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リアルコバさん

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生涯の不覚

15/08/09 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:1件 リアルコバ 閲覧数:967

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「痛っ」「あっ和仁見っけた、また引っかかってやんの」
 公園を取り囲む雑木林は缶蹴りの隠れ場所には絶好の場所だった。そこに潜んだ私が絡み合う蔦を払うと小枝が私の顔を打ち付けた。《ブービートラップ》幼馴染の孝男はいつも自分が隠れてる間にこんな罠を仕掛けるずる賢い奴だった。まさかこんな形で再開して相対するとは、宿命なのか・・・。

「有野、ありのかずひと。親子3代この街のために尽くしてまいります。有野を今回もまた皆様のお力で宜しくお願い致します。有野、有野和仁でございます」
 祖父の代から続くこの街の政治は我が家の生業でもある。知事にこそなれなかったが祖父が県議時代に市政が敷かれ、当然のように親父が市長を4期努めた。私もその生業を継ぐために留学までして政治学を学び、万を持して地盤看板を譲り受ける事になった。戦前の無風予想を覆したのは、勢いに乗る新鋭党から推薦を受けて立候補した幼馴染《笠井孝男》の存在だった。
 彼はスポーツ万能、学業そこそこ、何よりその明るいルックスとチャラい程に弁の立つ学校の人気者であった。大学進学後疎遠になったが、証券会社に務めた後、なんとか総研の経済アナリストとしてしばしばニュース番組にも顔を出していた。才能というよりそのキャラクターがテレビ向きだったのだろう。しかしそれは対立候補としては驚異以外の何者でもない。

「大丈夫ですよ若先生、親父さんの代からの組織は鉄壁です。既に票読みは出来てますから、まぁ大船に乗った気持ちで構えてくださいな」
 親父の参謀はそう言って余裕を見せるが、初選挙の私は不安で不安で堪らなかったのだ。そんな頃、支持母体の企業の推薦で選挙コンサルタントの斎藤君を迎え入れることとなった。
「先生、正直データは芳しくはありませんよ。やはり敵の知名度は並大抵じゃない。更に有野政権に飽きている有権者も大勢います。ここは少しダーティーな手を使ってでも・・・」
 斎藤君の調査によると、参謀の言う通り組織票はまず鉄板だった。しかしその家族や浮動票と言われる市政に興味を持たない者達が、テレビで見た顔に靡く流れが広がっていると言う。
「毎回40%前後の投票率が50%を超えたら、その増加分ずべては敵陣に加わると見て間違いない。せめて支持者の家族、特に奥様達を繋ぎ留めなければ参謀の票読みが狂うことになります。」
 そして彼は事も無げに言ったのだ。
「敵のスキャンダルを作り上げましょう。なに都会の選挙ではよくあることです。小さなスキャンダルは勝手に大きな噂へ成長させてくれますからね」
 私は思ったのだ。あの時のトラップの仕返しがこんな形で出来るとは・・・と。

 数日後斎藤君は、笠井が証券会社時代にどれだけ豪遊してどれだけ派手な浮名を流したか、東京から来たマスコミという体で街の飲み屋街で吹聴したようだ。
「やっぱりな、もともと地元の人間じゃねぇし笠井の家だって今は引っ越して無いのになんでかと思ったら、東京で遊んでるうちにちょっと泊が付いたからって、調子に乗って市長選に出てきたんだとよ、どうやら東京じゃ何回も中絶までさせてるらしいぜ」
 その噂を聞いた男たちは予想通り、それを女房に大げさに伝えていた。

「笠井隆男でございます。私はこの街で幼少期を過ごしました。皆様のお陰で成長させていただきました。その恩返しがしたくて、その一心で同級生の有野君に対抗しに来たわけです。この公園脇の雑木林、あそこは開発しちゃいけないんです。我々の思い出とともに、子供たちへ自然の豊かさと怖さを教える貴重な里山を・・・」
 公園前での街頭演説では私が仕掛けるショッピングセンター誘致とを非難する笠井の姿があったが、それを聞く人影は明らかに減っていた。
「若先生、だから言ったでしょ、この街の女は浮気なんてしねぇんです。最初はちょっと珍しかっただけでね、だから俺らも古女房しか知らねぇんだけどケケケ」
 何も知らない参謀はどこまでもおおらかな笑顔で笑っていた。

 投票日、即日開票が始まろうとしている頃、私は当選の挨拶を考えていた。
「若先生、あんたなんか変なこと仕掛けたのか」
 鬼のような形相になって参謀とその仲間が選挙事務所に戻ってきた。
「なんの事」
「あんたがセコイ噂でっち上げて流したって噂で持ちきりだぞ」
 背筋が凍る思いがした。
「斎藤は?斎藤君はどこに行った・・・」

 惨敗、私は何をしたのだろうか、笠井の当選挨拶の傍らには親父の支持母体でもあった大企業の新社長が顔を出していたと云う。そしてその隣には斎藤・・・ダブルエージェント・・・。

「ここは保守の街、新社長の鶴の一声では支持基盤は揺るがないだろ。だから斎藤君を送り込んだのさ。お前なら乗ると思ったよ」
 晩年笠井にそう言われた。私の生涯の不覚である。






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このストーリーに関するコメント

15/08/13 光石七

拝読しました。
選挙戦での駆け引き、実際にありそうですね。
面白かったです。

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