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三文享楽さん

私、三文享楽でございます。

性別 男性
将来の夢 鼻炎の改善
座右の銘 枕カバーは週1で洗う。

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補正システム

15/07/14 コンテスト(テーマ):第八十七回 時空モノガタリ文学賞 【 私は美女 】 コメント:0件 三文享楽 閲覧数:1193

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「ゆいちゃん、今日も帰るの?」
「うん、ごめんね、ちょっと予定があってね」
「そっか、また今度ね」
 ゆいはサークルの友達を背にして駅へと歩き出した。
「のりわるっ、どうせまた男なんじゃない?」
「いいよねえ、ああいう元からキレイな子は」
 背中越しに友達の声が聞こえたが、ゆいは聞こえない振りをする。
 できることなら遊びたい。でも、私にはやらねばならないことがある。
 駅までのルートを変更し、ゆいが入ったのはとあるビルの一室であった。看板が出ていないため、そこが店舗なのかも分からない。
「いらっしゃい。ああ、ゆいちゃんね。今日もおつかれ」
 ゆいは奥から出てきた男に軽く会釈した。男は目をギョロギョロさせている。
「今週分、まだもらってなかったよね」
「はい、もってきました」
 一万円札を五枚出して数百円のお釣りをもらったゆいは、早速店の奥へと進んだ。
 奥へ進むと、ネットカフェのごとく個室に区切られた空間がいくつかあった。ゆいはそのうちの一つに、迷うことなく進んでいった。
 パソコンは既にたちあがっていて、ゆいは椅子に座って準備を整えると、システムを起動させた。
「よし、今日もやるか」
 意気込んだゆいの目の前に起動されたのは「顔面補正システム」である。
 ゆいは目の前のディスプレイに映し出された女を見る。
 鼻や目のパーツが異様に近づいたその顔面は決して美形とは言えなかった。
「はあ、これが本来の私とはね」
 いつも見ている当たり前のことではあったが、ゆいは思わず呟いてしまった。
「ダメダメ、そんな弱気でどうするの。私はキレイ、私は美しい」
 ゆいは声に出して、自分に言い聞かせた。
 この店では、本来の顔をシステムで日々整形させることができるのだ。
 切り貼りはできないため、少しずつ引き延ばしをして顔面補正を行っていく。このシステムに入力することによってゆいは美形を保つことができる。
 私は友達が遊んでいる間にもこれをしなければならない。そうしないと今の私を保てない。
 ゆいは、自身を保つために日々行わなければならないこの儀式を憎んだ。
 週に何度か行わないといけないのは、元の状態が細胞分裂によって進化し続けるからである。変わらない生き物はいない。生物は日々細胞分裂を繰り返し、変化しているのだ。
 ゆいは友達を思い出し、今ごろ好き放題にスイーツを食らっているであろうことを妬んだ。その嫉妬心が原動力となり、面倒くさい補正を続けられる。
 ひとまずの補正入力を終えた。
「だんだん慣れてきたねえ」
 個室に入ってきた先程の男が、相変わらず目をギョロギョロさせて言う。その目付きはいささか人間離れして見えた。
「まあ、ここまでは早くできるのよ」
「こっからがねえ」
 男はゆいに数枚の紙を手渡した。
 個室からのシステム入力が終わると、別の印刷機からエラーリストが出てくるのである。
 これは当初の顔面補正により不備が生じる生体機能をリスト化したものである。顔面を歪めるわけだから、エラーがあってはならない。
 これは何度も繰り返さねばならないことなのだ。このエラーがなくなって初めて顔面補正は可能となる。
 最初の引き伸ばしでエラーなしはほとんどなく、必ずやエラーリストの補正が必要となる。そして、最後には目をギョロギョロさせた男の指摘が必ず入る。
「もう数ミリ頬骨を広げないと、上手く鼻骨がくっつかないよ」
 いつも聞いているはずの男の指摘だったが、ゆいは爆発を起こした。
「もうヤダ! なんで、こんな苦労しないといけないのよ。友達は大した苦労もしないのに、私のことを努力もしないで生まれながらにキレイ、みたいにバカにするし!」
「きれいに生きてくためには仕方ないんだよ、な」
「人間なんか、いらない顔を平気で整形だとか言って改造するじゃない、骨を削ってシリコン入れて」
「しょうがないだろ、あれは我々にはできない」
「もういい。こんなことなら、キレイに生きていけなくたっていい」
 ゆいの爆発は止まらなかったが、男は慣れたようになだめる。
「そういうわけにはいかないんだ、我々はどのみちこの補正をしなければ生きていけない。人間のもつ顔とかけ離れているのだから」
 言いながら男の顔から目がこぼれてきた。
「ほら、言わんこっちゃない、三日間補正をサボっただけでこのざまだ。我々はこのシステムがあるからこそ、人間界に化けていられるんだよ。どうせ毎日面倒な作業をするなら、キレイな顔になれる方がいいだろ?」
 ゆいは泣きながら、男の目を顔に戻してやった。
「ゆい、ホントにお前は美しいよ。この世の中で、美しいと言われる本当の人間はどれほどいるんだろうかね」


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