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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

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将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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エミーが運んだ幸せ

15/06/27 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:4件 ちほ 閲覧数:2005

時空モノガタリからの選評

町を掃除しようという動機ではなかったにせよ、幼いこどもたちを助けようとしたトーイの優しい心が素敵ですね。また、子供達を救うことになった旧式ロボットのエミーに朴訥な魅力がありますし、ロボットと子供達の友情がよく描かれていますね。確かにこんなロボットがあったら良いのに、と思わせられました。

時空モノガタリK

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「出ていけ! よくも大切な原稿を焼いてくれたな! 二度と帰ってくるなっ!」
 作家は怒鳴って、冬の寒空の下、ゴミ焼却ロボット・エミーを家から追い出した。
 エミーは七歳の子どもの背丈ほどで、ずんぐりむっくりな体型をしていたが、二つの車輪で移動できた。今、彼は舗装された道をゆっくり進んでいた。目的地などない。ふとゴミを見つけると、左の金属アームを伸ばして掴み、頭部をパカッと開いて、そこに放り込む。すると、彼の体内にパッと炎が生まれて、一瞬のうちにゴミを灰すら残さず焼却した。最新型のスマートなゴミ焼却ロボットなら注目の的になったはず。だが、エミーはもう二十年も昔の型だった。お喋りもできない。丈夫だけが取り柄だったが愛想がない。面白味がなかったのだ。そして、古くなればなるほどエミーは邪魔者扱いされ、何度も転売され、とうとう捨てられてしまった。幸いにもエミーは、この哀しさを理解できず、ただひたすらゴミ拾いに専念していた。その彼を、二人の浮浪児がそっと観察していた。
「あのロボット、おもしろいね。……トーイ兄さん、暖かいよ」
 小さい方の子どもがエミーの頭部にそっと触れ、幸せそうに頬を寄せた。
 トーイは、名案が浮かんだ。思わず大きな声になる。
「そうだ! ノア、こいつをアジトに連れて帰るぞ」
「え? いいの?」
「ちょっと借りるだけさ。さぁ行こう!」
 ノアはエミーの手をとり、トーイもエミーを後ろから押した。
 アジトは、ユクテス川の橋の下にある。真冬だが浮浪児たちはここにしか居場所がない。浮浪児は、トーイやノアを含めて十人。二歳の男の子は病気だった。リーダー格のトーイは命じた。
「今すぐ燃える物を探してこい。こいつは、燃やさないと暖かくならないんだ!」
 子どもたちはすぐに動いた。トーイは病気の子どもを抱き上げた。
「もうすぐ暖かくなるからな。少しの辛抱だぞ」
 橋の下のボロ小屋には、けばだった毛布が人数分しかない。薬どころか毎日の食事もままならない。そして、川辺での生活。一体何人がこの冬の間に死ぬことになるのだろう。去年までは馬小屋で寝ることを許され、ひどい臭いはあったが寒さはしのげた。でも、今年は違う。そんなときに暖かさをくれるエミーは、大きな拾いものだった。
 子どもたちは、川辺から拾い集めたゴミを、どんどんエミーに与えて燃やし、子どもたちは彼に寄り添って寒さをしのいだ。子どもたちは、ただもう暖かさをもらえるだけで幸せだった。
 ところがある日、川辺に散乱していたゴミがすっかりなくなってしまった。トーイは勇気を振り絞って、みんなにこう言うしかなかった。
「もう町のゴミをいただくしかないよ。大人たちは俺たちを嫌がるだろうけど、そうでもしないと……」
 子どもたちは、出来るだけ堂々と町の中に入っていった。トーイとノアはエミーの手を引いていた。大人たちは、顔をしかめて汚れた浮浪児たちを遠巻きに見ていた。トーイは気合を入れて言った。
「ゴミを集めてこい!」
 川辺のゴミは大量にあったというのに、数日しかもたなかった。この町のゴミもすっかりなくなれば、子どもたちには命の危機となるだろう。
「トーイ兄さん、ゴミ持ってきたよ。一緒にあたろうよ」
 優しいノアが話しかけてきた。トーイは不安を押し殺して、エミーに寄りそう。ノアがエミーにゴミを入れると、たちまち熱が発せられて暖かくなる。
「君ら、橋の下の浮浪児だろう?」
 遠慮のない言葉で、大きなカメラを胸に下げた若い男性が話しかけてきた。彼は新聞社のカメラマンで、浮浪児たちが川辺を掃除し、今また町中を綺麗にしている様子をカメラに収めてきたそうだ。彼は非常に感動していた。トーイは、掃除をするつもりで行動していたのではなかったが、とてもそうとは言えなかった。もちろん、他の子どもたちも掃除のことなんか頭になかった。でも、町はどんどん綺麗になり、人々は子どもたちを温かく見守るようになった。
 とうとう燃やす物がなくなった時、トーイは落胆した。それを見越したかのように、世間では『見捨てられた子どもたちが町中を綺麗にした!』と連日新聞やテレビのトップニュースにもなり、あっという間に子どもたちはそれぞれ裕福な家にもらわれていくことになった。別れ際、ノアはエミーとトーイにキスの雨を降らせた。
「一番大きい子だね。そう、トーイというのか。今までよく小さい子どもたちを守ってきたね。もう心配はいらないよ」
 そう言ったのは、少し小太りの優しそうな町長さんだった。みんなを見届けた後、トーイは彼にもらわれていくことになった。そのとき、一つのお願いをした。
「このゴミ焼却ロボットも連れていっていいですか? 大切な友人なんです」
「もちろん、かまわないよ」
 トーイはとろけるような笑顔を見せた。町長さんも微笑んだ。



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このストーリーに関するコメント

15/07/05 凪野裕介

始めまして
”エミーが運んだ幸せ”
読了しました

暖かいお話で気持ちまで暖かなる素敵な作品ですね。
寒さから逃れる為に暖をとるための行為とはいえ
報われてよかったです。

エミーの思わぬ使い方がユニークで秀逸だと思いました。
しかし、河原にあるゴミを全部燃やせるできるなんて凄く処理能力が高い
焼却ロボットですね
私も欲しいです(笑)



15/07/05 ちほ

凪野裕介様
読んでくださって、ありがとうございます。
ロボットがいて、浮浪児もいる近未来を舞台にしてみました。
寒さに苦しむ浮浪児を救いたい。
それにはどうすればいいのか?と考えました。
灰さえも残らない高い処理能力。
エミーは、見た目はともかく体だけは丈夫。
私も、ぜひエミーが欲しいです(笑)
凪野裕介様からコメントをいただき、とても嬉しいです。

15/08/11 草愛やし美

ちほさん、拝読しました。

もうもう涙が止まらなくて、困りました。ちほさんの紡ぐお話はどうしてこうも優しくて切なくて温かいのでしょう。こんなお話が書ければなあと思いました。
動物園のネズミさんもエミーも、モナリザに出て来る白雪姫もみんな温かいです、どのお話もとても素敵すぎます、きっと書いておられるちほさんの優しさが出ているのでしょうね。とても良いお話で楽しませていただきました、ありがとうございます。

15/08/11 ちほ

草藍やし美 様
嬉しいコメントをありがとうございます。
まだまだ未熟で、草藍やし美様の足元にも及びませんが、
未熟ながらも自分なりに主人公たちの幸せを願いながら綴っています。
草藍やし美様の素晴らしい作品には、いつも憧れています。

読んでいただき、コメントをいただけました事を大変嬉しく思います。
ありがとうございました。

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