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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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新宿婆(バッバ)

15/06/21 コンテスト(テーマ):リレー小説 【 相談屋ケイジロウ 〜新宿編 A】 コメント:0件 坂井K 閲覧数:996

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『新宿バッハ』そんなヤツ、ケイジロウは知らない。知っているのは『新宿婆(バッバ)』――新宿西口に店を構える占い師である。新宿に住んでいて、彼女の名を知らない者はない。齢七十を優に超えているようだが、正確な歳・出身地などは誰も知らない。良く当たると評判で、顧客には経済人・政治家・スポーツ選手・芸能人らが名を連ねている。

「あの人が、なぜ俺を…?」
 呟きながら、ケイジロウは車のドアを開けた。と、助手席側のシートの上にポストカードが一枚。表には何も書かれていない。裏返す。
「懐かしいな…」
 彼の故郷の写真だ。やはり何も書かれていない。腕時計を見る。まだ10時だ。ケイジロウはポストカードを内ポケットに突っ込むと、エンジンをかけ、新宿婆のもとへと向かう。

 ケイジロウは相談屋である。よく間違われるのだが、いわゆる『探偵』とは違う。人々の悩み事を聞き、適切な助言をしたり、助けてくれる人を紹介するのが主な仕事だ。探偵よりは占い師に近いと言える。だから、自分で動くことはまれである。今回は大恩ある新宿婆の頼みだから動いたのだが、その婆が自分を襲わせるとは…。

 バーン!
「どういうことだ、婆」
 ケイジロウは雑居ビルにある『婆(バッバ)の館』のドアを勢い良く開けた。婆の館は午後からの営業なので、この時間まだ客はいない。
「婆! 婆!」
 何度呼んでも返事はない。歳が歳だけに心配になり、館の中を隅々まで探した。しかし、猫の子一匹見当たらない。ケイジロウは婆の息子に連絡を取る。
「よう、パッパ」

「ケイジロウ。その呼び方は止めろって。俺はまだ独身だ」
 婆の息子、通称『パッパ』はすぐに電話に出た。
「自宅か?」
「そうだけど」
「婆はいるか?」
「さっき出て行った」
「どれぐらい前だ?」
「30分てとこ」
「そこから館まで何分かかる?」
「婆の足でも15分とはかからない」
「そうか…婆は携帯は?」
「持ってるけど、持って出ない」

 母親がおらず、父親と折り合いの悪かったケイジロウは、高校を卒業するとすぐに家を出、深夜バスに乗ってここ新宿にやって来た。なけなしの金を騙し取られ、電柱に寄りかかって泣いていた彼に声を掛けてくれたのが、婆だった。彼女はケイジロウを自分の家に泊め、食事を与えてくれただけでなく、婆の助手の仕事をも与えてくれたのである。

「俺は今『館』にいるんだが、婆がいない。立ち寄りそうな場所を知ってるか?」
「婆は寄り道なんかしないよ。…心配だな。俺もそっちに行くよ」
「いや、パッパは家で待っていてくれ。それより聞きたいことがある」
「何だ?」
「婆の故郷を知ってるか?」
「婆は昔の――新宿に来る前の話はしたことないよ。お前だって、知ってるだろ?」

「息子のお前にもか…」
 ケイジロウは内ポケットからポストカードを取り出す。
「宮津――なんてことはないか?」
「どこだっけ、それ?」
「京都府宮津市。天橋立で有名なとこだ」
「聞いたことないな」
「そうか…少し待って、来なかったら連絡する。そのときは『弟子』を総動員して探してくれ」
 電話を切ると、ケイジロウは改めてポストカードを調べ始めた。

 婆は高名な占い師である。が、それとは別の顔もある。婆の占い料金は決して安いとは言えない。本当に困っている人を助けたい――そう思った婆は、格安の料金(場合によっては無料)で悩み事を聞く仕事を始めた。そこでは新宿婆だということを隠し、相談屋ジュンコとして活動した。ケイジロウが助手を仰せ付かったのは、そちらの業務の方である。

 ポストカードはかなり色あせていた。10年、いや20年は前のものに見える。長い間、日光の当たる場所に置かれていたのだろう。日光…そうだ。光に当てて、見る。表面には何もなかった。しかし、裏面には薄っすらと爪で引っ掻いたような跡が見付かった。どうやらカタカナのようである。判読できたのは半分の4文字「レ」「イ」「タ」「ロ」だけだ。

 レイタロ…レイタロウ。
「まさか、な」
 レイタロウ。それはケイジロウの父親の名である。偶然の一致だろうとは思う。が、気にはなった。ケイジロウは故郷を飛び出して以来、父親と会ってはいない。一度だけ手紙が来たが、封も開けずに無視したままだ。捨ててはないから、まだ部屋にあるはずだが。
「探してみるか…」
 ケイジロウは椅子から腰を浮かした。

 と、そのとき、

 ピロリロリロリロリー

 携帯電話の着信音が鳴った。助手の麦丘依子からだ。
「すまない、麦ちゃん。今日のボディ・ガードの仕事には行けそうにない。断りの電話を入れといてくれ」
「そ、それどころじゃないですよ。先生」
「どうした?」
「婆が、新宿婆が、死体で発見されました」
「何だって!」
 ケイジロウは、思わず携帯電話を床に落とした。


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