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Fujikiさん

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友里子の初恋

15/08/10 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:4件 Fujiki 閲覧数:2374

時空モノガタリからの選評

内気な友里子と活発な日美子、二人の人物の対比が鮮やかですし、友里子の内面の葛藤が丁寧に描かれていますね。冒頭のシーン以外は派手な事件が起こるわけでもないのに、読むものを引き込む描写が魅力的でした。日美子の死は伝説のせいなのか「あの夜の自分」のせいなのか、少年達が見た「同じような色の浴衣」の女は誰だったのか、明らかにされない結末のおかげで、余韻の残るラストとなっていました。

時空モノガタリK

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 日美子の遺体が見つかったのは翌朝だった。長い黒髪を静かな波にたゆたわせ、仰向けの姿で防波堤に打ち寄せられていた。最後の息を出し切った口元は緩み、薄く開かれた眼は青白い空を反照している。はだけた薄紅色の浴衣の衿からは白い乳房が顔を覗かせていた。
 旧盆の時期に海に入ると成仏できない霊たちに足を引っ張られると言われている。帰省中の娘の死に日美子の両親が言葉を失う中、年寄りたちは首を振りながらほら言わんことかとばかりに古い迷信を持ち出した。友里子は、人目もはばからずに嗚咽を上げる大輔の背中をさすってやることしかできなかった。
 日美子が着ていた浴衣は高校時代に友里子とお揃いで買った物である。日美子が内地の大学に進学して以来連絡を取る機会こそ少なくなったものの、以前はよく一緒に遊んだ仲だった。性格は正反対で、内気な友里子と違って日美子は活発で誰にでも好かれた。共通点のない日美子だからこそ嫉妬や競争心抜きで仲良くできるのだと友里子は思っていた。エイサー祭りで再会した日美子は懐かしい浴衣姿に加えて美容室で髪を華やかにしつらえ、出店を見て回るだけで男たちの視線を集めた。着古したTシャツとジーパンの友里子は並んで歩くのさえ気恥ずかしく思えた。
「よう、久しぶり」出番を終えた大輔が観客席に来て二人に声をかけた。以前よりも日に焼けた顔には頬から顎にかけて無精髭が生えている。先ほどまで青年会の演舞でばちを振るっていた腕はさらに筋肉を蓄えて一回り太くなったようだった。大輔が隣に腰を下ろすと日美子はすぐさま彼の太腿に手を置いた。友里子はさりげなく目をそらしてエイサーに見入っているふりをした。
 二人が付き合い始めるよりも先に大輔の魅力に気づいていたのは友里子の方である。小学生の頃からの友人なのに、いつの間にか大輔から目が離せなくなっていた。高三の夏、初めて大太鼓を任された彼のために、家が近所なのを口実にして練習会場の公民館に毎日差し入れを持って行ったこともある。休憩時間にタオルで汗を拭いながら手作りの弁当を頬張る大輔を近くで見ていられるだけで友里子は幸せだった。
 大輔のことが気になっていると日美子から最初に聞かされた時、友里子の胸は痛んだ。それでも人気者の日美子と張り合おうなんて分不相応なことは考えもしなかった。友里子はエイサーの練習に通うのをやめ、日美子が代わりに差し入れをするように勧めた。
「差し入れは家が公民館から近いからやってただけだし、大輔のことも昔から知ってたからさ。腐れ縁ってやつ。日美子と大輔ならお似合いのカップルになるはずよ」と友里子は彼女に言った。
 友里子は用があるからと言って二人を残し、先に祭りの会場を後にした。恋人たちに気を遣ったためでもあるが、笑顔を輝かせる浴衣姿の日美子と鮮やかなエイサーの衣装に身を包んだ大輔を見続けるのに堪えられなくなったからだ。日美子がいなくなったと大輔から電話があったのは祭りのフィナーレを飾る花火が上がった直後だった。
 日美子の姿を最後に見たのは海辺で酒盛りをしていた中学生たちだった。写真を見た彼らは浴衣を着た二人組の女の一人が日美子だったとすぐに答えた。同じような色の浴衣を着たもう一人の女の顔は誰も憶えていなかった。このことを耳にした時、友里子は長い間しまったままのお揃いの薄紅色の浴衣のことを思い出した。最後に浴衣に袖を通したのは高三のエイサー祭りの時である。その夜、初めての大太鼓を演じきった大輔は誇らしげだった。ビールを軽く飲んでいた日美子も上機嫌で大輔の腕にしなだれかかってはしゃいでいた。二人が金魚すくいに夢中になっている時に友里子はトイレに行ったが、戻ってきたらどちらの姿も見当たらなかった。さんざん会場を探し回った末、出店から離れた茂みに二人を見つけた友里子は心臓が止まりそうになった。
 二人は木に寄りかかって唇を重ねていた。日美子は大輔の首に両腕を絡め、彼の呼気を吸い尽くそうとするかのように唇を何度も彼の口に押し当てていた。大輔は上半身を前後に揺らしながら片腕を日美子の腰に回し、もう片方の手で浴衣の上から胸元を一心不乱にまさぐっていた。一瞬日美子と視線が合った気がしたが、湿った睫毛に縁取られた彼女の眼球は力なく開かれたまま何も視界に捉えていないようだった。友里子は回れ右をして早足でその場を離れた。四方から響いてくる太鼓の音は方向感覚を狂わせ、昼間の太陽のように眩しい出店の照明は目まぐるしい光の渦になった。自宅に着くと浴衣のまま布団を頭からかぶり、声を押し殺して泣いた。
 あの夜の自分が日美子を溺れさせたのだと友里子は思った。高三の友里子は祭りの夜で時を止めたまま、弔われることのない死者たちと一緒に今でも海をさまよい続けている。胸に手を当てると、光の届かない水底に沈めた初恋の古傷が疼いた。


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このストーリーに関するコメント

15/08/28 橘瞬華

拝読しました。
出だしから引き込まれました。一貫して重い雰囲気を持ったストーリーと詳細で心情的な語り口で、心にずしっとくるものがありました。ずっと主人公の犯行告白だと思って読んでいたので、あの夜の私と言うところが幻想的で、いい意味で予想を裏切られてとても好きです。
名は体を表す日美子と、最後の最後で友の幸せを願えなかった友里子。その対照的なところも印象に残りました。
個人的には最後の一段落がもう少し欲しかったです。もう少し、この物語に浸っていたかったなぁと思いました。

15/08/28 Fujiki

奇遇にも旧盆の最終日にコメントと評価をいただけて、とても嬉しいです。祭りは本来目に見えないものに祈りや感謝を捧げるスピリチュアルな意味合いを持った風習なので、幻想を交えた結末にしてみました。努力した部分を的確に読み取ってくださり、ありがとうございます。

15/09/07 光石七

拝読しました。
抑えた文章が事件の重苦しさと主人公の苦しい胸の内を際立たせていると思いました。
日美子と友里子の対照的なキャラクターも魅力的ですね。沖縄という舞台と言い伝えも効いていますし、“あの夜の自分が……”という結末が幻想的で切なく哀しく波のように胸に響きます。
素敵なお話をありがとうございます!

15/09/08 Fujiki

ありがとうございます! ベテランの書き手に褒めてもらえて心密かに有頂天です。今開催中のテーマも沖縄なので、どんなネタについて書こうかあれこれ考えています。

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