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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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渚の祭

15/08/11 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1766

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 燃やす材料はだいぶ集まった。
 砂浜の上に、だんだんとそれは、堆く積み重ねられていった。
 薪になる材料を抱えた人々がいまも、あちこちから引きも切らずやってきた。机の脚、椅子、板切れ、野球のバット、新聞や雑誌の束を担いでいる人もいる。子供、若い男女、中高年と、その顔ぶれはさまざまだ。
 渚のなかほどには、キャンプファイヤのように大勢の人々が輪をつくってすわっている。
 すでにみんなには酒がふるまわれていた。ビール、シャンパン、ウィスキーと、どれでも飲み放題だった。
 サチヤは、くる人くる人に、のみたい酒の種類をきいては、瓶の栓をぬいてつぎつぎに手わたしていた。
「さあ、いくらでもおもいきりやってください。食べるものもありますよ」
 と彼は、さっきからバーベキュー台の上でジュウジュウと音をたてて焼けている肉や野菜をみんなに示した。
 そのバーベキュー台の前で煙に顔をしかめながら奮闘しているのは、ユーコだった。
 この渚の祭をおもいついたのはサチヤとユーコたちだった。みんなで渚の祭を盛大に祝おう。二人は仲間を集めた。大勢の人間がかれらに賛同し、きょうこの日に、渚に集うことにしたのだった。
 海面からにょっきり突き出した岩の上からいきなり、何発もの花火があがった。誰かがみつけてきたのだろう。花火は夜空高くにあがって大きく火花をひろげ、巨大な音をとどろかせた。
「いいぞ」
 サチヤの周辺から歓声と拍手があがった。
 日はすでに水平線すれすれまで傾き、いまにもその赤い火球が海にどろりと垂れ落ちそうだった。
「ぼちぼち、つけようか」
 サチヤはユーコと顔をみかわした。彼はまず巻いた新聞紙に火をつけると、山と盛られた薪の下にそれををほりこんだ。
 その新聞紙一枚が燃えきったとき、パチパチとはぜて木材が燃えはじめた。煙とともに炎がたちのぼり、周囲をとりかこむ人々の顔を赤黒く染めながら勢いよく燃えあがった。
 みんなは明々と燃え盛る炎にながいあいだ我を忘れてみとれていた。
 おそらく誰もが、この炎で地上の悪いものをすべて燃やし尽すことができたらと願っているのにちがいなかった。そんなことを思いながらサチヤは、みんなの顔を順にみまわしていった。
 そのときサチヤはみた。あたりにいる誰もが、隣りにいるものたちと手をつないでいるのを。大人も、子供も、老人も、男も女も、相手をえらぶことなく、しぜんと手は相手の手をにぎりしめていた。
「さあ、みんな、もっと飲もう。飲んで、歌って、おもいきり踊るんだ」
 大きな声でみんなによびかけるサチヤに、横からユーコが、
「あなたがいわなくても、もうみんな踊りだしてるわ」
 そういえば辺りがにわかに騒がしくなりだしていた。
 いっそういきおいをまして燃えあがる火を中心にして、互いに手をつなぎあったものたちで作る何重もの輪が、ゆっくりとまわりはじめているのをサチヤはしった。
 またいたるところで、相手かまわず抱きあったものどうしの、愛のダンスがはじまっていた。男と女、同性たち、老人と子供、誰もが思いのままに、好きなようにくっつきあって浮かれたように舞い踊っている。
 サチヤにも抱きついてきた男がいた。
「相棒、なんて楽しい宵なんだ」
 男は、すでにだいぶ酔っていた。
「みんな、ともだちなんだよ」
「おれもそう思うよ。ちくしょう、ほんとは人間はこんなにも仲がいいんだ」
 男はサチヤと離れると、また別の人間に抱きついていき、さらに別の人間に抱きついていった。だれひとり、そんな彼に対して嫌な顔をみせることもなく、それどこかよろこんで抱き返しては、頬をすりよせあうのだった。
 向こうではユーコが、高齢の婦人と顔をくっつけあって、打ち解けて喋りこんでいた。
 サチヤもまた、数えきれない人たちとハグをくりかえした。その中には、以前喧嘩した街のものもいたが、いまは彼も相手もそんなことはきれいに忘れていた。

 世界は終りを告げようとしていた。だれもが恐れていた核戦争は現実のものとなり、すでに南半球のすべてのものは死に絶えた。サチヤたちのいるところも、しだいに放射能に汚染された大気が拡大しており、逃げ場所のない人々はただ、しずかに終りをまつしかない状態に追いやられていた。
 人々はこの渚に集い、みんなで最後の祭を祝福しあった。
 祭りには、世界中からやってきた顔も肌の色も宗教もちがう様々な人々も多くいたが、誰にとってももはやそんなことはなんの問題にもならなかった。
 夜が訪れようとしている渚でかれらは、手をつなぎあい、抱きあって、心ゆくまで祭りを楽しんだ。この世の終わりを前にした人々の周囲には、かつてないまでの平和な幸せが満ちていた。。
「ちきしょう、ほんとは人間はこんなに仲がいいんだ」
 いままた誰かが、泣きながら声をはりあげた。


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このストーリーに関するコメント

15/09/08 光石七

拝読しました。
ラストで祭が行われている背景を知り、切なく温かい、でもやっぱり哀しい気持ちになりました。
「ちきしょう、ほんとは人間はこんなに仲がいいんだ」、重みのあるセリフですね。もっと早く気付いていれば……
深いお話でした。

15/09/09 W・アーム・スープレックス

光石七さん、いっしょに踊りの輪に加わってください。世界はまだ終末を迎えたわけではありませんが―――絶対にそうなってはいけないのですが、そうならないための祭に、どうぞ、お手を。

15/09/11 W・アーム・スープレックス

OHIMEさん、素敵なコメントをありがとうございました。
私もどちらかというと、ばかの部類に属する人間ですが、そうですね、ささやかな幸せの大切さは、わかっているつもりです。そういうものを平気で踏みにじるものもこの世には多くいると思います。私もふくめて非力な人たちにとって―――OHIMEさんも、いっしょに祭りの輪に入りませんか。

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