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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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小さな宇宙

15/08/20 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:13件 草愛やし美 閲覧数:2223

時空モノガタリからの選評

「ばあちゃん」の人柄がとても魅力的ですね。幼い頃の温かな人との交流は、人生を動かす原動力となっていくものなのでしょう。天窓で縁取られた星空が美しく、宇宙、愛する家族との絆、そうしたものがと暖かく描かれていて魅力がありました。

時空モノガタリK

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 幼い頃、ばあちゃんの家で僕は宇宙に出会った。

 その日、ばあちゃんは田舎から上京してきた。だけど、いつものように大根も白菜も背中に背負っていない。僕はばあちゃんは必ず野菜のリュックを背負ってくる人だと思っていたので不思議で仕方なかった。きっとリュックを忘れてしまったのだろう。
 大勢の知らない人が黒い服を着てやってきた。ばあちゃんも黒い着物を着ている。たくさんのお線香がともされ煙たかったことはよく覚えている。白い着物を着たかあさんは箱の中で瞳をしっかり閉じ眠ったままだった。
 それからすぐに、僕はばあちゃんに背負われて駅にいた。絵本でみたことがある格好いい電車が次々やってきては出て行く。嬉しくて駅のホ−ムで目を輝かせていた。「新幹線だよ」 とうさんが教えてくれた。僕とばあちゃんは青と白色をした電車に乗りこんだ、電車の窓の向こう側に立ったとうさんが泣きそうな顔をしている。どうしてとうさんは一緒に電車に乗らないんだろう、なぜだかわからないまま、とうさんはどんどん小さくなって見えなくなってしまった。いつの間に眠っちゃたのか僕はばあちゃんに背負われていた。気がつくと畑だけしか見えない、田舎に来たんだよとばあちゃんが言う。

 僕はずっと泣いていた。かあさんがいないのが嫌だった。いつも僕が泣くとすぐに抱っこしてくれたのに。ご飯になってもかあさんは顔を見せない。どうして僕は田舎に来ているのだろう。どうして来てしまったんだろう。わけがわからず、泣くしかなかった。泣くだけ泣いて、また寝ていたみたい。目が覚めた時、ばあちゃんのしわだらけの顔がすぐ横にあってびっくりした。ばあちゃんはニッと歯を見せて笑う、しわだらけなのに、かあさんみたいにペコリとへこむホッペが同じだった。

 いつの間にか暑い夏がやってきていた。暑さで夜中に目が覚めた僕は蚊帳を抜け出して土間に行った。土間は板の間になっていて床に寝転ぶと冷たくて気持ちが良い。じいちゃんは虫が来るから駄目だって言うけれど、板の間は居心地が良いと知ってからは蚊帳よりもここが好きだった。ゴロリと仰向けに寝転がると四角に切り取った不思議な空間が見えた。いつの間にかばあちゃんもやってきて僕の横に仰向けになった。
「坊、何見ている?」
「あそこ、穴が空いてるよ、ばあちゃん」
「あれはな、天窓っていうんだよ」
「きらきら光ってるの何?」
「あれは星だよ」
「星ってどこにあるの」
「遠いところだよ」
「どうして光ってるの?」
「こっそり合図しているんだよ」
「誰が合図してるの?」
「坊のかあちゃん……」
 それきり、ばあちゃんは何も言わない。横に並んだばあちゃんの目が星みたいにキラキラ光ってしわだらけのホッペが濡れていた。

 小学校へ行く前に僕は迎えに来た父さんと共に都会へ戻った。家にはかあさんでなく、違う女の人がいた。新しいかあさんになった人も笑顔の優しい人だったけど、ばあちゃんは一度もやって来なくなった、僕自身も十八歳にじいちゃんの葬儀で再び訪れるまで田舎に行くことはできなかった。
 
 じいちゃんの葬儀が終わって親戚の人々が一人二人と帰っていく。だけど僕は、ばあちゃんのことが心配でなかなか家に戻れなかった。ある夜、ばあちゃんは土間で仰向けになって天窓を見ていた。僕も横に寝転んだ。天窓からあの頃と変わらず星が瞬いているのが見える。
「ばあちゃん、あの天窓は天上に繋がっている小さな宇宙だね」
「宇宙か、そりゃ凄いね」
「うん、僕は宇宙を研究する人になろうと思っているんだ」
「坊の言う宇宙から、星になったじいちゃんもかあちゃんも合図しているはずだよ。ばあちゃんもいつの日かきっと、坊に合図するよ」
 小さな宇宙がぼやけて滲んだ。真っ暗な土間で二人、瞬く星をずっと眺めていた。どれくらい経っただろう。ポツリとばあちゃんが言った。
「坊、そろそろお家にお帰り。ばあちゃんは大丈夫だから。大学で宇宙の勉強を頑張るんだよ」
 僕は「うん」とだけ答えたけど、それ以上何も言えなかった。本当は「ばあちゃん、その日が来たら、きっと宇宙に行って合図見るからね」と答えたかったのに……。

