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蒼樹里緒さん

https://note.mu/aorio まったり創作活動中です。 コメント・評価等、本当にありがとうございます。個別返信は差し控えますが、とても励みになります。

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廃賓回収車

15/07/07 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:2件 蒼樹里緒 閲覧数:1445

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 世の中には、便利な業者がいるものだ。不用品どころか不要な人間まで引き取ってくれるなんて。
 作業服姿の男たちが、私の家からゴミ同然の家具類を運び出し、門前の大型トラックにせっせと積んでいく。
 引っ越しをするわけじゃないけれど、要らないと判断したものはすぐ捨てて買い替える主義だ。この業者には、以前から何度も世話になって感謝もしている。
 作業員のリーダーが、私に愛想よく声をかけてきた。
「奥様。ご指定の家具類は、すべて積み終えました」
「そう、ご苦労様。それじゃ、あとは――」
 ちらりと玄関を見やれば、両脇から作業員に引きずられるようにして、家の使用人たちが出てくる。皆、顔面蒼白で、私の姿を見ると口々に懇願した。
「奥様、何故私をお捨てになるのですか……どうかお許しを!」
「あなた、私宛の郵便物を間違えて捨てておきながら、謝りもしなかったじゃないの」
「奥様、私の拵えるお食事がお気に召さなかったのでしたら、今後改善致しますので、何卒ご容赦を……!」
「そうね、あなたの料理はずっと味わっていたかったわ。二度も三度も食器に羽虫や髪の毛が入ってなければ、ね」
「奥様、庭のお手入れを長年誠心誠意務めて参った私を、本気でお捨てになると……!?」
「私の一番大事な花瓶を、あなたは割ったでしょう。どこに誠意があるっていうのかしら」
 無様に泣き喚く彼らもまた、トラックに積み込まれていく。その様子に、リーダーが満足気にうなずいた。
「ご安心ください、奥様。失敗してしまった彼らは、矯正施設で再教育され、また新たな人生を歩んでいくことでしょう」
「そうだといいわね。これで全部かしら」
「いいえ、まだお一人だけ残っています」
「え?」
 トラックのほうから戻ってきた作業員たちが、何故か私を取り囲む。屈強な体格の男数人を見上げ、私は眉をひそめた。じわり、とてのひらに汗がにじむ。
「……何の真似かしら」
「旦那様より、奥様も回収するようにとのご依頼がございまして」
「何ですって!? 今回の依頼人は私よ、料金も前払いしたはずでしょう!」
「旦那様は、奥様とは別途でご依頼をなさいました。そうですよね?」
「ああ」
 玄関から出てきた夫の声に、振り向く。その顔には、感情なんて浮かんでいなかった。
 歩み寄ろうとしても、作業員たちに横から押さえられてしまう。
「あなた、これは一体どういうこと!?」
「おまえの悪い癖には、いい加減うんざりしたんだよ。人も物も、毎日のように簡単に捨てていいわけがないだろう」
「あなただって、いま私を捨てようとしてるじゃないの。最低ね……!」
「今までおまえに見放されてきた使用人たちも、そう思ってるかもしれないとは考えないのか」
 この人だけは、私を理解してくれていると信じていたのに。
 怒りと屈辱で熱くなった私の頬を、夫のてのひらがそっと包む。何故か、この瞬間だけは氷じみた冷たさを感じた。

「おまえの失敗をもっと早く正せなかったことこそが、俺の失敗だ。矯正施設で、ちゃんとやり直せ。他人の気持ちがもっと汲めるように、な」

 冷ややかな言葉と眼差しが、私の心まで突き放した。
 どんなにもがいて抵抗しても、夫の背中は遠ざかっていくばかりで。押し込まれた荷台の扉が、無情に閉められる。
 真っ暗な空間で、使用人たちが私を哀れむ視線を感じた。不規則に揺れながら、トラックが走り出す。

 ――捨てられるというのは、こういうことだったのか。

 涙を絶え間なく流しながら、私は歪に哂い続けた。何もかもを手放す羽目になった、自分の愚かさを。


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このストーリーに関するコメント

15/07/08 ハヤシ・ツカサ

ハヤシです。興味深く拝読しました。
タイトルの熟語に隠された妙、人間をも使い捨てにされる近未来に起こりうるかもしれない恐怖感。でもこれは、アジア圏のどこかで実際に起きている話だったりして。
 いったん社会人になれど、社会人失格者は山のようにいる。公立であろう矯正施設のことを当のマスコミは「『強制』施設の是非」との見出しで世に問うてたりして。とにかく、いろんな意味で恐怖政治真っ只中の現政権が、近い将来施行しててもおかしくないリアル感が、秀逸だったと思います。
 ワタクシの作品にも、お暇がございましたら軽くご感想を…。

15/07/16 光石七

拝読しました。
人間まで回収されるとは、怖いですね。
多くのものが使い捨てされる社会と人の身勝手さを皮肉っている面白いお話だと思います。

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