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ケイジロウさん

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新宿バッハ(2)

15/06/22 コンテスト(テーマ):リレー小説 【 相談屋ケイジロウ 〜新宿編 A】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:932

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「ブラボーブラボー、ハッハッハッ。まだ腕は衰えていないようだな」
パチパチと手を叩きながら男が新宿駅地下駐車場の柱の陰からゆっくり姿をあらわした。
暗くて男の顔がはっきり見えたわけではないが、ケイジロウはその男の声を聞き、久しく耳にしていないにも関わらずその声の所有者が誰のものかすぐに分かった。
「馬場さん?やっぱり“新宿バッハ”は馬場さんのことだったんっすね?あのゴリラにオレを襲わせたのは、8年ぶりの再会のあいさつのつもりっすか?」
 ケンジロウは馬場の差し出す右手をしっかりと握った。力強く。
「いやぁ、悪かった、悪かった。久しぶりにお前さんのボールペンさばきとやらを見たくなったもんでねぇ。ハッハッハッ」
「勘弁してくださいよ、馬場さん。もう少しでもう一本前歯を人工物にしなくちゃならなかったところっすよぉ。」
「スマンスマン、ハッハッハッ」
 真っ黒に焼けた馬場の頬に皺が集合する。
「ところで、お前さん最近新宿で相談屋を開いたそうだな」
「まぁ。去年の冬に父親になっちゃいましてね。そんで、まぁいつまでも暴れまわってても、と思いまして・・・。あっ!だからできませんよ、馬場さんが今日持ってきた仕事。何か知らないけど」
「まあまあ。中で少し話さないか?世間話でも」
 と馬場は紺色の車を指さした。
「実は、これから仕事があるんすよ・・・」
「あぁ、それなら大丈夫だ。パーティーガールのケツを追っかける奴らの見張りだろ。オレがお前の代わりを手配しておいた」
「は?な、な、なんで、というか、オレの代わりって?だ、誰っすか?」
咳払いをしてケンジロウは続ける。
「今、依頼者と信頼関係を作り始めてる最中なんっすから。さっきのゴリラみたいなチンピラだと困るんっすけど・・・」
「オレを信用できないのか?」
 と一瞬鋭い眼光でケイジロウを睨んだ。ケンジロウは黙るしかない・・・。
「はぁ、まったく相変わらず強引なんだからなぁ」
 二人は10メートル先に止まっている紺色のジャガーに向かった。馬場の愛車だ。初めて馬場と会った20年前からずっと車を変えていないようだ。
 馬場は顎で後部座席を指した。ドアを開けたとき肘掛に置いてあるバーボンが目に入った。馬場は、古びた後部座席に深く腰を掛け、ボトルのキャップをまわした。
「一度目の結婚おめでとう」
 と皮肉を言いボトルを少しだけ持ちあげた。そして一口液体を口に含み、ボトルをケイジロウの方に差し出した。ケイジロウも黙って、液体を一口胃に納める。馬場はケンジロウからボトルをとり、次はゴクゴクと。そして、口をハンカチで拭いながらケンジロウの方にボトルを突き出す。ケンジロウもゴクゴクと胃に納める。酔ってはダメだ酔ってはダメだと言い聞かせながら。
 このような馬場との沈黙の儀式にはケンジロウは実は慣れている。軽々しく「で、用(要)はなんっすか?」とは言えない。そういう雰囲気があるのだ。初対面の時からそうだ。馬場は、考えを整理しているのか話す順序を模索しているのかわからないが、とにかくこの間をいつも設ける。ケイジロウは相手が口を開くのをただただ待つしかない。
「実は、この世からいなくなってもらわなくては困るやつがいる」
 前を向いたまま馬場が突然切り出した。
一体誰が困るのだ?が、まだ何も言わないほうがいい、ケンジロウは永年の彼との付き合いでわかる。
「政治家だ」
 そこまで言うと、ボトルをケンジロウからつかみとり一口喉を潤した。ただ、今回はボトルを持ったまま続けた。
「最低なやつだ」
 ここでケイジロウは、おっ、と思った。というのは、馬場が私情で人を“消す”ことは、ケンジロウが知る限り今までなかったからだ。
「契約前の話はここまでしかできない。契約時5000万。成功報酬5000万。Yes or No?」
 因みに、ケイジロウの今回の令嬢ボディガードの報酬はたったの100万なので、ん、と思わざるを得ない。
「ただ、もう海外には行けないんですよ。南米とか、アフリカとか」
ケインジロウがそこでようやく口を開いた。まだ酔いはまわっていない。
ケイジロウも前方を見つづけていた。が、馬場の腰が少し立ったのをケンジロウは見逃さなかった。
「ココだ。そいつがいるのは、新宿だ。今までのような国外の仕事じゃない」
 これにもケンジロウは、おっ、と思った。今まで、海外で日本人観光客を装ってターゲットに近づき、ボールペンでグサッと。相手はカメラを抱えたアジア人に無警戒なことが多かったので、ケンジロウにとってそれらの仕事は朝飯前だった。ただ、ココ新宿で・・・。政治家を相手に・・・。

「まぁ、考えるだけ考えてみてくれ。明日ここで同じ時間に会おう」
と、一方的に言ってケンジロウに、車から出ろ、と顎で促す。ケンジロウは黙って車をでた。

 続く


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