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デーオさん

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向日葵

12/07/30 コンテスト(テーマ):第十一回 時空モノガタリ文学賞【 高校野球 】 コメント:2件 デーオ 閲覧数:1789

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 学校は夏休みに入っていた。二人部屋だった病室の一人が退院し、私は一人でぼーっと窓から見える青い空、桜の樹とその影の濃さから暑さを想像していた。入院したのは、高校野球県大会決勝でホームにスライディングした時、キャッチャーのブロックをかいくぐり、ホームベースをタッチに行った腕が倒れ込んだキャッチャーの下になり骨折したのだった。

 トントンと軽く戸を叩く音。病室なのでナースが出入りしやすいように、ドアは常に開いており、そのトントンは注意を惹くための合図だった。私は振り向いて、まばゆいばかりに輝く陽に焼けた笑顔と、その手に持っている花束の小型の向日葵に眼がいった。私は立ち上がり、近づいて来る和美の顔をぼーっと見ていた。私服の和美は急に大人になって、そしてずいぶん綺麗になったように思われた。陸上部部活中の和美のことは、その走る姿の美しいことと、少年ぽい印象しかなかったのに。

「鈴木君、どっかに花びんないかなあ」という和美の言葉に、私は慌てて辺りを見回したが、花びんはなかった。どちらかというと花よりダンゴの母が持ってくるのは、果物やお菓子が多かったし、はなっから女性が花を持って見舞に来るなんて想定外だった。

「あ、じゃあ看護婦さんに聞いてくる」と言って、和美は軽快な足どりで部屋を出て行った。
それから私は、じわじわと湧いてくる嬉しさに、ほっぺを叩いた。そして、野球部の仲間が持ってきたヌード写真の載っている週刊誌を、ベッドサイドの引き出しにしまった。

 やがて、少し照れくさそうに和美が入って来た。どうやら花びんを貸して貰えたらしい。その花びんを物入れにもなっている小ささな机のようなものの上に置いた。少し真剣な顔で花の形を調えている和美を私は新鮮な思いで見ていた。

「どう、具合は?」と和美がギプスをした手を見た。
「最初は固定しておけば大丈夫かな、とか言っていたが、後で後遺症があるといけないので手術しましょうということになってね、予定外に長くなってしまった」
 私は言い訳のような口調になってしまったが、和美が「そう、心配したんだよー」と言う声を聞いて嬉しくて飛び上がりたい気持ちだった。それからしばらく上の空で何やら会話のようなものをした。
「ほら、前にホームルームで男子の発言が少ないという話があったじゃない」
そう言って和美は悪戯ぽい顔で私を見た。そして話を続ける。
「そうしたらさ、鈴木君が『箇条書きのようになら話せる』って言ったのよね。女子が一斉に笑っているのに、男子はきょとんとしてたわね。おかしかったあ」
「なんで、そんなにおかしいんだよ」私は少しふてくされたように言った。
「だって、想像してしまうじゃない。箇条書きの話しあいっていうものを」和美は笑っている。
「上履きの靴のかかとをつぶしてサンダルのように履くのはみっともないと思いますと女子ね。そして男子が、上履きのかかとの件 急いでいる時便利 とか言うのを想像してしまったのよ、おっかしい」
 和美の笑い顔は、御見舞にもらった向日葵をずっとずっと大きくしたように思えた。私もつられて笑ったが、それは和美の笑顔が目の前にある嬉しさからだった。

 ふと間が空いて、和美が来客用の折りたたみ椅子からベッドに腰かけている私の側に並んで座った。シャンプーか石鹸か、あるいはそれに汗の臭いが混じっていたのかもしれない。柔らかさを感じさせる匂いが女を感じさせて、私はどぎまぎしてしまった。
「病室なんて初めてだよ、ふーん、こんなベッドに寝ているんだ」
 そういって和美は、そのままベッドに仰向けになった。当然私は和美を見ることになる。走っている時には感じなかった胸の膨らみに、本能のように眼がいって、私は慌てて眼をそらした。(ちょっと大胆すぎはしないか)と思いながら、私はドアの方を見た。
「あ、ごめん」と和美が起き上がる気配がした。
「えっ、何が」と私は、まだ動揺がおさまらないまま聞き返した。
「ここって男の子の部屋のようなもんじゃない? そこで寝そべってしまって」と言って和美は少し恥ずかしそうな笑いをした。その表情にまた私はズキンとした。


 しばらくして「帰るわ」と言って和美が立ち上がった。私はまだ和美と一緒にいたかったのに、ぼーっとした感じの抜けないまま一緒に立ち上がった。

 急に色彩の薄れたような病室の中で、黄色い向日葵の花が眩しいくらいに輝いて見えた。和美は1時間もいなかったと思うが、あとで思い出すとすばらしい時間を過ごしたのだということと、すっかり和美を好きになってしまったことを感じた。頭の中に和美が住みついてしまった。そしてそのことと関連して和美の頭の中に自分はどのくらいの割合で入っているのだろうかと思いながら花びんの小さな向日葵を見ていた。


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このストーリーに関するコメント

12/07/30 ゆうか♪

拝読させて頂きました。
テーマの高校野球というよりは、主人公の恋の始まり模様といった感が否めない気がしました。
そういう意味では、若い頃を思い出させる懐かしい感情をうまく表現してあると思います。〔私は若くないので・・〕

ただ、まだ若い主人公が「私」と自分を言うのは少し引っかかりました。やはりここは「僕」か「俺」の方が青春ものと感じられたと思います。
それと一箇所だけ、会話の中にオジンくささが・・(笑)
余計なお世話でしたらごめんなさい。m(_ _)m

12/07/30 デーオ

ゆうか♪さん

オジン高校生の話(笑) 
あっちに載せた話から切り取ったからねえ。

野球の話も少ないからお題に不足かもね。
的確な指摘ありがとうございます。

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