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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ネズミとり

15/07/20 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1193

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観測ステーションのドーム内のあちこちに最近、奇妙なものをみかけるようになった。細長いワイヤを加工して作った小さな入れ物のようなもので、入り口が開いていて、その中になにやら餌のようなものが吊るしてある。中に入ったものがその餌をとると、いきなり蓋が閉まる仕掛けになっていた。これの製作者は地球出身のアオイという隊員だった。彼が制作したその罠をもとに、おなじものが何十と製作され、ドーム内の至る所に仕掛けられた。
こと座のはずれに位置する惑星イダに観測ステーションが建設されたのは半年前のことだった。その間、イダの調査に明け暮れてきたアオイたちは、地下に文明があるとの見解を最近深めつつあったが、まだまだここは未知と謎に埋め尽くされていた。
はじめてその生物を発見したのもアオイだった。地球人の血をひくだけに感性ゆたかで、勘も働くときて、その俊敏で小さな生き物がドームの床の上を小走りに駆け抜ける姿を彼は目ざとくみつけた。
最初はネズミと思った。むろん地球にしか生息しないネズミがこんな辺境な惑星にいるはずはなかったが、そのちょろちょろと動く姿はどこか地球の家屋の天井裏や地下、排水溝などに見かけるあの小動物を連想させた。他の隊員たちもその生き物を彼にならってネズミと呼ぶようになった。
「みればみるほど、奇妙な生き物ね」
ネズミとりに捕えられたネズミを、まじまじとながめながらキスミがいった。
すでに何匹か解剖した結果、ネズミの体の組織の大半は金属でてきていた。驚くべきことにその金属は有機体の性質をもち生成発展する機能をそなえていた。いまキスミがみているその姿も、外皮の硬質感からネズミというよりどこか大きな蟻に近かった。
「この生物はいったいどんな方法で、それこそ蟻の這い出る隙間もないドーム内に侵入したのだろう」
隊員たちがドームを出入りする際は、ハッチをくぐって機密室に入り、一ミリの砂粒も絶対みのがさないセンサーによって厳重検査をへなければならない。生き物の入れる余地など皆無だったのだ。
ドーム内に設置された監視カメラがとらえた映像は隊員たちを仰天させた。ネズミは、ドームの壁を貫通して侵入した。なんど再生しても、確かにネズミはドームの分厚い壁を、ゆっくりと通り抜けていた。後で壁をいくら調べても亀裂一つ見つからなかった。
「これは非常に危険な生物だ」
隊長は直ちにネズミ撃退チームを編成した。人間の生命と安全を保障するドームを自在に貫通できる生物を放置しておくわけにはいかない。
「ちょっと、いきすぎじゃないかしら」
アオイともに撃退チームに配属されたキスミが、ネズミ殲滅を命じた隊長を影でなじった。アオイも同感らしく、彼のもつ狙撃砲の目盛りは、殺傷値に合わせた他の隊員たちとちがって、ショックを与える程度にしぼられていた。
「何も殺す必要はないよな。ちょっと好奇心にかられて入り込んだのかもしれないし」
隊員たちの進む大地は起伏に富み、その間を遮るように険しい岩場がたちはだかって、数メートル前進するにも大変な労力をしいられた。気の短い隊員の何人かは、狙撃砲を放ちながら道を穿っていた。
「あ、これ」
アオイは前をゆくキスミの背中にとまるネズミをみて目をみはった。それはいま、前方の隊員の放った狙撃砲でうちくだかれた岩の破片のはずが、空中でネズミにかわって彼女の体にとまったのだった。
「この辺りの大地は、ネズミを生み出す素材でできているんだ」
アオイの声に、他の隊員たちはパニックに襲われ、たちまちばらばらになって逃げだした。
アオイもキスミも急いでかけだしていた。ネズミが自分たちに危害を加えるかどうかはわからなかったものの、何百、何千という奴らがいまにもうじゃうじゃと地面から生まれでようとしているのを見て、どうしてその場にじっとしていられるだろう。
どこをどう逃げたのか、とにかく夢中で逃げてきたアオイとキスミは、いつしか薄暗い穴の中に足を踏みいれていた。
「ここは……」
二人は怪訝そうにあたりを見回した。
しかしここまで青息吐息でかけ続けたかれらには、もはや冷静に物事を判断する能力をなくしていた。
「喉が渇いた」
そのキスミの鼻先を、みずみずしい香りがかすめた。二人ぱ狙撃砲を下に置くとなおも奥に突き進んだ。
眼の前に、みるからに水気をたっぷりふくんだ楕円形の果実がみのっている。二人は衝動にかられてその果実にとびついた。
とたんに穴の出口はふさがれ、いきなり周囲が明るくなったと思うと、これはあきらかにあのネズミの成長した姿とおぼしき巨大な生き物がまわりをとりかこんでいた。
「しまった。僕たちは、ネズミとりに捕らわれてしまった!」
アオイは、自分たちが檻に閉じ込められたのをさとるとともに、いまもぎとった果実こそ、罠の餌だったことに気づいたのだった。



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