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海見みみみさん

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『美麗眼の巻』眼球紳士・短篇集02

15/08/21 コンテスト(テーマ):第六十一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:1295

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 これは様々な眼球の眼球による眼球のための物語(フィクション)である。



 僕の名前は眼球紳士。名前の通り、世界一の眼球コレクターだ。僕の屋敷には大量の眼球が、特別に調合された薬剤に浸かり、保管されている。
 なぜ眼球を集めているのかって? そんなの決まっているじゃないか。眼球が美しいから。ただそれだけだ。
 今回はそんな僕の眼球コレクションの中から一つ、とっておきの物を紹介しよう。ほら、この眼球を口に頬張って舐めてごらん。すると記憶が浮かんでくるはずだ。さて、今回はどんな記憶が浮かんでくるかな?



 彼の名前は渡辺宗一郎。大学二年生だ。
 彼には彼女がいる。赤城涼子、同じ大学に通う同級生だ。赤城涼子には心臓に持病がある。だがそれ以外はいたって普通の女の子だ。
 大学の講義を終え、宗一郎と赤城涼子は二人で揃ってデートに出かけた。今日のデート先は近所の公園だ。手を握り合いながら、二人は公園のベンチに腰掛ける。
「お弁当作ってきたの。良かったら食べて」
「ありがとう。いただくよ」
 赤城涼子の言葉に宗一郎が嬉しそうにほほ笑む。お弁当箱を受け取ると、早速その中身を見て感嘆の声をあげた。
「わあ、おいしそう! これ、食べていいんだよな?」
「もちろん」
 その言葉を受けて、宗一郎がお弁当に箸をつける。少し形の崩れた卵焼きを宗一郎は一口で食べた。
「うん、おいしい! この卵焼き俺の好みだよ!」
「本当?」
「もちろんさ。これなら涼子は良いお嫁さんになれるな」
「もう、宗一郎ったら」
 そう言い合って二人はいちゃつく。実に見ていて甘ったるい光景だった。

 その日の帰り道、宗一郎は赤城涼子を家に送ると、一人歩き始めた。
 家の近く、人通りの少ない道を歩いていた時の事。宗一郎に声をかける人物がいた。
「やあ、こんにちは。いや、もうこんばんはかな?」
 その人物は頭にシルクハットをかぶり、黒いジャケットを着こなしていた。右目は髪の毛に隠れてよく見えないが、左目は凛としていて美しさを感じさせる。その青年はどこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
「失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
「いや、これが初対面だよ。僕の名前は眼球紳士。その名の通り眼球を愛する眼球コレクターさ」
 青年、眼球紳士はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。宗一郎は恐怖を感じたのか、一歩後ずさる。
「そう怯えないでくれ。僕はただ君の眼球を買い取りに来ただけなんだから。君の持つ美麗眼をね」
「なんですか、それは」
 わけがわからないのだろう。宗一郎はそう尋ねる。すると眼球紳士は口元を曲げたまま説明を始めた。
「人によって世界の見え方は異なってくる。例えば色盲の人間が特定の色を見ることができないようにね。君の持つ美麗眼はその逆。一般人をはるかに超える感覚で世界を見る事ができる。君が見ている世界は、常人が見ている世界の数千倍は美しいはずだ」
 その言葉に思い当たるところがあるのだろう。宗一郎の額から汗が流れる。
「それだけ美しい世界を見ることができる美麗眼、ぜひ買い取らせていただきたい。三百万円でどうだろうか?」
「ふざけないでください!」
 宗一郎が声を大きく張り上げる。彼が怯えているのは一目見てすぐわかった。
「確かに僕の瞳は人より少し変わっているかもしれない。でも、だからと言ってそれを売る気なんて一切ありません!」
「そうか、それは残念だ」
 すると眼球紳士は思いのほかあっさりと手を引いた。
「まあ、僕に眼球を譲る気になったらいつでも呼んでくれよ。呼んでさえくれれば、僕はいつでも君の元へ現れるからさ」
 そう言って眼球紳士はその場から去って行った。

 翌日、宗一郎は昨日の出来事を引きずりながら大学へと向かった。その顔色は悪く、普段と明らかに違う。それには恋人である赤城涼子もすぐに気づいた。講義中、赤城涼子が宗一郎に声をかける。
「どうしたの? 何か様子がおかしいけど」
「昨夜、悪夢を見ちゃってさ。それでどうにも気分が落ち着かないんだ」
 宗一郎はウソをついた。きっと眼球紳士なんて存在、言っても信じてもらえないと思ったのだろう。
「そう、それならいいけど」
 赤城涼子は少し腑に落ちないような表情を浮かべながらも、そこで話題を打ち切った。
 宗一郎もそれ以上は語らない。だが小さな声で「ありがとう」とだけつぶやいた。それに赤城涼子は満足している様子だった。

