越してしまい、私が泣くと、草太はおろおろしながら慰めてくる。そうして懲りずにまたからかってくる。
 そんなことを繰り返しながら、私たちは大きくなってきた。今年で草太と私は十六になる。

 鐘つき堂から下りると、村で一番の年長者が声をかけてきた。祝いをしたいから、祭りのあとで家に来るように言う。めんどうだな、と思っていると、いきなり背後から腕を引かれて、砂利の地面で足を滑らせ転んでしまった。
 切羽詰まった顔の草太が、あわてて私を助け起こし、なおも腕を引く。わけがわからないまま、ついて走る。
 口を開いたのは、空き家に隠れてからだった。息を切らしながら、言う。
「まつり、逃げるぞ」
「はあ?なんで、てか、なにから?」
 意味わかんない、と文句を言うと、草太は真剣な顔で、私の目をまっすぐに見つめた。
 全体的に色が濃く顔立ちもはっきりしていて、活発な草太はよくもてる。
 幼馴染みの私にとってはただのいじめっ子だけれど、こうして余裕のなさそうな表情で見つめられると、心臓が落ち着かなくなる。
 ぶんと腕を振ると、草太の手は離れていった。
「さっきな、聞いたんだ。親父たちが話してるの」
 いったん道路に出てあたりを念入りに見回し、再び戻ってきた草太は、私の心臓の乱れに気付く様子もなく耳元で話し出す。
「だから、何を」
「おまえの名前の、由来」
 その言葉にはっとして顔を上げると、草太は私の両肩に手を置き、逃げるぞ、と言った。確かめるように、言った。
 肝心なところがまだ聞けていないせいで、逃げる理由も分からないのに、確かめるもなにもない。
 それなのに草太は私をつかんで空き家を飛び出し、走り出してしまった。

 途中、すぐ近くから両親の呼ぶ声が聞こえて、びくりと身がすくむ。
 ――まさか。
 まさか、本当に私は神の子で、成人したら捧げられるのだろうか。だから両親は私を探しているのだろうか。
 そんなわけがないと思いながらも、想像が止まらない。
「草太、待って、お願い、まって」
 泣きそうになりながら呼ぶと、振り向いた草太はぎょっとして立ち止まり、脇道に隠れた。おろおろと慰めてくる。いつもの草太だ。たぶん、私を村から逃がそうとしてくれているのだろう。
 なに、なんなの草太、なんで逃げるの、と子どものように泣きじゃくっていると、草太もいっぱいいっぱいになってしまったらしく、ああもう!と声をあげて、私の肩をつかんだ。
「だから!おまえの家とおれの家とは表面上は仲良くしてたけど本当は何代も前から仲が悪くて、だからおまえをまつりって名前にしやがったんだよ!わかるか!?」
 わかるわけがない。
 ぽかんとして草太の顔を見つめる。草太はポケットからハンカチを取り出して私に押し付けると、また走り出した。
 息が切れて、動きが鈍くなっていた頭が、徐々に回転しはじめる。
 ――もしかして。
「草太」
 呼び止めると、また泣いているのかと思ったのだろう、草太はすぐに振り向いた。私の顔を見て安心したらしく、なんだよ、と問うてくる。
「後野草太くん」
 こたえはせず、フルネームで呼びなおす。
 無言で固まる草太に、あとのそうた、と、もう一回。

 つまり、そういうことだ。
 折り合いの悪い両家は、偶然同じ年に生まれた男女を間違ってもくっつけたくなかった。幸い、男の家は後野。だから、女の名前をまつりとしたのだ。
 ――そして、それを嫌がっているということは。
 私がわかってしまったことに気付いたらしく、草太は耳まで赤く染めている。いくら草太でも、後先考えずにここまで来たわけではないだろうに。
 いや、後先考えたからこそ、肝心なところで勇気が出なくて固まっているのか。
 でも、今更やめようとしても、ておくれだ。
 遠くで鐘の鳴る音がする。それを合図と決めていたかのように、草太が手を差し出した。日に焼けた手が、ふるえている。
「あとのまつりに、なってください」


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このストーリーに関するコメント

15/08/24 クナリ

疾走感が(文字通り)あって読み味のいい作品でしたが、最後の告白はちょっと唐突な感じがしました。
このラストにするんであれば、二人の感情の動きがもっと描かれていれば、さらに良かったかと思います。

15/09/06 ふた

◎クナリさま
読んでくださりありがとうございます☆
そして的確なアドバイス、感謝いたします。感情の動き。しっかり描けるように精進してゆきますので、またコメントをいただけると…ありがたい、です(ちゃっかり)。

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