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水原あさりさん

好きな作家さん[敬称略] 綿矢りさ/内田春菊/太宰治/宮沢賢治/江戸川乱歩/谷崎潤一郎/サガンetc...

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沈黙の音色

15/08/13 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:14件 水原あさり 閲覧数:1200

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「青野の声って聞いたことないよな」

青野くんは小学校で
そんなことをよく言われていた。
苛めの対象とまではならなかったけど、
とにかく口を利かないので、
周りの生徒とは何となくの隔たりがあった。

朝礼の出席確認は小さな小さな
蚊の鳴くような声で返事をし、
授業中先生に当てられても、
申し訳無さそうに俯くだけで
決して口を開かなかった。

そして、そんな時は決まって
顔を真っ赤にした後に、
ぶ厚い眼鏡の下に指を入れ、
ゴシゴシと目をこすった。

喋れない病気だ、
とみんなは言っている。

触らぬ神にたたりなし
ではないけれど、
何となく触れてはいけないという
危険性のようなものを青野くんは持っていた。

ある日の放課後、
音楽室で綺麗なピアノの音色が聞こえてきた。
私は思わず、
ランドセルから突き出たリコーダーを
ぐい、と押し込み音楽室のドアに耳を当てた。

この曲、どこかで聞いたことあるけど
何の曲だろう。

気がつくと私は音楽室に足を踏み入れていた。

「青野くん」
青野くんの小さな肩がビクッと上がり、
こちらをゆっくりと振り返った。

「これ、何て曲?」
はじめて青野くんに話しかけた。

「ん...」
声にならないような小さな音を
喉の奥の方から絞りだして、
私に答えようとしてくれている。

眉間にグッとシワを寄せ、
目をゴシゴシとこすった後
すっと小さく息を吸って、

「エリーゼのために」

と、いままで聞いた中で一番はっきりした声で
言った。

「それ!聞いたことある」

私が笑顔で答えると、
青野くんはちょっと恥ずかしそうに笑い、
再びピアノを弾き始めた。

聞き覚えのあるフレーズを弾き終わると、
今度は跳ねるような明るいリズムになる。
そして最後は情熱的で激しい音へと変化していく。

「エリーゼのために」って、
最初の何小節かしか印象になかったから、
こんな沢山の展開がある事は知らなかった。

青野くんも音とともに
表情や動きを毎秒ごとに変化させてゆき、
いつもの寡黙で軟弱な姿とは
全く違って見えた。

「青野くんの声ってピアノなのかな」

青野くんが奏でる音のひとつひとつが、
いつもは口に出せない、
青野くんの心に眠っている
色んな感情を溢れ出させている。
そんなことを思うと、自然と涙が出てきた。

青野くんは私の様子をあまり気にせず、
ただただピアノを弾きなぐっていた。
私は鉄の冷たいパイプ椅子に腰掛けて、
青野くんの声を、
夕焼け小焼けのチャイムが鳴るまで
ずっと聴いていた。

それから青野くんは転校した。

転校という建前だったが、
もしかしたら学校に行けなくなったのかもしれない。

私は大人になった今でも、
ピアノの音色、「エリーゼのために」を聴く度に、
時々青野くんを思い出す。

青野くんは今もどこかで、
声ではない声を使って
叫んでいるような気がして。




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このストーリーに関するコメント

15/08/14 松山

水原亜咲さん、拝読致しました。
伝える方法は色々あります。
言葉、態度、音楽、小説とただ、気持ちを伝える事は難しいですね。
何故なら、受け取る側にそれだけの余裕が無いのでは?
メッセージはどこにでもありますが何故か、人々は忙しく動き周り受け取る事すら出ません。今回、青野くんのメッセージを受け取った主人公は、これを機会にまた、今までと違った自分に気付いたのでしょうね。
こちらがわとあちらがわを隔てるものは煙草一本分と・・・
その些細な時間があればメッセージを受け取る事が出来るはずなのに・・・
有難うございました。

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15/08/14 松山

すいません、一回のクリックで何故か?

15/08/14 水原あさり

松山様
素敵なコメント、ありがとうございました。
発信側がいくら懸命に訴えても、受信側に余裕がなければ
その想いは届かない...
本当にその通りだと思います。

このお話では、受け手がそれに気づけたことがきっかけで
今まで見ていた自分の世界が、少し膨らみました。

それぞれが発しているものに気づけたら、
もっと人は豊かになれると思います。

松山さんの遺された小説も、
本当に素敵なメッセージですよね。

最後までお読み頂いて、
ありがとうございました。

15/08/15 つつい つつ

青野くんの伝えたい、話したいという気持ちにすごく共感しました。
読んでいると情景や音楽が実際に流れているようで良かったです。

15/08/15 水原あさり

つつい つつさん

最後までお読み頂きありがとうございます。
今後の作品作りの励みになりました!

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