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松山椋さん

地獄からやってきた文学青年です。結局名前元に戻しました。

性別 男性
将来の夢 涙を流さないようにする
座右の銘 お前の背中はまるででたらめやぞ

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青い花(永遠に幸せになりたかったから)

15/07/13 コンテスト(テーマ):第六十回 【 自由投稿スペース 】 コメント:9件 松山椋 閲覧数:9378

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 友だちがほしかった。
 いや、確かに恋人がほしいというのもある。大学を卒業した年に付き合っていた女の子と別れてから、それこそひと晩の付き合いこそあれど、基本的にひとりきりで日々を過ごしていた。
だけど普通の恋人では我慢ならなかった。同じ大学で知り合った同い年で、たまたま実家が近くて、休日には一緒に食事をして、映画を観て、夜は抱き合って眠る。そしていつか結婚をして平凡な家庭を築く。子供は二人いて・・・いや、やめておこう。とにかく凡庸な恋だけはしたくなかった。こう、なにか、お互いにおじいさんおばあさんになっても手をつないで眠れるような、休みの日には公園や遊園地に行って心の底からはしゃげるような、お互い読んだ面白い本について居酒屋でいつまでも語り合えるような・・・。そんな友だちのような恋人がほしかった。俺は寂しかった。真紀が俺の元を去っていってから(イヤ、この表現は正確ではない。正しくは俺が振ったのだ。)この寂しさはまた戻ってきた。毎日死んだように日々を過ごして、夜は眠るためにあった。そして俺はいまこの小説を書いている。もともとこの連作の小説はハッピーエンドで終わるはずだった。それがこんなことになるとは。お許し下さい、俺はこんな男なんだ。
前置きが長くなった。そろそろ小説に移ります。短いのですぐ読めるハズ。

 俺が黒猫と出会ったのはそろそろ年も暮れに差し掛かった頃だった。最近はSNSが隆盛をきわめていて、御多分に漏れず俺もいろいろやっているのだが、その内の一つになんと、黒猫がいた。最近は猫も携帯電話を持っているのである。生意気にも人の言葉をしゃべり、いったいどうするのかわからないが文字も打てるらしい。ある日、その黒猫にフォローをされていた。ああこいつも小説好きで、俺をフォローしてくれたのか。そのくらいの認識だった。第一、一人称が『僕』だ。まあよくいるパターンである。きっと春樹あたりが好きなのだろう。そう思って放っておいた。しばらくするとリプライが飛んでくるようになった。『小説書いてるんですか?僕も書いてます!』へえ、そうなのか。どんな小説書くんだろう。そう思って小説投稿サイトを覗いてみると、出てくる出てくる。いろいろあった。読んでみる。うーん、なかなかいいじゃないか。だけどおかしいな、登録されている名前が女だ。文体なんか完全に女の子のそれだし、いったいどういうことだね。直接本人に聞いてみた。『メスです!』とか何とか言っていた。まあメスだわな。
 と、いうわけでこの黒猫と出会ったわけであるが、ここからの毎日は割愛する。この小説は誰かに見せるためのものではないし、どれだけ毎日が楽しかったかは当人が一番良く知っているからだ。『それから、橋の下をたくさんの水が流れました。』という言葉がある。これで十分ではないか。とにかく、俺と黒猫は出逢い、そして別れた。