 ◇

「宇宙飛行士になったきっかけは、ばあちゃんの家で小さな宇宙と出会ったからです」
 あの天窓を想い乍ら、いつも僕はそう答える。

 ばあちゃんの声が今も蘇る
「ばあちゃんはきっと坊に合図するからな、宇宙で待っているよ」




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このストーリーに関するコメント

15/08/22 泉 鳴巳

使い古された表現で恐縮ですが、まさに「一行目から惹き込まれて」しまいました。自分もお祖母ちゃん子だったので共感できるところも多く、じーんときてしまいました。
「宇宙のことを考えると怖くて眠れなくなる」なんて良く言いますが、「僕」にとってはきっと、宇宙を考えることは家族を想うことなんじゃないかな、なんて思いました。

15/08/22 鮎風 遊

小さい頃に天窓がありました。
暗い家に直線で陽が差し込み、夜は仰る通りです。
星が見えました。
主人公の心に刻まれた天窓がジーンと来ますね。

15/08/22 松山

有難うございました。
椋が少し前に『天体望遠鏡で星を見る』と言って夏空を眺めているの思い出しました。本人もおばあちゃん子で、いつも仕事の帰りにはおばあちゃんの家に寄って帰ってました。私も今晩空を見てみます。

15/08/23 メラ

草藍さん、拝読しました。
冒頭のつかみの部分、さすが上手い!ぐいっと物語に飲み込まれます。
天窓の宇宙。子供の頃見たものって、まるでそれが「世界のすべて」のような気がしてしまいますよね。そしてその世界を追って、大人になる。素敵なお話しでした。

15/08/24 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

いいお話ですね。
避けては通れない大切な人の死というものが、小さな宇宙によって
昇華され、未来へまでもつながっているような気がしました。

15/08/24 泡沫恋歌

草藍やし美 様、拝読しました。

一行目の文章は美しくて魅力的ですね。

いつも思うんですが、草藍さんは感情を掴むのが実に上手い!
読んでる人が思わず物語の中に感情移入してしまい、まるで自分の体験のように感じさせる
そういう魔法にかかってしまうのです。

私はこのお話がとても気に入りました。ありがとうございます。

15/08/26 滝沢朱音

宇宙飛行士になろうとか、何かになろうという夢って、
案外ふとしたきっかけで抱くものなのですよね。
天窓を通した宇宙。お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんのいる宇宙。
他の皆さまもおっしゃっていますが、最初の一行目、すばらしいです。
最後らへんは、じわっと泣けてしまいました。

15/08/28 光石七

拝読しました。
母親の死を理解できないほど幼い頃に出会った小さな宇宙が、主人公の夢の原点になったのですね。
ばあちゃんとのやり取りとか、主人公の各成長段階での思考や言動とか、描き方が本当に上手いと思います。
素敵なお話をありがとうございます!

15/08/30 つつい つつ

とてもやさしくて、登場人物それぞれが慈しみ合っていて、胸にジーンときました。

15/08/30 kotonoha

草藍さま、拝読しました。
私は母の里、祖父母の養女になりました。
大好きなおばあちゃんを最期を看取りましたのでこの小説を読ませていただき涙が出ました。

ばあちゃんは亡くなった爺ちゃんや娘さんがキラキラ光る星になって耀いていると今夜も天窓を見ていることでしょうね。

15/10/11 草愛やし美

コメントくださった皆様、返信が大変遅くなり申し訳ありませんでした。

>泉鳴巳さん、コメントありがとうございます。
この作品はかなり前にツイッターを始めた頃に、140文字で描くツイッター小説として書いたものを今回膨らませて掌編に仕上げたものです。
ツイッター小説は30ほど書いたのですが、中でこのお話が自分の一番気に入ったものでした。おばあちゃんって優しくて文句なしに孫に味方してくれますよね、人がどこかで救われる最高の居場所かなと思います。

