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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

性別 男性
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悪魔のささやき

15/07/14 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:997

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20畳ほどの部屋に30人ほどの聴衆が、並べられたパイプ椅子に座って俺を見ていた。
俺の足はガクガクと震え、軽い眩暈すら感じはじめ、あれほどスピーチの練習をしたのに、何から話したらよいのか、すっかり忘れてしまった。
そうだ、まずは自己紹介だと思い、目を瞑って深呼吸をしたあと、目を開け上ずった声で自己紹介をした。
「皆さん、こんにちは。僕の名前は上杉友和と申します。あのう……、これから僕が薬物に溺れていった過去を話たいと思います。どうぞ少しの間、僕の話を聞いてください」
練習したとおりに言え安堵し、横に顔を向けると、この催しの主催者である『NPO法人ひまわりの会』の代表である芳江久子さんが、握った拳を胸の前に掲げ、声を出さずに口を動かし「ファイト」と言ってくれた。
もう一度、俺は深呼吸をして、ゆっくりとではあるが、経緯を話しはじめた。
「僕は18歳の時に、東北の仙台から東京に上京して来ました。上京した理由は、東京の予備校に通うためでした。僕の父は地元の市立病院に勤める医者で、僕も医者になるべく複数の大学の医学部を受験し失敗しました。だから予備校に通い、翌年に再度、医学部を受験しようと思ったのです。予備校に通い始めて半年間は毎日、朝から晩まで予備校と自宅で勉強に励んだのですが、あれは涼しくなり始めた秋頃の事だと記憶しています」

予備校の授業が終わり、いつもなら自宅にまっすぐ帰って勉強するはずだったが、この日は無性に酒が飲みたく、上野駅からほど近い場所に店を構える居酒屋に一人で入った。
ビールとから揚げ、それにポテトフライを注文し、運ばれて来たビールを一気に口に流しこんだ。1・2杯飲んだら帰るつもりでいたが、家に帰ったら勉強しなくてはいけないのが鬱陶しく感じ、そのまま店にい続け、閉店時間まで長居してしまった。
店を出ると、半袖シャツから出ている腕が肌寒く感じ、手で擦って温めた。家に帰りたくなく、上野駅前の商店街から一本奥の狭い道を歩いていると、南アジア系に見える男が小声で「クスリあるよ」と言った。
「クスリ?」思わず友和は聞き返してしまった。
「大麻にシャブもあるよ」
ほんの出来ごごろで、友和は男に金を払ってタバコの葉に包まれた大麻を受け取った。一人暮らしのアパートに帰りつくと、さっそくそれにライターで火をつけ吸煙した。
初めて味わう感覚だった。気分が快活になり空に浮いているような感覚になった。この日を境に、大麻の常習者に落ちていった。田舎に住む両親には予備校で勉強していると電話で嘘を話、生活費が足りないと言って仕送りの催促を何度もした。両親は何も疑うことなく、その都度、お金を送ってくれた。
大麻を吸煙すると気分が良いが、その効果が切れると妄想や幻覚に襲われた。冬になり正月もとっくに過ぎ去り、深夜にいつものようにあの南アジア系の男から薬を買いに行くと、その日は手持ちの大麻がすべて売れ切ってしまったと言われた。
「シャブならあるよ」
「シャブって体ボロボロになるんだろう?」
「でも、気分は大麻よりももっと気持ちよくなるよ」
その男の話に、シャブに手を出してみようと友和は思い、金を払ってシャブと注射器を受け取った。
家に急いで帰ると、ワクワクしながらシャブの入った注射器を腕に打った。まるで頭が冴えたように感じ、興奮と高揚感が尋常ではないほど、友和を一時の間、至福にさせた。
シャブを毎日打つようになってから、眠気と食欲がなくなった。4日・5日寝食しないのもざらだった。目の下にはいつもクマができ、ゲッソリとやせ細っていたが、シャブさえあれば何もいらなかった。
春になり、親には大学受験に再度失敗した。また翌年に受験すると嘘をついたが、親は疑うことをせず、仕送りは続けると言ってくれた。
夏になった頃、部屋の壁の染みが頻繁に人の顔に見えたり、警察に追われているように感じ始めていた。友和は部屋の壁をナイフでボロボロに刻みこんだ。でも人の顔は消えなかった。
深夜、あの男からシャブを買おうと、ジーンズのポケットにナイフをしまって家を出た。先ほどから誰かが友和に「死ね!」と何度も言っていた。友和は誰が自分に死ねと言っているのか辺りを探したが、前から歩いてくるスーツを着た男だと思い、ナイフをポケットから取り出すと左腹にナイフを突き刺した。

「あの時の僕は、薬で頭がおかしくなっていたのです。不幸中の幸いにも、ナイフを刺してしまった男性は命に別状はありませんでした。僕は警察に逮捕され、5年間、刑務所に服役しまして、今はこうして、『NPO法人 ひまわりの会』で社会復帰に向けて更生しているところです。僕はバカだったから、都会の闇に潜む罠に引っかかってしまったのです。今日、お集まりの皆さま、長い時間、僕のお話をお聞きになって下さってありがとうございました」


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