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夢の中の空飛ぶ自転車

12/07/27 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:0件  閲覧数:1919

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 私の祖父が死んだのは17歳の秋頃だった。2学期の授業がはじまっていて、部活も辞めてしまったので、夕方になると、家路を自転車で走っていた。
 家の外からも電話が鳴っている音が聞こえていて、鍵をあけるのもガチャガチャと焦っていた。開いてから、バタバタと電話をとると聞こえてきたのは、祖母の声だった。
 「もしもし?みどり?おじいちゃん死んじゃったよ…」
 「えっ?おばあちゃん?大丈夫?」
 夏休みにはいつも秋田に帰っていたので、祖父と祖母の声には聞きなれていた。死という言葉を聞いて、私は小学生のときまであった蔵の中での祖父との冒険や母屋の建て直しをしていたときには、電気がまだ通っていなくて、蝋燭を持って、建築途中の家で祖母と一緒に眠っていたことなど、次々と思い出があふれてきた。
 「畑で採れた枝豆や味噌があった倉庫でな、採れたてのじゃがいもを地下の倉庫へいれるとき、足をすべらせて転落したんだよ…」
 「いま、私ひとりだから、お母さんの職場に電話してみる」
 祖母の泣く声をはじめて聞いた。私は電話で聞いているだけで、涙が頬を伝っていったけど、このままひとりで座り込んで泣いているわけにはいけないと思った。
 「もう一度、秋田へおいで」
 「うん。お母さんと帰るよ」
 祖母が力なく話すのもはじめてのような気がする。いつも気丈に振る舞い、街にひとつしかないスーパーへいくのに、ぐるりと近所をまわり、私が戻っていることを知らせて歩いた。私には不快なことだったので、祖母に何度言っても、聞きいれてくれなかった。
 「もしもし?お母さん?」
 「こら、仕事中に電話してくるのやめてって言ったでしょう?」
 「どうせ、いまお昼休みなんでしょ?それより緊急事態なの」
 私のお母さんは病院のクリニックでナースをしていた。お昼休み休憩の時間はついでに私も診てくれたときにもらった診察券を見ればわかる。
 「あのね、おばあちゃんから電話があって、おじいちゃんが死んだって…。倉庫で足を滑らせて、そのまま転落して、ね?…もしもし?」
 「すぐ帰るわよ?」
 「うん」
 お母さんが電話しながら泣いていたのがわかった。周りに何を言われても、どんなに嫌なことがあっても、プライドをもって、仕事をしている負けず嫌いなお母さんは離婚した父とはきっぱり別れていた。だから、祖父の死を父に伝えることはやめようと思った。
 私は制服のまま、電話のそばから離れられずにいた。1時間ほどして、お母さんが帰ってきた。秋田までの新幹線の切符を買ってきたことと仕事を休む手続きをしてきたことを
話しながら、喪服を探していた。私はこのまま行こうと思った。
 「みどり、電気とガスと水まわり見てきて」
 「はーい。大丈夫だよ?」
 夕暮れの中、私とお母さんは祖父の話しをぽつりぽつりしながら、黙ったままの時間もあり、死を受け入れていくようで、悲しくなった。電車の中で駅弁とお茶を買って、秋田へ向かった。死んでしまった祖父に会ってさよならを言うために、私は覚悟を決めていた。死というのはもう二度と会えなくなるということだから、お別れをするために行くのだ。秋田の祖母のいる実家まで行くのに、夜の11時までかかった。
 祖父は骨になっていた。お坊さんが私に祖父は宮澤賢治の命日と同じだということを教えてくれた。また、仏壇の前で火の番をしていた祖父の長男は酒を飲みながら、明日まで火を絶やしてはいけないということもわかった。蝋燭の火は風にゆらゆら揺れながら、線香の香りも流れてきた。
 私とお母さんは2階の部屋を使わせてもらって、食事をお風呂を頂いてから、すぐに寝てしまった。その夜、私は夢をみた。
 満月の夜に自転車を漕ぎながら私は汽車に乗って月へ向かう祖父を追いかけていた。
 「そっちへ行ったら駄目なんだったら!!」
 私は布団から飛び起きて、見ていた夢の中で祖父を見つけたのに、身体が動かなくなってしまって、そのまま月へ祖父が降りてしまったことを考えると、祖父は死んだのだとわかって、涙がこぼれた。高校の入学祝いに買ってくれた自転車に乗っていまでも、学校に行っているよ・・・声にならなかった。
 1階のキッチンに降りて、冷蔵庫からミネラルウォーターを飲んだ。仏壇の火が明るくあたりを照らしていた。死とうものが、こんなにもじわじわとした悲しみを運んでくることを私はきっと忘れられないと思った。
 朝がきて、朝食を用意する祖母の強さを生きている私たちに視線を向けてくれていることにほっとして、感謝しながら、ちょっとだけ食べた。
 9時頃からお葬式がはじまった。お坊さんを先頭に、親族が続いて、花びらをまきながら、お墓まで行った。夢の中の空飛ぶ自転車よりも、見晴らしがよくて、祖父も、満月よりも、この場所を気にいってくれることを私は願った。
 


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