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水原あさりさん

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香りの記憶

15/08/14 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 水原あさり 閲覧数:1240

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「もう、これか、これ以上くらいな感じで
めっちゃ、盛ってください。鬼モリで」
花魁のような今風の浴衣姿のギャルが、
お客様用のファッション誌を見ながらそう言った。
「じゃあ、髪巻いて、全部アップしちゃっていいですかね?」
と私は鏡の中で、カラコンを入れたベージュの瞳と目を合わせながら答える。
「そうっすそうっす!」
そう言うと、赤と緑のネイルを施した爪をキラキラさせながら
LINEを開いた。

「美容院きたー」
「おう!終わったら写メ」
「いやすぐ会えるからw」
「えー、まゆのケチー(; ̄O ̄)」
「てかヒロキ花火間に合うの?」
「バイト休むから大丈夫」
「いや、だいじょばないからw」

髪をアイロンで巻きながら、こっそり覗き見すると
カップルの仲睦まじい様子が伺える。

今日はそう言えば花火大会だっけ。
忙しさにかまけてすっかり忘れていたが、
美容師が時事ネタを知らないなんて言語道断だ。

仕上がりに喜んでくれたギャルを笑顔で送りだしながら、
ふと今日は祭りに行ってみようかな、と思い立った。

店を出ると、
遠くの方から祭り囃子が聞こえてくる。
提灯の温かいオレンジ色の光が見えてくると、
少し温かい気持ちになってきた。

焼きそば、フランクフルト、金魚すくい...
所狭しと沢山の屋台が立ち並んでいる。

私は飴細工のお店の前でふと立ち止まった。
色んな形の飴を手にとって見る。

シャンプーやパーマ剤で荒れた手を見て
屋台のおじさんが、

「お嬢ちゃん、もしかしてあんた、ちひろって名前?」
と言った。
「え、何で...」
思わぬ事態に驚きを隠せなかった。

「これ、あんたのお連れさんが忘れてったでしょう、去年。
髪バッサリ切ってたから、一瞬分かんなかったよ」
と、おじさんは黒いハンカチを差し出した。

そうだ。
私は一年前、このお祭りに当時の彼氏と来て、
飴細工のお店に立ち寄った。

お洒落なものが大好きな二人だったから、
飴細工のお店に目を奪われ、店前に肩を並べて
ひたすら、ずっと眺めていた。

ぐねぐねと温かい飴を伸ばしたり丸めたりして、
ちょきん、ちょきんとハサミを入れる。
匠の技で、あっという間にウサギや白鳥、人気のキャラクターを
完成させる。

「ちょっとやってみたい」と子どものようにはしゃぐ
私に彼は苦笑いをしてみせたが、おじさんは、
「お店暇だし、やってみてもいいよ」と体験させてくれた。

「あんた、ひどく手が荒れてるよ」
とおじさんが心配そうに目線を下にやる。
「職業病なんです、私たち美容師だから」
と笑ってみせた。

おじさんから軍手を貸して貰って、飴をこねてみる。
なかなか職人さんのように綺麗に形が作れない。
ちょきん、ちょきんとハサミを入れる。
最初はすごく熱いのに、みるみるうちに
冷えていって固まってしまう。

結局切り刻んで、こねくり回した変なピンク色の飴を
800円で買って、お店をあとにした。

私は、飴を作ったあと、手がベタベタする、
と彼からハンカチを借りて、
それを屋台に置いていってしまったらしい。

「まさか本当に再会できるなんて」
と目尻にシワを寄せているおじさんを見て、
「もう別れちゃったんですけどね」
と、なんとも言えない顔で笑ってみる。
おじさんも、なんとも言えない顔をしていたが、
私は、「でも、貰っときます。」
とハンカチを受け取ってお店をあとにした。

カラースプレーがあざやかなチョコバナナ、
赤、緑、白、ピンク...浴衣姿の若い女の子たち。
打ち上がる、色とりどりの眩いほどの光を放つ
無数の花火。
祭りはいつも沢山の色に溢れている。

屋台を抜け、日常の風景に戻ると
涼しい風が静かに吹き込んできた。

懐かしい黒のハンカチをそっと顔にもってくると
彼のつけていた香水のラストノートの香りが
まだ少し残っていた。


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