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リアルコバさん

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白い花

15/08/22 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1069

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「おめでとうございます。初めての決勝で初優勝、そして最年長初優勝の記録ですが今のお気持ちは」
 モトGP500 日本最高峰のバイクレースの表彰台で俺は興奮していた。
「27歳でデビューとは随分遅咲きですがキッカケはなんだったんですか」
 キッカケと云う言葉を聞いて思わず答えてしまった。
「聡のおかげです」


 今から13年前、高校3年の夏。俺は族にも走り屋にもなれない平凡なバイク乗りだった。親友の聡はバイク屋の息子で、親父がレーサーだったらしく既にサーキット走行をしていたが、よく二人で峠を攻めに行ったもんだ。勿論俺はいつも置いていかれるだけだったが。

「なぁ卒業したらどうするんだ?」
「一応受験する。受かったら東京の大学生さ、お前はレースやるの?」
「なんか今大変らしい、スポンサーも付かねぇしウチなんかじゃとてもワークスにはなれねぇしよ。でも俺は俺のままいつでも何処でもバイク乗りさ」
 屈託なく笑う聡が羨ましかった。自信に満ち溢れていたから。

 あの日いつものように峠に入り、いつものように聡が言ったんだ。
「じゃ、上で待ってるから事故らないで来いよ」
 そういつもの場所でアクセルを開けて最初のコーナーに突っ込んだその時、聡のマシンの後輪がズルリと滑ったのが見えた。(ヤバイ)
 そう思って速度を上げると、ツーッとバイクが山側に、そしてライダースーツの聡が真っ直ぐに路面を滑っていた。その時俺は少し安心したんだ。聡がこっちを向いて親指を立てたから。フルフェイスのメットの中はきっと笑ってるんだって。
 流石に時速100k近くで転倒したんでなかなか止まらなくてね、先にバイクが斜面に当たってグシャッて音がした。その次に・・・
 聡のヘルメットがガードレールの支柱に カスッって音を立てた。ほんのちょっとかすっただけに見えたんだ。
「聡、大丈夫か」
 雑木林側に少し落ちた処で名も知らぬ白い小さな花の中に横たわる聡は、ピクリとも動かない。ヘルメットを脱がそうとしたら、首がグニャグニャしてね。慌てて救急車と聡のオヤジに電話した。蝉時雨の中いつまで待たせるんだってくらい長い時間だった気がする。
 親父さんがね、
「世話かけちまったな。宿命だよ。俺も何人か見てるけどそれがたまたま・・・たまたま俺の息子だったって事だ」
 バイクをトラックに釣り上げる間、唇を噛み締めて作り笑いをしてたっけ。

 大学を出て普通に就職して、3年前に鈴鹿って街に転勤になってね。通勤手段にはバイクが便利なんでまた乗り出した。乗り出したらやっぱり楽しくていつの間にかバイクショップに入り浸るようになったある日、そこの社長が言ったんだ。
「困ったなぁ、実は来月サーキットでのデモ走行、まぁ素人の草レースなんだけどさ、ウチのライダーが骨折しちゃってさ、エントリー期限も迫ってるからお前出てくれないかな、いや軽いデモだからウチのステッカー貼ったこのカタナでゆっくり走ってくれればいい。順位なんてどうでもいいんだ」
 《カタナ》SUZUKIGSX750Fは聡が乗っていたバイクだった。無理ですよ、と言いつつもちょっとやってみたいかなって、ほんの軽い気持ちで引き受けた。
 当日はよく晴れた暑い日だった。アスファルトに陽炎が見えてね。ほんと草レースはゆっくり安全に行われてた。いよいよ俺の出番、最初のコーナーで一応ハングオンの真似事した時、コース内側の縁石の端に小さな白い花が見えたその時だった。
「もっと攻めろよ根性なし、ほらもっとアクセル開けて後輪にテンションかけて、大丈夫良く仕上がってるぜこのマシン、行けよ、ほらそうもっと寝かせるんだ」
 白い花を見る度に聡の声が聞こえてた。言われる通り俺はカタナを操った。
「凄いじゃないか君、ワークスでも上位に入れるタイムだぜ、本格的にやってみないか・・・」


「聡さんと云うと?」
なんだかシラケ切った表情でインタビュアーがマイクを向ける。
「いや親友がね、親友が俺をライダーにしてくれたんですよ」
「そうですか、ご親友は今日はスタンドにいらっしゃるんですか?」
「えぇスタンドじゃなくこのサーキットにね、居るんですわ」
またもやポカンとしてインタビューは終わった。
(聡、お前がいつか獲りたいって言ってたモトGPのカップ獲ったぜ。もういいだろ、帰ろうや、親父さんとこにこのカップ持ってさ、帰ろうや。)


 俺はそのレースで引退した。カップを持って聡の親父さんのバイク屋で働かせてくれって頼んだんだ。
 ワークス気取りで地元の草レースには出るけど今じゃ只のおっさんレーサーさ。
(なぁ聡、今年の夏も暑いなぁ)


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