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眞木 雅さん

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ウメバチソウ

15/08/02 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:2件 眞木 雅 閲覧数:1341

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 彼が僕のことを遠ざけたのは、僕が黒猫に生まれた、不幸の象徴だった。きっとそれが全てだ。

 別れは突然で、たくさん泣いて抵抗したけれど、全く歯が立たなかった。二人で幸せになるため、いろんな計画を立てたけれど、それにそぐわない生まれや育ちを初めて打ち明けた時、僕は彼を傷つけてしまった。
「トラウマになった」と、これは彼の言葉。
この小説を書く日まで、何度頭に繰り返しただろう。

 そこから少し先に、本当のお別れがあるとも知らずに、僕は安易な方法で、彼を忘れようとした。きっともう、軽蔑されて嫌われて、友達にも戻れない。そう思ったから、すごく遠くに風も届かない場所に、逃げた。

 僕は、彼の心の中に、前の恋人の深い残り香が香り続けているのを知っていた。時には、うっすらと言葉の影に、時には、言葉にそのまま。だけど、それも大事に持っていれば、いつか二人の宝物になるような気がしていた。だから僕は、問い詰める代わりに小説を書いた。話ベタな僕には話のきっかけが必要だったから。
「ねぇ、新しいの書いたんだよ」
「お、そうか。読ませてもらいますよ」
 彼はとにかく褒めた。僕の知らない外国の作家の名前を持ち出してみたり、僕の愛する太宰の名前や作品に例えてくれたりした。そして、そのままやりとりは続き、決まり事のようにこうしめくくる。
「俺は田中英光が好き、まきは太宰治が好き、きっと生まれ変わりだね、だから会えたんだね」
「そうかなぁ、だといいなぁ」
 とにかく優しかった、そのことを本人が悩んでしまうぐらい。
 彼の優しさはたまに暴走した。僕が風邪をこじらせて、喘息を起こしたことがあった。そして咳のしすぎてアバラを折ったのだ。僕と彼の知っている曲に「アバラが折れていた〜」というフレーズがあったのをふと思い出して、面白がってくれるような気がして、なんとなく打ち明けると、心配しすぎた彼は大きなダンボールのいっぱいに、小説を買って、そして隙間には僕の好きなチョコレート菓子を詰めて送ってきた。きっと、送った直後に正気に戻ったのだろう。荷物が届くまで、届いてからもしばらく「ごめんね、多すぎた」と繰り返していた。彼は僕が入院してしまって、きっとその間退屈で寂しい思いをすると思った、と弁明していた。なんだか愛しくて涙が出た。
 彼のよく使う表現を借りるとしたら、橋の下には水が流れて、僕達は出会って別れ、そして僕の水は腐った。
 僕は己がメスであるということが、たまらなく苦しく、うまく生きられないことが多々ある。それでこんなややこしいことになっているが、一応恋をする。した、彼に。燃え尽きたけれど、それは確かで、僕の希望だった。

 約束があった。8月、きっと会おうねと話していた。それから、8月、二人で暮らす計画をまとめて、それから、8月。
 周囲の人は笑うだろうか、僕は南の島に暮らしていて、彼はそのずっと遠くの岐阜にいた。言葉と言葉で恋をした。馬鹿馬鹿しいと笑うだろうか。

「はやく、はやくこっちへおいで」

 せめて会って謝れたら、なにか違うかな。いいや、僕が生まれるところからやり直せば、きっとうまく行くはずだ。そんなことを考え続けて、辿り着いたのは僕の言葉の先には誰もいない、何もしたいことがない、そんな8月だ。この島は強烈に暑く、黒い毛皮の内側が燃え出しそうだ。

僕を救ってくれた、蜘蛛の糸のような君
僕の心を運んでくれた、スーパーマンのような君
横切って邪魔をして、申し訳なかった。
横切って恋をして、本当に本当に。

幸せになれと君は言うけど、もっとずっと先。
君が教えてくれた「ウメバチソウ」という、見たこともない花の名を、その言葉がすべての始まりになったことを、遠い昔に思えるまで、ずっとずっと走るよ。


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このストーリーに関するコメント

15/08/02 眞木 雅

 共作をしていた「花言葉」という作品の、最後には必ず、ウメバチソウの花を書こうと思っていました。掲載より先に、松山様に確認をと思い、運営の方に問い合わせをしましたが、間に合わず、申し訳ございません。

僕を助けてくれた椋に恩返しができないこと、傷つけたこと。
いろんなことを考えます。

15/08/02 松山

黒猫さん、有難うございます。そう言えば椋も8月に『連休をとって南の島まで行ってくるよ。』と言っていましたよ。ウメバチソウ『いじらしさ』の花言葉は黒猫さんにあてたものだったのかな?
幸せは、そんなに遠い処じゃあないと思います。手を伸ばしてみて下さい。
きっと、その手の少し先にありますよ!!必ず・・・

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