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ケイジロウさん

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雄ライオンの考察

15/06/29 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:1030

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 本当のこと言うと別に欲しかったわけではなかったんだ。
 そりゃ、欲しかったよ。けど、なんて言えばいいのかな、それに対する情熱を僕以上に持っている人が仮に周りにいるのであれば、僕はそれを「どうぞどうぞ」と譲る、その程度で欲しかったんだ。
 
最後の一つのから揚げ。
 
 僕の向かいにはその時年上の女性が座ってたんだ。その女性はスラっとしてるんだけどまぁよく食べる。僕がそのから揚げに箸をのばそうかどうか悩んでる時、その女性は隣の女性との会話に夢中。でも本当に夢中だったのかどうか実は今でもわからないんだ。でもその時の僕の推測はたしか、「これは絶対演技だ。アイツの頭の中にはから揚げのことしかない。隣のオンナの<髪を切られるのは女子がイイ?それとも男子?>には全く興味がないはずだ。僕が箸をのばそうとしたときジャンケンに持ち込もうとしている。」。僕はそうにらんでいた。
 あっゴメン。住み込みバイトのまかないのひと時の話ね。お昼ご飯の。みんな合わせると20人くらい居たんじゃないかな。男女半々。そして、なぜかいつも男女向かい合って座るんだ。けど、男性は男性同士、女性は女性同士でそれぞれ会話していることが多い、横向いて。まぁモチロン、黙々と食べる人、ガツガツと食べる人、キョロキョロと食べる人、パッと食べてタバコを吸いに去る人、NHKニュースに(口にモノを入れたまま)いちいちコメント及びイチャモンを付ける人もいるにはいるんだけど。
 とにかく迷っていたんだ。いやいや、話し合いで解決する案はモチロンあったよ。当たり前じゃないか。でも、その時その女性に話しかけられなかった。「あのー、最後のから揚げいただいてもよろしいでしょうか?」と一言。別嬪さんだから緊張して話しかけられなかったんではないんだ。これは本当だよ。あるいは、隣の女性との会話を中断するのは失礼だ、と思うほど僕は礼儀正しくないし。そもそも議題がクダラナイし。それが、「私、生きる目的を失ってしまったの」系なら、僕も遠慮するよ、考慮するよ、配慮するよ、それくらいの空気は読めるよ。
 もしくは、「最後のから揚げ欲しいヒトォ〜?」も考えたよ。この案が、閉鎖的空間における集団生活を円滑円満におくる上で一番ふさわしかったと思うんだ。目の前に座っている女性が隣の女性との友情を育んでいる最中に、「おい、食いしん坊。最後のから揚げあきらめてくんないか?」とピンポイント攻撃したら、その女性の自尊心に傷がつくかもしれないしね、いくら僕が言葉にお化粧したとしても。だから、不特定多数との勝負を装ったほうが自然だと思ったんだ。けどね、僕、みんなでジャンケンしたくなかった。僕は知ってる、欲しくないのに参加する人。ただジャンケンしたい人。さっきまで隣の人とおしゃべりしてたじゃん。さっきまでタバコ吸ってたじゃん。さっきまで野党がどうのこうのって言ってたじゃん。僕の勘違いかもしれないけど、その時、そのから揚げをホントーに食べたかった人はその空間に2人しかいなかったはず。誠意。そう、から揚げに対する「誠意」。そのから揚げの製作者に対する「誠意」、うん。
 時間が経つとともにその最後の一つのから揚げに対する欲情が薄らいでくる。から揚げの体温が下がってくる。そこで僕は、これは緊急だ行動しようと腹をくくったんだ。その時誰かが僕を注視していたとしても気付かなかったと思うね。一人を除いては。そう、向かいの女性。僕はその時、プロ野球の代走がピッチャーを見る目になっていたと思う。たまに横を向く。前を向く。ぺちゃくちゃ。くちゃくちゃ。わっはっはっ。横を向く、前を向く、ぺちゃくちゃ、くちゃくちゃ、わっはっはっ、今だっ!!
 実はその時その女性が横を向いたかどうか知らないんだ。もうスタートは切ってしまっていたし。僕の最優先課題は、箸をから揚げに最短コースで移動させ、一度で的確にはさんで、最短コースで口に移動させること。
成功。美。
それから、その女性を見たんだけど横を向いたいた。
勝った
むしゃむしゃ

「あっ!ないぃ!!から揚げがないぃ!!」
「あっ、スミマセン、食べちゃいました。」
「ホンマぁ?いつの間にぃ?」
「えっ!?ホントに気付かなかったんですか?ウソでしょう。ウソでしょう?」
「いやいや、ホンマに知らんわ。えぇいつの間にぃ?」
「なんですかぁ。こっちは、動物園のライオンの檻からそーと骨を盗むくらい緊張しましたよぉ。」
「はっはっはっはっ、そりぁオーバーやわ、オォーバァー。」

 某国立大在学中で働きに来ている青年が一つ咳払いをしてからボソッと、
「実は、ライオンの雄は無頓着らしいですよ。」
 隣の女性がピンク色の声で、
「じゃぁ、あなたはオスのライオンね!ぷっ」
 そして、
「えぇ、わぁーし、ライオンのオスなーん?なんかイヤやわ〜。」


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