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15/07/13 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:2件 るうね 閲覧数:1077

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 あいつを罠にはめてやろうぜ、ということになった。
 あいつというのは、坂巻哲哉。いつもクールな鉄面皮で、動揺するところなど見たことがない。
 その哲哉を、クラスの男子数人で罠にはめてやろうというのだ。
 決行は、修学旅行の初日の夜。
 いわゆる、「好きなやつ、一人ずつ言っていこうぜ。パスはなしな」という、甘酸っぱい青春の一ページだ。ここで罠を仕掛けて、哲哉の鉄面皮を崩してやろうというわけ。
 行き先は京都。日中は寺めぐりで、いささか面白みに欠けたが、夜、哲哉に仕掛ける罠のことで、俺たち男子は盛り上がっていた。
「あいつ、どういう反応するかな」
「顔真っ赤にして怒るんじゃね?」
「何とかごまかそうとするに一票」
「あー、いまから楽しみだぜ」
「おい、声がでけぇって。聞こえちまうぞ」
 で、なんかんので、その日泊まる旅館に着く。
 料理を食べて、温泉に入り……消灯時間前に俺たちは一室に集まっていた。むろん哲哉も一緒だ。
「よーし、いまから好きなやつ一人ずつ言っていこうぜ。パスはなしな」
 あらかじめ決められていた文句を、俺が言う。この文句に、罠が仕掛けられている。
「じゃ、最初は哲哉からな」
「俺?」
 いきなりの指名にも、哲哉の表情は崩れない。だからこそ、崩したくなるのが人情というもの。
「俺は……鈴城あかねかな」
「鈴城?」
 哲哉の口から出たその名を聞いて、むしろ俺たちの方が意外に思った。鈴城あかねは決して可愛いというわけではなく、むしろ不細工の範疇に入る。肉付きがいい、と言えば聞こえはいいが、単なるデブだ。
「へ、へぇ。お前、鈴城が好きなんだ」
「まあ、クラスの女子の中ではね」
「じゃあ、次」
 と言って、別の男子を指名する俺。
 そいつは、
「俺は、カレーかな」
 と言った。続いて、
「俺、ハンバーグ」
「ステーキ」
「寿司」
 といった声が続く。
 そう。
好きなやつ≠ニいう言葉でカモフラージュして、実は好きな食べ物を訊いていました、というオチ。これで哲哉も少しは……。
 全然動揺していなかった。むしろ、当然のことのように、事態の推移を眺めている。
「ひ、引っかかったな、哲哉」
 盛り下がりかけた場の空気を、あえて読まずに、俺は言う。
「お前、鈴城が好きなんだよな」
「そうだけど?」
 相変わらずの鉄面皮に、委縮しそうになるのをぐっとこらえ、
「どこが好きなんだよ?」
「肉付きのいいところかな」
「はあ? なんだよ、それ」
 だんだん苛立ってきた俺は、声を尖らせる。
「お前、気づいてないの? 俺たち、お前をはめたんだぜ」
「なにが」
「だから」
 そう言って、逐一説明してやる。こんなに鈍い奴だったっけ?
 説明を聞いた哲哉は、なるほどとうなずき、
「ああ、ごめん。完璧に質問の意図を誤解してた」
「誤解してたって……?」
「俺もカレーが好きとか、そういう意味で鈴城のことを好きだって言ったんだ」
 え?
「それって、どういう……?」
 その時。
「おーい、もう消灯時間だぞー」
 先生が部屋に入ってきて、そう言った。


 あの後、一度だけ、哲哉に、
「あれって冗談だよな」
 と、訊いてみたことがある。
 哲哉はいつも通りの鉄面皮で、
「なにが?」
 と、問い返してきた。
 きっと、あいつなりの照れ隠しなのだろう。そうに違いない。
 いまだに、俺は自分にそう言い聞かせている。


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このストーリーに関するコメント

15/07/13 戸松有葉

「カレー」の前に人肉オチに気付けなかった自分が憎いです。

15/07/13 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

まだこっちでは、それほど私に対するイメージが固まってませんからね。
なろうの方だと、タイトルだけで看破される恐れがある(笑

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