>鮎風遊さん、コメント感謝しています。
私も幼い頃は古家でしたが天窓のある家に住んでいました。20歳頃までその家にいましたが、当時は存在を意識もしなかったですが、暗い土間を明るくするのにたいそう役立っていたなあと今になって思い出しています。家の中で空を見られるのは凄い贅沢だったかもですね。

>松山さん、お読みくださってコメントをありがとうございます。
松山椋さまは天体望遠鏡の写真も載せておられました、今回このテーマをいただきました折に思い出しこの設定で書かせていただきました。松山椋さまの作品から溢れていた情熱を捉えまして、追悼として前向きで明るい素材をと思いました。松山さまはおばあちゃん子でいらしたのですね、この話を書けて良かったなあとしみじみ思っています。

>メラさん、コメントありがとうございます。
冒頭は最後に思いつきましたが、褒めていただきとても嬉しいです。天窓はどこか不思議な空間だと思います。あんなに小さいのに邪魔するものがなく真っ直ぐ宇宙に繋がっているような感覚になります。小さい空間だからこそかもしれませんね。

>そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。
褒めていただき励みになります、最近は書くのに悩みなかなか進まないのですが、この作品は思い立って結構スラスラと書けたように思います。

>泡沫恋歌さん、褒めていただき舞い上がってしまいます、恋歌さんにそう言っていただけ大変光栄に思います、ありがとうございます。
感情はたぶん自分自身が感激屋だからかもですね、映画やテレビなど見て感情が高ぶるともう抑えられず泣いてしまう人です。この歳になってと思うと恥ずかしくてバレナイように必死になって涙拭いていますわ。苦笑 

>滝沢朱音さん、案外ふとしたきっかけで道が決まるってあります。私自身、小説を書き始めたきっかけは単純なものでした。ネットで知り合って私の書いた数編の詩を読んだ方に、「君、詩だけでなく小説も書いてみたら」のひと言でした。いっぱい書いていたわけでもないのに、小説を書くなんてできないと思ったんですが、全く架空の世界を描くことは面白かったです。でも、その方に褒めて貰えなかったら今のように書き続けてなかったと思います。今はもう交友もなくなった方ですが、良いきっかけをくださったのを感謝しています。コメントいつもありがとうございます。意欲に繋がっています。

>光石七さん、おばあちゃんの存在あっての話だと思います。ありがたいですよね、自分のことを思ってくれる誰かがいるって……松山椋さまのお父さんのお気持ちを思っていまして自然にこの話に辿り着きました。コメントありがとうございました。
 
>つついつつさん、お読みいただきコメントをありがとうございます。励みにして精進したいと思っています。

>kotonohaさん、お忙しい中をいつもこちらまで読みにきてくださり大変感謝、いつも意欲いただいております。おばあちゃん子でいらしたkotonohaさん、優しい方と出会えた人生はその人にとって財産になると思います。コメントありがとうございました。

>志水孝敏さん、お読みくださってありがとうございます。
きっかけのテーマ、初めはなかなか出て来なくて悩みましたが、出だしを書いてからはスラスラ書けたのは有り難かったです。最近は筆が進まないのですが、きっかけというテーマが良かったのかもですね。コメントありがとうございました。





15/10/11 草愛やし美

時空モノガタリKさま、初め運営事務局のみなさまへ

受賞でき大変嬉しいです。きっかけのテーマでしたが、私自身この作品に受賞できたことが創作への示唆のように感じています。
実は最近は全く筆が重く書けないと悩む毎日でした、お恥ずかしいことですが鼓舞しても意欲が失せる一方でもう創作をやめてしまおうかとさえ思っていました。
でも、松山椋さまの訃報に衝撃を受けました。24歳の若さで書くことを諦めなければならなかった作家さんのことを思うと胸が痛みます。どんなに描きたかったことでしょう、才能もおありになられた松山椋さま、彼の無念さ悔しさを思う時、書ける場にいる自分はどれほど贅沢なことなのだろうと思いました。
きっかけをいただいたのは私自身です。私は頭がボケて書けなくなるその日まで書いていきたいと思っています。相変わらずの遅々とした筆ですが、それでも松山椋さまにいただいた何かを残せる幸せを感じとり、きっかけの場をいただいてた時空モノガタリさんに感謝し日々進んでいけたらと思っています。選評をありがとうございました。

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