1. トップページ
  2. 忠ロボ八号

海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

2

忠ロボ八号

15/08/05 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:4件 海見みみみ 閲覧数:1396

この作品を評価する

 これはあるきっかけを待ち続けた一体のロボットの物語である。

 そう遠くない未来。人型ロボットが開発され、ロボットは人間社会に適応していった。ロボットは姿も人間そっくりで、もはやアンドロイドと言っても差し障りない程だ。
 安藤新太もそんな人型ロボットの所有者である。彼は結婚し妻が子供を出産した事がキッカケで、妻の家事を少しでも楽にするため人型ロボットを購入した。
 彼が購入した人型ロボットは『タイプエイト・メイドモデル』と言われるもの。新太はこの麗しい女性形ロボットに『八号』と言う名前をつけた。無骨な名前をつけたのは、彼なりの照れがあったのかも知れない。

 その日、新太は八号を連れショッピングモールへと向かった。まだ生まれたばかりの息子のベビーグッズを買いに来たのだ。
「八号、ちょっとそこで待っていてくれ」
「かしこまりました」
 新太はショッピングモールの入り口で八号を待機させた。一緒に連れ歩くのは照れくさかったのだろう。
 新太はそのままショッピングモールの中へと消えて行った。八号は新太を待つべく入り口で人の邪魔にならないよう棒立ちする。

 だが新太が戻ってくる事はなかった。新太は心筋梗塞を起こし、そのまま帰らぬ人になってしまったから。

 新太が亡くなり、一週間後。ある問題が発生していた。八号がショッピングモールの入り口から動こうとしなかったのだ。
「ご主人様に命令されたので、ここから動く事はできません」
 そう言って八号はその場から動く事を拒否した。新太の妻が迎えにも行ったが、八号は言うことを聞かない。もちろん新太が亡くなった事を伝えはしたが、八号はただ「ご主人様の新しい命令を待ちます」とだけ言ってその場を離れなかった。
 八号のモデルは太陽光のエネルギーによって動くタイプだ。つまり八号は放っておけば、死んでしまった新太を半永久的に待ち続ける事になる。
 一体どうしたものか。新太の妻は悩んでいたが、思いもよらぬ所から声がかかる。八号のいるショッピングモールからだ。
「死んだご主人を待ち続けるロボットとして話題になっているんですよ。ロボット版忠犬ハチ公として、当ショッピングモールの宣伝にもなっています。このまま当ショッピングモールに置かせていただいてもよろしいでしょうか?」
 あまりにも意外な言葉。でもそれで役に立つのであればと、新太の妻は八号をそのままショッピングモールに放置する事にした。

 それから八号は様々なメディアで取り上げられ、一躍時の人ならぬ、時のロボットになった。八号のご主人様を待ち続ける忠義。それに多くの人が感動した。
 映画化やドラマ化、アニメ化も決まり、もはや八号を知らない日本人はいない程になっていた。
 時が経ち、ブームが去っても一定数の八号ファンが彼女を見守り続けた。
 だがそれも終わりを迎える。ショッピングモールが不況の煽りを受け、撤退する事になったのだ。

 新太が亡くなってから二十数年。明日、ショッピングモールは取り壊し工事が行われる。しかしそれでも八号はいつもと変わらずご主人を待ち続けた。
 そこに一人の青年がやってくる。青年は八号に向け声をかけた。
「八号、おまたせ。さあ、我が家に帰ろう」
 青年の言葉を聞き、今まで一切動かなかった八号が突如として動き出す。
「はい、ご主人様」
 あの八号が言う事を聞いた。一体この青年は何者なのか。
 彼は新太の息子、新太郎だ。亡くなった新太にそっくりな姿をした青年。実の息子である新太郎だからこその事である。
 その様子を多くの人が見守っていた。彼らは子供の頃から八号を見守ってきた人々だ。その八号が今ようやく帰宅しようとしている。彼らは目に涙を浮かべていた。
「ご主人様、帰宅する前に一つ」
「なんだい?」
 新太郎が八号に問いかける。すると八号は全力で新太郎の頭を殴った。
「何年待たせれば気が済むんじゃ!」
 その光景に周りの人々の涙は引っ込んだ。

 それから八号との帰路、新太郎は謝り続けた。しかし八号はツンとしたままだ。
 どうしたものかと新太郎が悩んでいると、八号がゆっくりと口を開いた。
「……私はご主人様が『帰ろう』と言ってきっかけをくれるまで、動く事ができませんでした。今度は置いて行かないでくださいね」
 そう言って八号がほほ笑みかける。その笑顔は旧式のロボットでありながら、新太郎の心を揺さぶるには十分な程だった。

 きっかけを待ち続けたロボットの物語は終わった。そしてこの物語は、一人の青年とロボットの、恋のきっかけとなる物語でもある。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/08/14 草愛やし美

海見みみみさん、拝読しました。

忠犬ハチのようなロボット八号、ハチ公を彷彿させるネーミングだけでなくその素養も素晴らしいです。でもオチでクスリと笑わせてくれますね、こういうところが人間的でロボットは旧式だけど凄く好感もてます。可愛いですよねえ、こんなロボット欲しいです。面白かったです。

15/08/14 海見みみみ

草藍やし美さま

ご覧いただきありがとうございます!
今回は忠犬ハチ公をロボットでやってみる、というテーマで作品を書いてみました。
ロボットだからこその魅力ってありますよね。
こんなロボットが早く発売されると良いのですが笑
それでは感想ありがとうございました!

15/08/25 光石七

拝読しました。
タイトルからして忠犬ハチ公を下敷きにした面白い話だろうと思っていましたが、予想以上、というか予想とは違う面白さでした。
感動の再会(?)でのまさかのツッコミに笑い、最後の素敵なオチに心が温かくなりました。
もしや、続きが……?
楽しませていただきました。

15/08/25 海見みみみ

光石七さま

ご覧いただきありがとうございます。
予想と違う面白さを提供できたようで嬉しいです。
この物語は『始まりの物語』ですから、きっと続きもあるのだと思います。
ただその物語自体は皆様の想像にお任せしようと思います。
それでは感想ありがとうございました!

ログイン