 きっとこの時、宗一郎は自分の眼球を売る気なんて一切なかっただろう。いくら大金が手に入ろうと、自分の眼球を売るのには抵抗があるからだ。
 だが事態は一変する。恋人である赤城涼子が、持病である心臓の病で倒れたのだ。

 その日、宗一郎は赤城涼子のお見舞いに向かった。入院先の個室へと入る。すると赤城涼子は笑顔で迎え入れてくれた。
「今日は来てくれてありがとう」
「恋人なんだから、お見舞いくらい当然だろう」
 宗一郎が冗談を口にしておどける。すると赤城涼子は小さく笑い声をあげた。
「本当にありがとう。私、宗一郎が恋人で幸せだったよ」
「なに過去形で言っているんだよ。これからも俺達は付き合い続けるんだろう?」
「ごめん、どうもそれ無理みたい」
 唐突に放たれた言葉。それに宗一郎の表情が変わった。
 赤城涼子は語りだす。自分の病気は手術する必要がある事。しかし手術は特別なもので、費用に四百万円程かかるという事。そしてそんなお金は赤城涼子の家にない事。
 つまり赤城涼子の余命はもう残り少ないのだ。
「ごめんね、今までずっと黙ってて。もう私長くないから、だから私の事はもう忘れて」
 赤城涼子がそう涙ながらにつぶやく。
 途端に宗一郎はその場から駆け出した。

 人通りの少ない裏路地。そこで宗一郎は叫んだ。
「眼球紳士! 出てきてくれ! 俺の声が聞こえているんだろう?」
 そう宗一郎は問いかける。すると数秒も待たずに、眼球紳士はその姿を現した。
「どうもこんにちは。僕に何の用かな?」
「俺の目を買ってくれ! 両目ともあんたに売りたい」
「ほう」
 それから宗一郎は眼球紳士に事情を説明した。それに眼球紳士は納得のいった表情を浮かべる。
「そういった訳なんだ。だからこの眼球を四百万円で買って欲しい」
「それは困ったな。僕の提示している金額は三百万円だ。もう百万円出すのはこちらとしても厳しい」
「そんな、頼むよ。どうしても早急に四百万円が必要なんだ。四百万円もらえるなら、なんだってする。だから!」
「それじゃあ、君の命をもらうと言ったらどうするのかな?」
 眼球紳士の言葉に宗一郎の顔色が変わる。それを見て眼球紳士は深くため息をついた。
「命を差し出すことすらできないのに、なんだってするなんて言うものじゃない。君には覚悟が足りなさ過ぎる」
 辛辣な眼球紳士の言葉。それに対し宗一郎は、
「わかった俺の命を譲るよ」
 覚悟を決め、そう口にした。
「俺の命一つで四百万円が手に入るんだろう? だったら、こんな命、いくらでもくれてやる!」
 宗一郎が叫び声をあげる。すると眼球紳士はひとつため息をつき、持っていた鞄の中から札束を取り出した。
「わかった。そこまで言うなら四百万円を君にあげようじゃないか」
 それはつまり宗一郎の命をもらうという事だった。宗一郎は覚悟を決め、直立する。
「さあ、俺の命を奪ってくれ! 涼子が助かるなら、俺の命なんて!」
「おっと、勘違いしてもらっては困るよ」
 すると眼球紳士は宗一郎を壁際に追いやり、顔面すれすれの距離で話し始めた。
「僕は眼球紳士だ。眼球以外には興味ない。つまり君の命にも興味はない」
「それじゃあ、なんで?」
「『幸福の王子』という童話を知っているかい? 僕はあれが大嫌いでね。自己犠牲の精神なんて糞食らえだ。それに」
 さらに眼球紳士が言葉を続ける。
「君には愛すべき彼女がいるのだろう? 女性を泣かせるのは紳士として恥ずべき事だ。眼球をもらうのは、君の死後にさせてもらうよ。それまでに、君はその美麗眼で美しい風景をたくさん記録しておくように、ね」
 そう言って眼球紳士が姿を消す。四百万円を受け取った宗一郎は、ただ「ありがとう、ありがとう」とつぶやいた。



 いかがだったかな? これがこの眼球に秘められた記憶だ。
 その後、赤城涼子の手術は成功。二人は幸福に暮らしているらしい。実に良い話だ。
 あれ、どうやら君は納得がいっていないようだね。今、目の前にある眼球、それが誰のものなのか。それが疑問の正体だろう。
 この眼球は渡辺宗一郎をストーキングしていた女の眼球だ。何を驚いている。君は今までずっと彼女の語りを聞いていたじゃないか。
 美麗眼の価格が三百万円、それにストーカーの眼球がオマケで百万円。これで計四百万円だ。
 その後ストーカーがどうなったかって? それは君の想像に任せるよ。まったくモテる男というのは辛いものだね。あはは。


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