茶鶴さん

自分が思い浮かべた情景を地の文に詰め込もうとするため実際あまり出来てないが地の文が長かったりする← 睡眠大好き。

性別 女性
将来の夢 好きなことしてお金稼ぐ
座右の銘 なんか…いけるっしょ。どうにかなるよ。うん。

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空音

12/07/29 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:0件 茶鶴 閲覧数:1787

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夏休みが始まった。
プールに行ったり、花火を見に行ったり、少し遠くの大きなお祭りに行ったり、と受験勉強なんてない中二の優雅な夏休みを満喫する予定を友人と立てて嬉々していたほんの数日前が嘘のような落胆ぶりを、教室の机に突っ伏した眞鶴は見せていた。

「補習とか無理…」

喧しい蝉の鳴き声と数学の溝口―通称、子守唄先生の低く心地よい子守唄が蒸し暑い気温をベースに程よく煮込まれ、そして最後の隠し味、無風が眞鶴を眠りたくても眠れないイライラへと誘っていた。

時計を見るとあと5分。
これで帰れるのならまだいいのだが、休憩を挟んでまだあと1時間あると思うと、眞鶴は発狂しそうだった。
何気なく、というよりは同じ地獄を味わっている親友に助けを求めるように春奈の方を見ると、目があった。
ニヤニヤしている。なんだろう。

地獄の合間の束の間の休息を告げるチャイムが鳴った。と同時に、春奈のもとに駆け寄った。

「何ニヤニヤしてんのさ」
「いい情報を仕入れたの」

春奈は壺を高値で売りつける悪徳商人のような笑みを浮かべ、眞鶴に耳打ちした。

「松原くん、今日来てるって。」

眞鶴は目を見開き、それから口元をおさえ、最後にあたかも彼が目の前にいるかのように恥ずかしそうに俯いた。
眞鶴の頬が、耳が、ほんのり赤くなり熱を帯びた。補習中の屍のような彼女は片鱗すら残していなかった。
きっと、部活の練習だろう。野球のユニホームを着て、グラウンドを走ったりキャッチボールをしたりしているのだろう。想像するだけで、眞鶴の胸は高鳴った。

彼と眞鶴は、中二の春に同じクラスになり駐輪場で初めてまともに話した。
自転車通学が生徒の大半を占めるため結構な広さの駐輪場があるのだが、新学期が始まって間もなく、眞鶴と松原くんはたまたま自転車の置き場が近く、一緒に帰ったことがあった。そして眞鶴は恋をした。

「ちょっと行ってくる!」

眞鶴は教室を飛び出した。
春奈の声が背後から聞こえるが、今はどうでもいい。
夏休みが終わったらまた逢えるのに、と思う自分がいる。でも。

グラウンドに行く勇気はなかった。
気づけば駐輪場にいた。
学校は休みだが部活はある。そのせいか、平日と変わらないくらいの数の自転車が並んでいた。
補習再開のチャイムはもう鳴った。今更教室には戻れない。春奈がうまく説明してくれているだろう。
眞鶴は、この星のように膨大な数の自転車の中から松原くんのそれを見つけることにした。

荷物が多いからとお父さんにカゴを大きいものに変えてもらったんだ、と照れ臭そうに語る夕日に照らされた横顔、きちんと手入れされてるキラキラしたシルバーのボディーの自転車をおす少し筋肉がついて逞しくなってきた腕…
眞鶴は自分の恋が始まった時のことを思い出しながら自転車を探していった。

見つけたら、多分隣に自分の自転車を持ってくるだろう。
そして、練習終わりの彼に「一緒に帰ろ」と声をかけ、帰路につくのだ。
ドキドキして、フワフワして、彼を見て胸が張り裂けそうになるかもしれない。
他愛のない会話の中からキラキラした彼の言葉をたくさん拾い上げて、私の自転車のカゴに入れよう。
想像するだけでわくわくする。

そういえば、この間『自転車と恋って似てるよね』と言っていた。
時間はまだある。具体的には教えてくれなかったから、考えてみよう。
眞鶴は目を瞑り深呼吸をした。
汗をかくのも、このまとわりつく暑さも、彼が関わっていると思うと心地よく思えた。
疲れてない、といえば嘘になる。
しかし、気だるさはない。


ちりん、ちりん、
ちりん、ちりん、
たくさんの星がお互いを呼び合ってるような自転車のベルの音が私を包んだ。気がした。
そのなかに一つだけ、私を呼んでるかのような音がまじっている。



目を開く。

あ、見つけた。


私は駆け出した。


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