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ちほさん

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ちっちゃな末っ子の大きな勇気

15/07/14 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:2件 ちほ 閲覧数:1333

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 私たち夫婦には三羽の息子がいる。
 上の二羽は何をやらせても器用にこなした。生まれてたったの十日で、もう飛ぼうとし始めたことには驚かされた。隣の奥さんも感心していた。
「まぁ、お早いこと」
 それで我々夫婦も有頂天になっていたのだが、三つ目の卵から生まれてきた子には、別の意味で驚かされた。全身が真っ白で、目も赤い。
「この子、誰の子?」
 妻も首を傾げるばかり。我々から生まれたのだから『ツバメ』のはずなのだが。悩んだ末、うちの子であると決めた。が、この子がまた、やることなすこと全てがのんびりしているのだ。上の息子たちに餌を取られてばかりで体も大きくなれない。心配する妻は、いつも気をつけて末っ子に間違わずに餌を与えるように苦心していた。それでどうにか末っ子も弱々しいながらも成長していった。
 
 ある夏の日、私は息子たちに訊ねた。
「どんな大人になりたい?」
 長男は答えた。
「どんな鳥よりも速く飛べるようになりたい」
 次男は答えた。
「遠い国へ行って、素晴らしいものをたくさん見たい」
 そして末っ子は
「……寝ていたい」
と答えて、眠たそうに一つ欠伸をする。うとうとする彼に私は訊ねた。
「昨夜は眠れなかったのかい?」
「ふくろうが〜ぽぉぽぉって〜鳴いたの〜」
 緊張感のないふわふわした声で答えた。そんな彼を上の息子たちが馬鹿にして笑うので、私は一喝して黙らせた。
 
 それは飛行訓練中に起こった悲劇だった。
 上の息子たちは飛び方を簡単に覚えてしまった。その覚えの速さに感心して、つい末っ子から一瞬目を離してしまったのが悪かった。
「ぴゃあ〜!」
 甲高い悲鳴で視線を向けると、強風で毬のようにコロコロとふっ飛ばされていく末っ子の姿が見えた。彼が落ちていく先には、罠があった。大きな罠ならくぐり抜けることもできるだろうが(あくまでも、末っ子にくぐり抜けるだけの器用さがあればだが)、あれは兎を捕らえるための罠だろう。よくしなる木で出来ているようだ。遠目にも不器用な出来で、人間の子どもが遊びで手作りした罠を、軒下に放っておいたものだろう。末っ子が運悪く罠に引っ掛かる直前に、私は猛スピードで飛んでいって彼の小さな体を頭で突き飛ばした。そして、自分に振りおろされてくる罠の刃を見た瞬間、大きな衝撃が来た。刃といっても薔薇の棘だったことが不幸中の幸いだった。しかし、右の翼が罠に挟まれて動かない。いくら動かそうとしても、左の翼がむなしく地面を叩くのみ。末っ子の泣き声がきこえたが、私は冷静だった。体を捻らせて空を見上げてみる。すると、上の息子たちが器用に風の中で浮遊していた。が、いきなりパッと左右に飛び去って姿を消した。
 カサッ……近くの藪から忍びやかな音がした。それと同時に、バサバサッという翼の音もきこえた。ツバメではない。もっと大きな──
「逃げろ!」
 私は、傍にいた末っ子に怒鳴った。罠にかかった私を、カラスと猫がまるで競争でもするかのように狙っていたのだ。カラスは餌として、猫は遊び道具として。ところが末っ子は私の体に覆いかぶさって、「どうしよう……」と怯えながら繰り返す。
「逃げるんだ!」
「いやだ!」
 私から離れようとしない。
「やっつける!」
 まだ、まともに飛ぶこともできない小さな子である。風にあおられて、ふっ飛ばされてしまうくらいの体だ。勇気があるのか無謀なのか。
 末っ子は、カラスと猫を前にして立った。そして、まずカラスの顔を小さなくちばしでつっつきだす。その隙に猫が私にちょっかいを出してくる。慌てて彼は、私の前に舞い戻り、今度は猫の鼻をつっつく。猫は怒って、右手で殴りかかる。
「ぴゃあ〜!」
 小さな体が、地面に叩きつけられる。
「あぁ、チビが……!」
 私は必死に罠から逃れようとするのだが、どうにもならない! 自分の無力に腹立たしくなって左の翼をばたつかせた時、上空から上の息子たちが急降下してきた。二羽による攻撃をまともに食らったカラスと猫はたまらず逃げ出した。この大騒動で、人間たちが駆けつけてきた。彼らは私を罠から解放し、目を回している白いツバメを手のひらに乗せて介抱した。

 目を覚ました末っ子に、兄たちは優しく声をかける。
「おまえ、本当はすごいんだな」
「怖くなかったのか?」
 末っ子は、ぷるぷる震えながら答えた。
「こ……怖かったよぉ〜」

 そして、空をまた飛べるようになった私は、息子たちを厳しく教育した。
「カラスと猫には気をつけよう。そして、罠にも……そこ! 居眠りするんじゃない!」
「え〜? ふくろうが〜ぽぉぽぉって〜鳴いたの〜」
 末っ子は、目をパシパシさせて首を可愛らしく傾げてみせた。


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このストーリーに関するコメント

15/08/11 草愛やし美

ちほさん、拝読しました。

ちっちゃいのに頑張ったねえ、末っ子ツバメ。自然界の厳しさを教えるのとても大変なことでしょう、お母さんツバメ、頑張ってください。
どんな子供も分け隔てなく接するお母さんの優しさ、強さを子供達はみんな受け継いでいるのでしょうね、良かったです。
素敵なお話で楽しませていただきありがとうございました。

15/08/11 ちほ

草藍やし美 様
コメントをありがとうございます。
かわいくて頑張っている子を書きたかったのです。
そして、このちっちゃな子がどこまで頑張れるか試してみたのですが、
あれが彼の限界なのです。
両親共に、姿の違う子でも分け隔てなく育てた事に感心しています。
楽しんで笑っていただきたかったので、草藍やし美様に楽しんでいただけて嬉しいです。
書いている間も読み返している今も、私の好きな作品の一つです。
ありがとうございました。

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