 黒猫が俺の元を去っていった翌日、俺は街に出た。彼女(といっても猫だが。)と飲み歩くはずだった街だ。俺は無性に酒が飲みたくなった。理由はよくわからない。ただ感情が沸いてこなかった。とにかく、一杯のアルコールにありつきたくて、仕事の後の付き合いを断り、一人でこの街まで来た。街は春先の陽気に浮かれてアスファルトから湯気が立ち上り、酒を飲む人々のため息と哄笑で飽和していた。タクシーを降り、俺は目に付いたバアに入った。
バアにはお客の一人もいなかった。まだ開店したばかりのまっさらな空気、磨き上げられた木製のカウンターの一番右端に腰掛け、ウイスキーの水割りを注文した。俺が学生時代に飲んで吐きまくった懐かしい酒だった。酒はすぐに出てきて、俺は数年ぶりにアルコールを口にした。薄くしてくれ、と頼んだにも関わらず濃く、俺はしばらくむせた。そしてバーテンさんに話しかけもせず、ゆっくりと飲み下しながら、黒猫とお話しながら過ごした日々を思い出していた。彼女がしてくれたこと、彼女が笑ってくれたこと、彼女が怒ってくれたこと、彼女が、彼女が、彼女が・・・。

 気が付くと俺はカウンターに突っ伏して酔いつぶれていた。まさか水割り一杯で潰れるとは思わなかった。俺はここまで酒に弱くなっていたのか。(イヤ、元々弱すぎるほど弱かったが。)前後不覚から目を覚まし、顔を上げると目の前に水が置かれていた。それを一気に飲んで、バーテンさんに侘びを述べた。バーテンさんは優しく微笑んで、こういった。
「どうやら恋に破れたようで。見てればわかります。振られてヤケになってる人の飲み方をしていましたよ。僕もこの業界に20年いますが、あなたのようなお客さんを山ほど見てきました。大丈夫です、まだ夜は長い。ゆっくりとしていってください。いや、人生いろいろありますよね。僕は本を読むのが好きなんですが、三島由紀夫の伝記なんか読んでると生きる勇気が湧いてきますよ。この前読んだんだけど、なんだかお客さんの恋人にこういってるみたいにおもえるなあ。『やあ、真紀ちゃん、まあ人生いろいろあるわな。そりゃ俺だっていろいろあったけどさ、でもこうやって生きてるよ。なにかがダメになってもさ、それはそれでまた頑張ればいいじゃん。』ってね。」
 
俺はフラフラした足取りで店を出て、すぐのところにあるゴミ捨て場にしゃがみこんだ。数年ぶりの酒は予想以上に効いているようだった。地面に四つん這いになって俺は吐いた。吐きながら、まだ見たことのない彼女の笑顔が浮かんだ。俺は彼女のことがかわいそうになった。長い長い嘔吐を終え、俺はゴミ捨て場に座り込んで二時間泣いた。こんなに泣いたのはひさしぶりだった。涙を流しながら、こうつぶやいていた。



 真紀。
 お前は俺と出会えて幸せだったのかな。
 それとも不幸せになったのかな。
 よくわからない。
 だけど、
 運命の人と幸せにな。
 幸せになれよ。
 じゃあ、さよなら。

 言葉たちは彼女の住む紺碧の海に囲まれた島には届くはずはなく、この岐阜の厚い雲に覆われた暗い空に吸い込まれていった。



――――――――2015年6月14日  花言葉〜Green〜完


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このストーリーに関するコメント

15/07/17 松山

椋の小説読んで頂き有難うございます。本文でも書かれている『この小説は誰かに見せるためのものではないし』の言葉とおり、本人のカバンの中に大切に保管してあった小説です。突然の事故の為、私達も椋が亡くなった事を受け入れる事が出来ません。今回、『時空モノガタリ』様のご配慮で皆様に最後の小説を届ける事が出来ました。是非、皆様のコメントを天国の椋の元へ届けてあげて下さい。椋の父親より

15/07/19 草愛やし美

松山椋さま、拝読いたしました。

初めて椋さまの作品に出逢った頃を思い出しています。凄い方が来られたと印象を持ちました。ユニークな作品が続き、楽しみにしていました。

時空モノガタリを大切に思っておられた椋さまは、天よりこのサイトを見守ってくださっていると信じます。追悼のコンテスト楽しみに読みにきてくださいね、私も投稿頑張りたいと思います。

