1. トップページ
  2. 甘い罠

つつい つつさん

twitter始めました。 @tutuitutusan

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

2

甘い罠

15/08/02 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:3件 つつい つつ 閲覧数:1373

この作品を評価する

 僕は今自分がいる状況が信じられなかった。駅前のお洒落なカフェバーで綺麗な女の人と向かい合わせに座り、遅めのランチを取っていた。もう二八歳になるけど、デートなんてしたことなかった僕は、手なんか震えてるし、顔なんてひきつってるだろうけど、彼女はそんなこと全然気にする素振りも見せず楽しそうに笑っている。こんな天使のような女の人が存在するなんて今まで思ってもみなかった。
 綺麗な人はいくらでもいるだろうけど、それは僕なんかと別の世界に生きていて、関わることなんて一生無いだろうことは薄々感づいていた。だから、美人と付き合おうなんて望んだこともなかったし、付き合えないから絶望するなんてこともなかった。そりゃあ、女の人と付き合いたくないわけじゃなかったし、自分にお似合いの目立たなくても性格のいい子なんか居たらいいなくらいは考えていたけど、それも僕にとっては大それた話だった。このまま進んでも、僕に彼女が出来ることなんて絶対ないんじゃないかって日々をずっと過ごしていた。
 だけど、それは十日前のことだった。僕は高校の時の同窓会に参加した。本当は僕みたいな目立たない奴が同窓会に参加しようなんて思わないんだけど、高校卒業してからもたまに飲みにいく鈴木君が僕を居酒屋に呼び出し「同窓会に出よう!」って、言い出し行くことになった。鈴木君も僕に負けず劣らず目立たない奴だから、まさかそんなこと言うなんて思ってもみなかったけど、「このままいっても、地味な道を進むだけだ。たまには冒険しよう」って、安いハイボールでべろべろに酔っぱらった鈴木君に説得された。
 同窓会に出席すると、案の定、僕らはみんなに「誰だおまえ?」って、顔で見られたけど、まあ、みんな大人だからそこはてきとうに話を合わせながら時間は過ぎていった。一時間も経つと僕らの周りには人は居なくなり、結局、鈴木君と二人ぼそぼそと飲むことになった。
「鈴木君、内田君、久しぶりね」
 そんな僕らの前に宮村さんが座った。高校の時からクラスで一番美人で今日もモデルか芸能人かって思うくらい綺麗な宮村さんから名前を呼ばれて、僕の心臓はびっくりしすぎて止まりそうだった。それはほんのちょっとの短い時間で、宮村さんにしたら社交辞令だったんだろうけど、僕にとっては夢のような時間だった。ひと言ふた言話して連絡先を交換したような気がするけど、それが信じられなくて、同窓会が終わって家に帰った後、何回も何回も宮村さんの連絡先を確認したのを覚えている。まさか電話が掛かってくるなんて希望までは持たなかったけど。それが昨日「明日時間ある?」って、突然、宮村さんから電話があって、気づけば、わけもわからないままこうやって二人でランチしているのである。
 ランチを食べ終え、コーヒーを飲みながらお互いの近況や趣味なんか話してると、宮村さんがなんでもないような口調で聞いてきた。
「内田君、小説とか、映画が好きなら、英会話に興味ない?」
 僕はきょとんとした顔をしていたと思う。構わず宮村さんは話し続けた。
「私、駅前の英会話教室に通ってるし、それに紹介なんかもしてるの。内田君とだったら、趣味も合いそうだし、一緒に英会話やってみない?」
 洋画も見るし英語がわかればもっとおもしろいかもしれないけど、それほど英語を勉強したいわけでもない。でも、宮村さんと趣味が合うならいいかなんて悩んでいたら、「そんな真剣に考えなくてもいいよ。ただ、内田君と一緒だと楽しいかなって思っただけ」って、宮村さんが微笑むから、僕はますます悩んでしまった。でも、英会話に通って、またこんな楽しい時間が過ごせるならいいかもって思った時、ふいに斜め向かいの席に座る男の人と目が合った。その男の人はなんとなく僕をみて笑ってるみたいだった。
「女に騙されて英会話なんて通おうとしてやがる」
 そう言われたような気がした僕はつい、「んー、英会話はそんなに……興味ないかな」なんて言ってしまった。宮村さんは何事もなかったように「そっか」なんて聞き流しランチは終わった。結局それから宮村さんから電話が掛かってくることもなく、僕から電話する勇気もなくそれっきりになった。
 半年くらいして駅前をぶらっとしてると、ばったり鈴木君に会った。そういえば、あの同窓会ぶりだった。鈴木君のとなりには地味だけど性格の良さそうな女の人が立っていた。鈴木君はそわそわして照れながら「か、彼女なんだ」って、紹介してくれた。女の人は恥ずかしそうにうつむき軽く会釈してくれた。なんでも鈴木君は駅前の英会話教室に通っていて、彼女とはそこで知り合ったらしい。今日も教室に行くんだって、二人で歩いていくのを見送ると、僕はいつものように、ひとり駅前の大きな書店に向かった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/08/12 泡沫恋歌

つつい つつ 様、拝読しました。

駅前の英会話教室に通うかどうかが、運命の分かれ道だったようですね。
やはり現状を変えたいと思ったら、冒険しないとダメなんだ。

内田君の心の動きがリアルで、こういう男の子っていそうだと納得させられる。
最後まで、面白く読ませていただきました。

15/08/12 光石七

拝読しました。
宮村さんが主人公を呼び出したのはおそらく紹介目的でしょうが、それに乗らなかったがゆえに逃した出会いもあったかもしれないのですね。うーん、どうするのが良かったのか……
主人公の緊張や戸惑い、迷い、強がりなどが変に背伸びすることなく素直に描かれていて、現実味がありました。
面白かったです。

15/08/15 つつい つつ

泡沫恋歌 様、感想ありがとうございます。
良くも悪くも動ける人のほうが変化が訪れるんじゃないと思って、こんな話を書いてみました。

光石七 様、感想ありがとうございます。
たぶん主人公の選択は間違いじゃないのですが、慎重なだけでは駄目なんじゃないかと自分にも言い聞かすつもりで書きました(-_-;)

ログイン