ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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12/07/30 コンテスト(テーマ):【 プール 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1727

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子供や大人達の歓声が外まで聞えていた。
福島光一は、建物の周りの水路を目を凝らして見て歩いたが、この日も見つける事は出来なかった。


荒川からほど近いこの場所に、大型商業施設プールの建設の話が持ち上がったのは、今から1年半前の事。
この大型商業施設プールが出来る前は、小川の流れる荒地だった。
この土地の地権者と大型商業施設プールを運営しようとする企業との話し合いは、あっと言う間に話が進み、その年の秋には建設が施行しようとしていた。
福島光一は、何度も地権者の家とプールを運営しようとする企業に足を運び、建設の中止を訴えたが、悲しい事に願いは叶わず建設は始まってしまった。

小学校で教師をしている光一が、初めてこの場所でメダカを発見したのは、今から3年前の夏の事。その日、図画工作の課外授業で生徒を連れてこの場所に来ていた。
「光一先生、なんか小さな魚がいっぱいいるよ!」
生徒に言われ小川を上から覗くと、そこには体長3〜4センチくらいの小さなメダカの群れが、水面近くをゆっくりと泳いでいた。
それを見て光一は驚いた。
「みんな、ちょっとこっちに集まって!」
図画用紙に絵を描いていた生徒達が光一の周りに集まって来た。
光一は、メダカの群れを指差し
「あれはメダカと言う名の魚だよ。日本全国に分布していて、かつては、ごく普通に見かけた魚だけど、1980年代頃から各地で減少していったんだ。現在は絶滅危惧種に指定されているんだよ」
小学5年生にしては身長が高く、もう変声期をむかえ始めている佐々木俊が
「光一先生、なんでメダカは減少していったの?」と言った。
「いろいろと原因はあるんだけど、その中でもとくに、農薬や生活排水の影響が大きいと言われているんだ」

課外授業でこの場所を見つけて以来、休みの日はこの場所に足を運ぶ事が多くなった。
地方の田舎で育った光一は、子供の頃から昆虫や魚をよく捕っては、虫かごや水槽で飼育して観察した。
子供の頃の夢は、生物学者になる事であった。
大学時代の友人で、現在は中学校で理科の教師をしている末長直樹に以前、この事を話したところ、荒川や近くの小川にはまだメダカが生息していると言われた。
しかし、後5年後、10年後はどうなっているかは分からないと・・・。

10ヶ月近く前の9月10日、この日から1週間後に建設が施行される事になっていた。
すでに建てられていた白い防護壁によって、荒地と小川を外から見えないように囲んでいた。
その白い防護壁の出入り口前で、福島光一は拡声器を通して大声で反対を訴えた。
「ご町内の皆様、これから大型商業施設プールを建設しようとしているこの場所には、絶滅危惧種のメダカが生息しています。私達大人は、なんとしてもこれを阻止しなくてはいけません。企業の金儲けの為に、稀少な小さな生物の命を奪ってはいけない! 皆さん、私と一緒になって建設の阻止をして下さい。お願いします!」
前を通り過ぎて行く人達は、『うるさい』とばかりに、迷惑そうな顔をして通り過ぎて行った。
しまいには、近所の誰かが呼んだのか警察車両が1台やって来て、車から降り立った制服を着た警官に、「ご近所迷惑ですから、静かにしましょう」とまで言われた。
光一は、無性に腹がたった。
みんな、自分の生活が便利になったり豊かになるのであれば、小さな生物の命などどうでもいいのかと・・・。

あっと言う間に、地権者と大型商業施設プールを運営する企業との話し合いが決まったように、あっと言う間に大型商業施設プールの建設は完成した。
夏本番の今、子供や大人達が連日このプールに行き、歓声を上げている。
企業のプロジェクトとしては成功したかもしれないが、それによって奪われた小さな命もある。
学校が夏休み中の福島光一は、毎日のようにこのプールにやって来る。もちろん中には入らない。プールの周りの水路を見て回るだけだ。
今日も一匹も見つける事ができないかと思った矢先、水の中に沈んだペットボトルの横で、一匹の死んだメダカの死骸を見つけた。
その死骸を見下ろしながら、一体、誰を憎めばいいのかと怒りの矛先を考えた。
相変わらず、プールで遊ぶ子供や大人達の歓声が外まで聞えていた。


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