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蒼樹里緒さん

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性別 女性
将来の夢 趣味と実益を兼ねた創作活動をしながら、気ままに生活すること。
座右の銘 備えあれば患いなし/一石二鳥/善は急げ/継続は力なり/思い立ったが吉日

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剽窃者の言い訳

15/08/18 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:1379

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 数か月まで、僕には好きなゲームがあった。インターネット上でブラウザを立ち上げればすぐにプレイできて、システムのほとんどが自動で済むという手軽さは、周りの人たちにとっても暇潰しにちょうどよかったんだろう。利用しているSNSもそのゲームの話題であっという間に埋め尽くされて、僕も次第に興味を持っていった。
 ――そんなに面白いのかな。
 公式サイトを見てみると、確かにコンセプトにもキャラクターデザインにも目を惹かれ、軽い気分転換にやってみようと思い立った。アカウント登録し、チュートリアルをクリアしてゲームを進めていったものの、予想していたよりも自動でできる要素が多すぎて。その上、シナリオもキャラクターたちの短い掛け合い程度の薄いものしかなくて驚いてしまった。拍子抜け、といったほうが正しいかもしれない。
 こんなに薄っぺらい内容のものを『ゲーム』と呼んでいいのか。最近はスマートフォン用のゲームアプリもたくさん配信されているし、初心者にも簡単なシステムだから、わざわざブラウザゲームというかたちにした必要性もあまり感じられない。開発側は、一体どういう方向性で作ろうとしているんだろう。
 ――サービス開始したばかりだからかもな。もうちょっと待ってみよう。
 そう考えて自分を納得させ、好きなキャラクターを育てることだけを楽しみに、のんびりとプレイを続けていた。
 けれど、今となっては、それは大きな間違いだったのだと痛感する。
 ある日、一部のゲーム内アイテムやキャラクターデザインの盗用が発覚してしまったのだ。
 しかも、最初にそれを見つけて特定したのは、純粋にゲームをプレイしていたユーザーだったという。アイテムの食べ物の画像がおいしそうで、自分でも似たような料理が作りたくなってレシピを検索してみたら、まさかのアイテムとそっくりそのままの写真が出てきたという有様だ。その騒ぎはSNSで爆発的に広まって、僕も運営側に直接問い合わせもした。
 けれど、運営側はその件について調査中だと発表したそばから、なぜかゲームのメディアミックス展開の告知を平然と続けていった。
 ――気持ち悪い。
 彼らに対して、嫌悪感が一気に膨れ上がった。
 アイテムには、ユーザーが課金して手に入れるものもある。画像盗用だと知らずに買ってしまう人を増やさないためにも、サービスを一時停止するくらいはできるんじゃないのか。新商品の告知も、問題調査中なら一時的に自粛するものなんじゃないのか。
 こんなのおかしい、と僕はSNSで声を上げた。けれど、周りの反応は冷たいものだった。
「盗用なんて、この手のゲームにはよくあるだろ」
「問題は当事者同士で解決すればいいじゃん。第三者が騒いで何になるの?」
「文句言ってる奴って、アンチなんじゃねえのか」
 そう言っていつも通りにゲームを続ける人たちにも、愕然とした。長年付き合いのある人でさえその言い分で、自分の感覚がおかしいのかと目と耳を疑った。
 作品が好きだからこそ、悪いことを指摘して、少しでもいい方向に変わっていって欲しいのに。そういう行動すらも、『悪』と見做されてしまうのか。
 その後も運営側は、問題の詳細説明をぼかした謝罪文ばかりを掲示し続けたのだ。
「よかった、じゃあこれからも遊べるね」
 多くのユーザーは安心したようだったけれど、僕はちっとも納得できなかった。
 他人から盗んだものが組み込まれた作品を、どうして今まで通りに楽しんでいられるんだ。傷つけられた他人の権利や心情は、どうなろうとかまわないのか。法的には問題ないからって、倫理面での大事なことを無視してもいいのか。
 新人デザイナーへの教育が足りていなかったため、なんて一企業とは思えない謝罪の仕方やユーザーを小馬鹿にするような対応を、僕は一生忘れることはない。怒りを通り越してあきれて力をなくした指で、アカウント削除ボタンを押した。
 一度好きになったものを嫌いになるのは難しい、とはよく言うけれど、僕にはむしろ簡単だった。あまりにもひどいきっかけのおかげで、逆に綺麗さっぱり縁を切れたのかもしれない。
 そうしていつものように大学に行った朝、わりと仲のいい同期の女子から訊かれた。
「あれ、今日は小説の下書きノート持ってきてないの?」
「うん。なんか、書く気なくなっちゃってさ」
「そっかぁ。筆が乗ってくるまで、ちょっと時間置いてみたら?」
「そうするよ」
 将来の夢の選択肢が、ひとつ消えた。ゲームのシナリオライターという職業は、きっと僕には絶対に向かない。
 盗みで成り立つ創作なんて、つまらなくて当たり前だ。そんなものが増え続けて、たくさんの支持も受けてしまうのなら、僕はあっち側に行くべきじゃないだろう。
 予鈴を聴きながら、講義用のルーズリーフに新作のネタを書き留めていった。


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