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小沼 道明さん

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訪問販売

15/07/10 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:1件 小沼 道明 閲覧数:1097

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「五味梨尾と申します。お話だけでもお願いいたします」
感じの良い営業マンだった。
 私は社会人一年生ではじめての一人暮らし。親元を離れ、約半年が過ぎようとしていた。慣れない生活のおかげで部屋はゴミ屋敷寸前だった。
全くその気は無かったが、熱心なので話だけは聞くことにした。
「ありがとうございます。こちらの商品は従来の掃除の概念を覆す商品で、『掃除大臣』と申します。ほとんど労力を使わすに綺麗さっぱり掃除が出来る商品になっております」
 五味さんは狭い玄関に入りドアを閉め、不安定なゴミ袋の山の上に、段ボール箱を置きながら『掃除大臣』なる物の説明をはじめた。中からは、何やら計算機が大きくなったような物が出てきた。液晶画面の様なものと数字と平仮名のボタンもあった。とても掃除用具には見えない。
「こちらの電源を入れ、このランプが青に変わったら準備完了です。あとは簡単、掃除して取り除きたい物を入力していただいて、この〈開始〉ボタンを押していただければ掃除完了です。」
私は、五味さんの言っている意味が解らなかった。
「あの・・・どういうことですか?掃除用具ですよね?」
五味さんはいたって平然と続けた。
「そのとおりです。掃除をするための道具です。」
「掃除機とか雑巾とかではないのですか?」
「従来型にはそのような物もありました。しかし『掃除大臣』はこんなにもコンパクトでしかも電池で動きます。それでは実際に何かで試してみましょう」
五味さんは理解出来ずにいる私を見て、無理もないというような調子で、近くのゴミ袋を自分の目の前に置いた。
「では、こちらのゴミ袋を処分したいと思います。このように{目の前のゴミ袋一つ}と入力して、よろしいですか?それから〈開始〉ボタンを押します」
五味さんが入力していくと、『掃除大臣』の液晶画面に、入力された文字や数字が表示されていく。そして〈開始〉ボタンが押された。数秒後、私は思わず「あ!」と叫んでしまった。目の前のゴミ袋が、徐々に薄くなり次の瞬間には消えて無くなってしまった。
私は自分の目を疑った。
「どうです?簡単でしょ?」と五味さん。
「ゴミ袋は何処へいってしまったのですか?」
「それは企業秘密です。でも不法投棄をしているわけではありませんのでご安心を」
満足気な五味さんは更に続けた。
「入力の仕方次第でなんでも消せます。ただし、日本国内に限ります。ゴミや不用品以外に、害虫も消せます。ゴキブリやねずみなどです。一度消したものは何があっても元に戻せませんのでご注意ください」
私はそのとてつもなく不思議な掃除用具に惹かれていた。
気づけば商品の値段を聞いていた。
「今はキャンペーン中ですので、特別価格の13,980円でございます」
そして購入していた。
「ありがとうございます。これであなたも今日から、日本一の掃除大臣です。又の期会がございましたらよろしくお願いいたします。あ、それから、取扱い説明書は必ず最後まで良く読んで下さい。それでは」
五味さんは丁寧にドアを閉め引き上げていった。
早速私は手始めに部屋にあるゴミ袋の全てを片付けようと思った。
『掃除大臣』に{部屋中のゴミ袋全部}と入力し〈開始〉ボタンを押した。すると部屋のあちらこちらで幅をきかせていたゴミ袋たちが薄くなり消えていった。急に部屋が広くなった感じがした。
 ゴミ袋の無くなった床にはなにやゴソゴソカサカサ動くものがたくさんいた。その正体はすぐに判明した。ゴミ袋の隙間を寝床にしていたゴキブリさんたちだ。私はすぐに『掃除大臣』に{部屋のゴキブリ全部}と入力し〈開始〉ボタンを押した。すると3秒後にはゴキブリさん達は一匹残らず居なくなった。
 綺麗で広くなった部屋でコーヒーを淹れしばし、つぎは何を消そうかと楽しみに考えていたが、明日は仕事だと思い出した。顔も見たくないあいつと顔を合わせなくてはならないと思うと、会社に行きたくなかった。『掃除大臣』を箱に戻し、再びテレビを見ていた。
 その夜、布団の中でいいことを思いついた。布団から這い出し、部屋の電気を付ける。
『掃除大臣』の電源を入れ、入力する。掃除大臣の液晶画面に、あいつの名前が表示される。私は「さよなら」とつぶやき、〈開始〉ボタンをゆっくりと、そして確実に押した。
 明日の出社が楽しみだ。あいつは無断欠勤だろうなと思いつつ、座っていた椅子から立ち上がろうとして愕然とした。
 私の下半身が消えて無くなっている・・・
あわてて、段ボール箱の中に残っていた説明書を読んでみる。あった。最後のページ。【人間(人体)にはご使用になれません。あなたの一存で、他人の人生を左右させることはできません。誤って実行した場合、誤作動を起こす可能性があります。本件の誤作動に関して当社は一切の責任を負いかねます。】

おわり


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このストーリーに関するコメント

15/10/16 seika

星新一っぽいお話だね。でも私にも消したい人っていますよ。消せないから付き合い方考えたり距離を置いたり・・・。

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