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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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夜行バスの女たち

15/07/24 コンテスト(テーマ):第八十七回 時空モノガタリ文学賞 【 私は美女 】 コメント:7件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2224

時空モノガタリからの選評

女性の心理をうまく描いたショートショートですね。女性の建前と本音、あるいは願望をうまくあぶりだしているなと思います。夜行バスという密室が、舞台として効果的ですし、オチが綺麗に決まっていて、気持ちがいいですね。異世代間の会話がユーモラスでリアルで、共感を呼ぶものとなっていると思います。

時空モノガタリk

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 東京から関西に向かう夜行バスは3連休初日とあって、ほぼ満席だった。
  高速道路に入って一時間あまり、そろそろみんな退屈をもてあそぶ時間帯にさしかかったらしく、あちこちの座席から話し声がきこえはじめた。
 たまたまかも知れないが乗客のほとんどは女性で、男性客はわずか4人だった。
 そのため車内は彼女たちのあたりをはばからないお喋りで騒がしく、明日にそなえて寝ておこうとするかれらの何人かは、ウィスキーの力を借りなければならなかった。
  なかでも一番騒々しいのがバス後方の座席を埋める、会社の同僚8人からなるグルーブだった。
 まだ若い彼女たちは、夜行バスという特殊な状況に浮かれて、乗車当時から片ときも途切れることなく喋りつづけていた。
 そのときの彼女たちの話題は、美容整形に関することだった。
「私、整形しようと思ってるの」
「あら、真里菜も考えてるの」
「あなたもなの、理恵?」
 理恵と呼ばれた女性は、自分の顔を指さし、
「見ればわかるでしょ。ごらんの通りの顔よ。そうとう工事しないことには、男性の一人もふりかえってくれやしない」
 理恵の前の座席から、花子がふりかえり、
「それはおたがいさまよ」
 すると別の座席から
「私だって、毎日、鏡をのぞくたびに、こんな顔に産んでくれた親を恨んでばかりいるわ」
 ほかにも次々と、我が容貌を呪詛する女性たちがひきも切らず名乗りでては、いままた自分の顔の醜さをひとつひとつ、呪文のように数え上げるのだった。
 それを聞いていたなかほどの座席を占める、これは中年すぎの、どこかの婦人会とおぼしき面々が、真里菜たちのほうをかえりみていった。
「お嬢さんたち、そんなに嘆くものではありませんわ。なるほどたしかにあなたたちは、いまいち美人とは言い難いかもしれないけれど―――いいえ、女同士この際はっきりいわせてもらうけど―――およそ美しさからは見放された方々ばかりとお見受けしますが、それでもあなたたちは、若さという何ものにも代えがたい武器をおもちじゃないですか。それさえあれば、性欲に飢えた男性のひとりやふたり、ひきつけることだってありえるのでは。その点、あたしたちなんか―――」
 そのあとを引き取って、隣の座席の婦人が自嘲気味に口を開いた。
「そりゃもう、男性はおろか、雄猫だってよってきやしないわよ。私たちの顔の真ん中には、目にみえない枯葉マークが貼りついているんだからね」
 ほかの婦人たちもそれには一様に、そうよそうよとうなずいてみせた。
「もはや男たちのだれひとりとして、私たちには鼻もひっかけやしない」
 その時、前列の座席に座っていた、これはもう高齢者といっても誰に文句もいわれそうにない女性たちのなかの一人が、後ろに首をひねって分厚い眼鏡ごしにこちらを見た。
「何をおっしゃる。あたしたちにくらべたら、あなたなんかまだまだましというものよ。夜目遠目といって、暗がりにまぎれたり、遠く離れて見たら、あなたでもまだ女としてみてもらえるんじゃないの。その点あたしたちなんか、暗がりであろうと何キロ離れていようと、もうなにをどうしょうと、どうなるもんじゃない」
 それにはさっき枯葉マークをもちだした婦人が、
「だって、お婆………あわわ。お宅様方は、これまでにもうさんざん、やりたいことをやってこられたのではありませんの。若いときには、着物の裾がちらとまくれただけで、何人もの殿方の目をくぎ付けにしたのではないのですか」
「めっそうもありません! あたしなんかは今も昔も、男の人からちやほやされたことも、優しい言葉ひとつかけられたこともありません。あたしは自分というものをよくわきまえているつもりです」
 激昂までしてまくしたてる彼女の剣幕に、もはや誰も言い返すものはなかった。
 車内に重苦しい空気がながれた。
 誰もが容易に口をきける雰囲気ではなくなって、みんなは互いに物憂げな顔をみあわせるばかりだった。ひとりがついたため息が、たちまち全員に感染して、車内のあちこちからも滅入ったような吐息や溜息がもれきこえた。
 やがてバスはさいわいにも、サービスエリアに到着した。
 それまで居眠りをつづけていた後部座席の男が目を開き、大きくあくびをした。
「おっ、トイレ休憩か」
 あわてて彼はたちあがると、女性客たちにはさまれたせまい通路を、起きたての覚束ない足取りで歩きだした。
 その彼が出入り口にたどりついたとき、きゅうに思い出したように足をとめた。
「あ、カバンを忘れた」
 そして大きな声で、
「すまないが、そこのきれいなお嬢さん、私のカバンをこちらにほってくれないか」
 その言葉に、車内の女性が一人残らず、彼のほうに顔をむけた。


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このストーリーに関するコメント

15/07/26 霜月秋介

スープレックス様、拝読しました。
最後のところで笑いました(笑)このあと誰がカバンを取るのでしょうか。ダチ●ウ倶楽部さんのように「じゃあ私が取るわ」「いいや私が取るわ」「いやいや私が取るわ」「どうぞどうぞ」的な流れを想像してしまいました。
でも、口では言ってても中身は皆さん永遠の乙女なんですね。

15/07/26 W・アーム・スープレックス

コメントありがとうございます。

まさに霜月さんのおっしゃるとおり、永遠の乙女心というやつでしょうね。
こういう気持ちがなくなってしまったら、世の中味もそっけもなくなってしまうのではないでしょうか。私は男ですが、似たような経験は少なくありません。

15/07/27 光石七

拝読しました。
オチに苦笑しました。ええ、これが女性というものです(笑)
女性たちの不美人自慢(?)のやりとりも「さもありなん」という感じですね。
面白かったです。

15/07/28 W・アーム・スープレックス

こういうテーマだと、何か生き生きしてくるのは、もしかしたら女性コンプレックスの裏返しかもしれませんね。コンプレックスはいっぱいもっていますが、すべて創作の原動力として生かすようにしています。

暑さに負けずにおたがい、創作に励みましょうね。

15/07/28 W・アーム・スープレックス

こういうテーマだと、何か生き生きしてくるのは、もしかしたら女性コンプレックスの裏返しかもしれませんね。コンプレックスはいっぱいもっていますが、すべて創作の原動力として生かすようにしています。

暑さに負けずにおたがい、創作に励みましょうね。

15/08/20 海見みみみ

W・アーム・スープレックスさん、拝読させていただきました。
いやあ、これは痛快!
なんという素晴らしいオチでしょう。
人の業を見た気がしますね。
このテーマに相応しいオチだったと言えると思います。
本当に素晴らしいです、参りました。

15/08/21 W・アーム・スープレックス

海見みみみさん、コメントありがとうございます。

『素晴らしい』を2回も言っていただき、恐縮します。
夜行バスという密閉された状況での展開は、ショートストーリーにはむいていると思い、オチもまあおさまってくれました。私の場合オチは、書いている途中に思い浮かぶものが多く、ときにはずれることもあるのでなかなか思うようにはいきません。。

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