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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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パフェ男が酒をのみたくなった理由

15/07/28 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1518

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彼になかば導かれるようにして俺とはん子は、その喫茶店にたちよった。ここはやっぱり飲み屋にでもいきたい気分だったが、彼がいたのでしかたがなかった。
店にはいり、やってきたウェイトレスに、彼が頼んだのはやはり「チョコパフェ」だった。
「そちらのお客さまは、なににいたしますか」
「日本酒ある?」
俺は猪口でグイとやるあの醍醐味が好きだった。あきらめ半分できいてみた。
「ちょっとおまちを」
ウェイトレスが厨房にもどるのをみて俺は、隣りにすわるはん子にたずねた。
「きみもパフェの口か」
「私はビールよ」
それをきいて俺もほっとした。日本酒はおそらくないだろう。彼女とビールをのみかわすのもわるくはない。だが、ふたたびあらわれたウェイトレスが俺にむかって、
「下からとりよせますので。熱燗で、冷で?」
「冷でたのむよ」
「下のレストランとここ、同じ経営者なんだよ」
さすがによくくるとみえて、パフェ男はこの店の事情にくわしかった。
最初に出てきたのはチョコパフェだった。チョコレートシロップがふりまかれたバニラクリームに棒状のコーンフレークが数本突き立っている。
「失礼するよ」
彼はロングスプーンをとると、チョコレートのかかったクリームをすくいとり、舌の先でなめるようにしながら食べはじめた。
次にはん子の生ビールがきた。白い泡がジョッキのふちからこぼれおちるのをながめながら、なぜか彼女がそれに手をつけないのをみた俺は、
「なにをしている。気がぬけるじゃないか。俺に遠慮しないで、グイとやってくれ」
それをいわれるのを待っていたかのように彼女は、大ジョッキを掴み上げるなり、一気に半分空けた。
手持無沙汰の俺は、二人に話しかけた。
「いつのまにか、4年がすぎた」
「なにが」
はん子が口にまつわりついた泡を指でぬぐいながらきいた。
「短編を投稿しだしてからさ」
「あなたがあのサイトに投稿しようとしたきっかけはなんだったの」
「きっかけ………うーん。なんだったかな。そうそう、以前から短編を発表するところはないかと探していたとき、いいタイミングであのサイトをみつけたんだ」
「前からききたかったんだけど、どうしてあんな変なネームにしたの」
「変でわるかったな。サイトにといあわせたとき、名前をきめてなくって、たまたまそのとき読んでいたのがあるプロレスラーの伝記で、そのレスラーの得意技をそのまま拝借したんだ」
「プロレス好きなのね」
「じつはそんなに好きじゃないんだ」
「じゃ、途中でも変えたらいいじゃない」
「ここまできたら、これでつっぱしる」
そのとき、ようやく俺の注文したものが出てきた。
ウェイトレスが置いていったビン入りの日本酒を、はんこが手にとって、俺の小さなグラスについでくれた。
俺はグラスを口にあてると、首をそらせながら冷えた酒を喉にながしこんだ。
「タンッて音がするかと思ってたわ」
「だれにもわからないことをいうもんじゃない」
「いま、投稿者数は、かなりになるのでしょうね」
「そうだね。数えたことはないけど、俺が投稿しだしたときにくらべると、格段の人数
だろうな」
「凄い作品もあるんでしょう」
「あるだろうね」
俺は立て続けに独酌でグラスを空けてから、二人にむかっていった。
「ところできょうは、同じサイトに投稿していた若手の作者の方が急逝されたのをしって、静かに飲みたい気分になってみんなを呼んだんだ」
「そうだったの」
「会ったこともなければ、もちろん顔だってしらない。そういう意味では投稿者全員しらないんだけど、みんな少しでもいい作品を書こうとして日々、活字と格闘している面々だ。それは俺だって変わりはない。表現されたものがすべてで、何の言い訳も通用しない創作の世界で、たった一人でやりぬくしかない。彼もまた、同じ創作仲間だった。24か。それにしてもはやすぎるな」
ふたたびグラスにつごうとうしかけた俺の手から、ビンをとるとはん子は、黙ってグラスに酒をみたしてくれた。
「ところで、はん子って名前もめずらしいけど、由来はなんだい」
「こんな名前の歌手が昔、いなかったかしら」
それ以上は微笑でごまかす彼女だった。
俺がまたグラスを空けたとき、それまで黙々とパフェを食べ続けていた彼が、ふいにこちらを見た。
「すまないが、僕にもいっぱい、もらえないだろうか」
「え、あなたのめるの」
これにははん子も目をみはった。
俺もまた半信半疑で、グラスを彼のまえに差し出した。。
はん子はビンが逆さまになるぐらい傾けて、最後の一滴までそのグラスにそそぎいれた。
彼は、グラスに指をまきつけるようにしてもつと、二人の見守る前で、一息に酒をのみほした。
「きゅうにのみたくなったんだ」
その気持ちは俺にも十分理解できた。


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このストーリーに関するコメント

15/07/29 松山

W・アーム・スープレックスさん、拝読致しました。
読むにつれ涙が出るのは何故でしょう?小説の中に生きている椋の姿が私の頭の中に蘇ってきました。何気ない毎日の生活の中にある、何気ない会話、でもその中には・・・ありがとうございました。

15/07/29 W・アーム・スープレックス

松山様、コメントをありがとうございました。
松山椋さんの作品、全編を通じて言えることですが、澱みのない言葉が弾むように繰り出されて、切ないまでの人間関係が浮き彫りになっていくところなどは圧巻でした。柔軟な精神ときらめくような才能をお持ちだったのだと思います。

15/08/24 光石七

拝読しました。
素晴らしい哀悼作品だと思います。
お酒が飲めない私も、主人公やカフェ男さんの気持ちがわかります。
はん子さんとか、スープレックスさんの過去作品の一端も登場し、このサイトの歴史やここで切磋琢磨しながら創作活動に励む皆様にも思いを馳せました。

15/08/24 W・アーム・スープレックス

コメントありがとうございました。

光石七さんとのこのサイトでの出会いも、もうずいぶんになりますね。名古屋のデパートの大きなマネキンのことが記憶に残っています。
みなさん創作の上の「戦友」です。彼もまた、その一人です。

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