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泉 鳴巳さん

泉 鳴巳(いずみ なるみ)と申します。 煙と珈琲とすこしふしぎな方のSFが好きです。文章を書くことが好きです。短編が好きです。 まだまだ拙いですが皆様の作品を拝読して勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い申し上げます。 HP:http://izmnrm.wpblog.jp/ Twitter:@Narumiluminous

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将来の夢 不労不仕
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そして僕はまた夏を待つ

15/08/11 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:3件 泉 鳴巳 閲覧数:1321

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 部屋の梁にネットで調べたもやい結びでロープを括りつけていると、電話が鳴った。
「お盆くらい顔を見せなさい」
 母親だった。

 猛烈なホームシックに駆られた僕は生まれ故郷である山間の村へと帰省した。久しぶりに見る両親の顔にこみ上げてくるものをなんとか堪え、二日が過ぎた。
 八月十五日の夕方。日も傾き、涼しくなってきた。ちょっと出かけてくる、そう言い残して実家を後にした。

 外に出ると、縄や提灯が村中に張り巡らされ、小さなこの集落にも活気が溢れていた。
 この村では毎年、八月の十五日の夕方から夜にかけて『誘宵いざよい祭』という祭りが催される。
 神輿や屋台など、基本的にはいわゆる「夏祭り」の様相だが、ひとつだけ変わった点がある。日が落ちてから村の中心部に建てられる櫓を囲って盆踊りが行われるのだが、そこで踊る人々は、様々な『お面』を付けているのだ。傍から見れば不気味ささえ覚えるこの風習、詳しい由来は定かではないらしい。山の神さまがお忍びで踊りにくるからだとか、死者が生者に混ざってこっそり楽しむためだとか、幼い頃に村の婆さまが言っていたのを覚えている。

 行き交う人を縫って歩いていくと、村外れの小さな墓地が見えてきた。
 僕は真っ直ぐとある墓石の前に向かう。
「来てやったぞ」
 小さく呟きながら墓石に水を遣る。
「近々俺も……な」
 
 僕は去年の暮れ、幼馴染を亡くした。
 友人でもありライバルでもあり、そして密かに想いを寄せていた彼女は、登校中、段差に躓いて転んだ拍子に頭を強く打った。そしてそのまま、一度も意識を取り戻すことなく帰らぬ人となってしまった。
 あまりにも呆気無かった。人はこんなに簡単に死ぬのかと思った。現実に感情が追いつかず、涙すら出なかった。
 その後、二人で目標にしていた大学に合格し通い始めた僕にとって、進学後これが初めての帰省だった。

 花立の水を換え、線香を上げた僕は何気なく上を見上げる。着いた時はまだ明るかった空もすっかり藍色になってしまった。
 微かに耳に届いた歓声につられ視線をやると、村の中心部だけはほのかな橙色に染まっている。そろそろ戻ろうか、そう思い歩き出した矢先だった。
「うわっ!」
 急に腕をぐいと引かれた僕は思わずつんのめった。

 なんとか体制を立て直し顔を上げると、お面を付けた浴衣の少女が居た。
 盆踊りへ向かう途中だろうか。しかしどうしてこんな村外れに。
「なんなんだ、いきなり」
 憮然として言うと、少女は頭を下げ、静かにお面を外した。
 垂れ下がった艶やかな黒髪が、遠くの明かりを反射して朧気に光る。

「……なんで?」

 ゆっくりと顔を上げた少女と対面した僕は、それだけ絞りだすのが精一杯だった。
 彼女はその唇の端を僅かに持ち上げ、言った。

「なーに辛気臭い顔してんのさ」

 僕の目の前には、死んだはずの彼女が立っていた。
 いったい何が起きているんだ? 僕はついにどうかしてしまったのだろうか。
 干上がった喉からはヒューヒューと掠れたような音しか出ない。
 少女は指を立て、金魚のようにぱくぱくと動く僕の口唇にそっと当てた。

「君に逢いにきて来てやったんだよ」

 それで十分だった。
 ぽたり、と足先に温かい何かが落ちた。

「……本当にお前なのか?」
「うん」
「なんで、なんで死んじまったんだよ!」
「ごめんね」
「俺が、俺がどれだけ……」
「うん」
 僕は彼女に縋り付き、彼女が死んだとき流せなかった分まで泣いた。


 ようやく落ち着いた僕は訊いた。
「どうして、こっちに来れたんだ?」
「あたしにもわかんない。あ、ほら、お祭りのおかげじゃない?」
 確かに、この祭には死者が混ざるというが。
「……もしかして、生き返ったのか?」
「なワケないじゃん」
「だよなあ」
 二人で笑った。まるであの頃に戻ったみたいで楽しかった。
 可笑しな話だが、死者である彼女といることで、僕は生を感じていた。
「そろそろ、行かなきゃ」
 そんな矢先、彼女は小さく呟いた。
 村の方を見れば、ひとつ、またひとつと灯りが消えていく。
「もう、終わっちゃうから」
「……また、会えるか?」
 彼女は一瞬、逡巡するような素振りを見せたような気がした。
 それでも、はにかみながら言った言葉は、
「うん、待ってる」

 次の刹那、その笑顔は瞬く間もなく掻き消えた。
 僕はぐっと目を閉じ、彼女の姿を瞼に焼き付けた。
 次の夏まで、決して忘れないように。

 僕は狂ってしまったのかもしれない。
 人ならざる者に魅入られてしまったのかもしれない。
 それでも構わない。僕はまた生きてここに来るだろう。
 帰り道、都会じゃ見ることのできない満天の星空を眺めながら思った。

 僕は、世界で一番幸せな男かもしれない。


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このストーリーに関するコメント

15/08/12 滝沢朱音

最初の「もやい結び」が、とてもリアリティがありました。
お盆は、死者との関わりが深い行事ですし、こんな不思議なことがいかにも起こりそう。
生と死の対比が、とても興味深かったです。

15/08/15 草愛やし美

初めまして 泉 鳴巳さん、拝読しました。

お盆のお祭り、出会えてよかったじゃないですか、世界一幸せな男になれたのですから。

最後の僕は狂って……からの小節で、どんなに辛くても、切なくても、生きて再び彼女に逢おうと決めた主人公の気持ちがとてもよく伝わってきました。生きる側と死んでいる側の違いは何かしらとか考えさせられるお話で面白かったです。

もやい結び、息子がボーイスカウトで習っていたのを懐かしく思い出しました。

15/08/16 泉 鳴巳

コメント、本当にありがとうございます。
お二方とも、私の書きたかったことを汲んで頂き恐縮するとともに、伝わったことにホッとしております。



またこの場をお借りして申し上げますが、本文中上部、
『誘宵いざよい祭』となっておりますところ、正しくは『誘宵(いざよい)祭』です。
半角括弧が消えてしまっていたようです。お見苦しい表現大変失礼致しました。

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