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風が吹けば

15/07/27 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:0件 るうね 閲覧数:1124

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 男は、きっかけ殺しを生業にしている殺し屋だった。
 部屋のドアがノックされる。どうやらお客が来たようだ。
「どうぞ」
 殺し屋が返事をすると、気弱そうな初老の男性がオフィスに入ってきた。
「どうぞお掛けください」
 男性は促されるまま、椅子に座る。
「さて、今日はどんなご用件で?」
「実は……私の妻を殺して欲しいのです」
 男性の言葉を聞き、殺し屋は顔をしかめた。
「お客さん。うちはきっかけ殺し専門で、本物の殺しはやっていませんよ」
「ああ、すみません。正確には、私と妻の出会いのきっかけを殺して欲しいのです」
「ふむ、出会いのきっかけを。それはまた、どういったわけで?」
「昔、私が妻の落としたハンカチを拾ったことがきっかけで恋に落ち、結婚したのですが、彼女は掃除も洗濯もせず日がな一日ぐうたらしているばかり。美しかった容姿も、いまでは豚のような有様で……」
「なるほど。それで縁を切りたい、と。では離婚すればいいのではないですか?」
「とんでもない!」
 男はぶるると身体を震わせ、
「そんなことをしたら、慰謝料をいくら請求されるか……」
「もしあなた方の恋のきっかけを殺せば、お子さんも消えることになると思いますが」
「構いません。息子が一人いますが、こいつも定職に就かず、いつまでもぷらぷらしてますので、いっそ消してやった方が幸せかと」
「分かりました。あなたは奥さんと後腐れなく別れたい、そのために恋に落ちるきっかけを殺して欲しい、とこういうわけですね」
「可能でしょうか」
「もちろんです。いまならキャンペーン期間中ですので、格安でお受けしますよ」
 殺し屋がそう言うと、男は安心したように微笑んだ。


「じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけてくださいね」
 妻が、タイムマシンに乗り込む殺し屋を心配そうに見守る。
「なぁに、簡単な仕事さ。さっさと片づけて帰ってくるから、ビーフシチューでも用意して待っててくれ」
 そう言って、殺し屋はタイムマシンで依頼人の男とその妻が出会う直前の時間に移動し、彼らの出会いのきっかけを殺した。具体的には、妻になるはずの女性が落としたハンカチを、殺し屋が拾ったのだ。これで、ラブロマンスは生まれないというわけ。殺し屋は鼻歌まじりに、元の時間に帰る。


 殺し屋が帰ってくると、妻はいなくなっていた。
 今回のターゲットだった夫婦の子供が、殺し屋とその妻の出会いに遠巻きながら関わっていたのだ。具体的には、バイト先のレストランで殺し屋とある女性の注文を取り違えた。そのことがきっかけで、殺し屋とその女性は恋に落ちたのだ。
 人の縁など、どこでどう繋がっているか分からないものだ。夫婦の恋のきっかけを殺したことで、殺し屋自身の恋のきっかけも消えてしまったというわけである。
 だが、そのことに殺し屋は気づかない。
 口笛なぞ吹きながら、レトルトのビーフシチューを温めている。
 たった一人で。


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