素晴らしい作品をありがとうございました。

椋さまのお父さまへ、お体大切にご自愛なさってください。 草藍やし美

15/07/19 松山

草藍やし美様、ありがとうございます。
読んで頂き、椋も喜んでいると思います。まだ、まだ勉強不足だったかもしれません。しかし、椋は、精一杯自分の気持ちを小説にしていました。今から思うと小説を読むとその時の椋の気持ちと小説の中に書かれている事がリンク致します。いつも一緒に居た私は解ります。是非、追悼コンテストに投稿して下さい。草藍やし美様の優しさは椋にも届きます。また、私達の励みにもなります。ありがとうございます。む

15/07/27 てんとう虫

青い花の祈るような主人公の真紀への想いについ青空見上げてみたくなりました。こんなにも情景豊かな文章の松山さんの作品をもっと読んでみたかったです。下のコメント見て投稿作品でなかったと読みこんな大切なもの読ませていただけありがたいです。私もちょうせんして頑張って書いてみます。 今年は一段と暑い年ですので松山さんのご家族様体調を崩されないように水分と体温調整に気おつけてお過ごしください。

15/07/28 松山

てんとう虫様
有難うございます。この作品は椋にとっても大事な作品だったと思います。自分のカバンの中にそっとしまってました。また、椋の気持ちが文章の中に込められていると思います。突然の事故を予測したような『じゃあ、さよなら。』読み返すと胸が痛くなります。コメントを頂き椋も喜んでいると思います。また、お心遣い有難うございました。 てんとう虫様もお身体にお気を付け下さい。

15/08/03 眞木 雅

何度も何度も繰り返し読みました。
花言葉Green、花言葉Blackは僕が生まれて初めて
共作という形で短編をやりとりしたものでした。
お返事のつもりで投稿した短編もなんだか自分の言葉に思えません。

それから、最後書き忘れた一文があります。

僕は椋に出会えて幸せだったよ

15/08/03 松山

眞木 雅さん、いゃ真紀さん、コメント有難うございます。
Greenは椋のラッキーカラーだそうです。
2015年6月14日に椋が旅立つ一週間前に書かれた作品です。
2015年6月14日に重要な意味があったのでしょうか?
また、この時、一週間後の出来事を予測していたのでしょうか?
私達には解りません。
唯、椋が旅立った後も、本が届きます。

15/08/28 こうちゃん

松山様、私の拙い作品にわざわざコメントを有難うございます。恐縮です(笑)書くことを半ばあきらめていた私が、偶然にも「時空モノガタリ」というサイトを知り、その中で「松山椋さん」の存在に惹きつけられ、気付いたら書いていたという次第です。「お母さんを知らないか」、「青き筋肉の疾走」、「青い花」、拝読させて頂きました。真の芸術家に宿る「不退転の決意」を、まざまざと作品から感じとりました。なんら面識もない私が言う資格はありませんが、お父様のお気持ちはきっと天国にいる椋さんに届いていると思います。私の作品を理解して頂けたくらいですから(笑)今頃、椋さんも、天国のバーで、古の文豪達と飲み交わしてると思います(^^)

15/08/28 こうちゃん

松山様、私の拙い作品にわざわざコメントを有難うございます。恐縮です(笑)書くことを半ばあきらめていた私が、偶然にも「時空モノガタリ」というサイトを知り、その中で「松山椋さん」の存在に惹きつけられ、気付いたら書いていたという次第です。「お母さんを知らないか」、「青き筋肉の疾走」、「青い花」、拝読させて頂きました。真の芸術家に宿る「不退転の決意」を、まざまざと作品から感じとりました。なんら面識もない私が言う資格はありませんが、お父様のお気持ちはきっと天国にいる椋さんに届いていると思います。私の作品を理解して頂けたくらいですから(笑)今頃、椋さんも、天国のバーで、古の文豪達と飲み交わしてると思います(^^)

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