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南野モリコさん

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将来の夢 一生文章を書き続けること。
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私は掃除が好きな地味な女

15/06/20 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:5件 南野モリコ 閲覧数:1502

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この世に掃除ほど楽しいものがあるだろうか。

片山清美は、無類の掃除好きだった。
小学校でついたあだ名は掃除大臣。教室はもちろん、皆が嫌がる鳥小屋の掃除も進んでやっていた。

10年前に購入した一戸建は、新築の頃と変わらない輝きをキープしていた。清美の喜びは、きれいな部屋に住むことではなく、汚したものを何事もなかったかのように自分の手で抹消する征服感なのだ。料理も好きだが、それ以上に楽しいのは、散らかったキッチンの掃除。ローストチキンを焼いたオーブンを新品当然に磨き上げる。ローストチキンを焼いた事実などなかったことのように、物音ひとつ立てず匂いも汚れも消し去る、この快感と言ったら。

「これだけ上手いんだから、何かに役立てるべきよ」
家は家に来る度、磨き上げられた家を見て感心して言った。

清美もそう考えていた。不妊治療を続けているが、年齢的に子供はもう無理だ。得意なことは掃除。でも仕事にはしたくない。何か社会に役立つ善い行いがいい。

ある日、朝の玄関掃除をしていると、近所の主婦友達、真由美と朝子が訪ねてきた。

「今日、珠代さんのランチ会があるんだけど、清美さんも来ない?」
「公園の隣に出来たイタリアンよ。テレビで紹介されていたけど、なかなかおしゃれそうよ」

楡崎珠代は、この界隈では派手で有名な専業主婦だった。買い物や旅行で忙しく遊び回っているが、暇になると近所の主婦を集めてランチ会をしていた。話題のほとんどが自慢話と悪口で、決して親しくなりたくはないのだが、子供もなく仕事もしていないので、つきあいで時々、顔を出しているのだった。

テーブルに着くと、珠代から「これ、パリのお土産」と、派手にネイルが塗られた指先から口紅が手渡された。今日は、旅行の自慢話か。
「フランスは何度行っても本当に素敵よ。それに比べて日本って本当に退屈な国だわ」

珠代の甲高い声がパリの魅力を話すのを聞いていると、ベビーカーと3、4歳の子供2人を連れた母親が少し離れた4人掛けのテーブルに座った。

「いやだ。子連れだわ」
珠代はあからさまに眉間に皺を寄せた。
フランスでは、子供連れでレストランに入るなんてありえない。マスカラをたっぷり盛った睫毛をバサバサさせながら目を吊り上げて唾を飛ばす。

「隣の家には、4人目が生まれるたよ。子供3人でもうるさいっていうのに4人目だなんて近所迷惑よ。子持ちの家族なんてこの街から出て行って欲しいわ」

楡崎珠代が姿を消したのは、その日のことだった。



驚いて清美は玄関のドアを開けた。

「片倉清美さんですね」
警察官が2人、40代の男が話し始めると、新人風警官がメモを取り始めた。

「楡崎珠代さんが3日前の夜から行方不明なんです。その日、楡崎さんとあなたが日中、一緒に食事をしていたのを見たとの情報がありまして」
「一緒にいたのは私だけじゃないです。他に2人、いました」
「その後はどうされましたか?」
「3時頃、店を出て、そのまま別れました」
40代警官は、新人警察官がメモを取っているのを確認すると、
「ちょっと家の中を見せてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
すると、どこにいたのか、白い手袋をした捜査員が3人家に入ってきた。物々しい空気が流れたが、
「ドアノブやタイルを調べましたが、楡崎珠代の指紋と思われるものは残っていません」
「落ちている髪の毛も楡崎珠代のものとは違いました」
「そうか。ご苦労だった」
40代警察官は、捜査員に支持して外に出させると清美に向き直り、
「急にすみませんでした。いえね、楡崎珠代さんに似た女性がこの家に入るのを見たという情報がありましてね。派手な女性だから間違いはないと思ったんですが」
と平謝りをした。

帰ろうとすると、新人警察官がリビングの外に目を向けた。
「外は何があるんですか?」
「趣味でガーデニングをしていまして」

清美は、サッシを開けると、小さな裏庭を見せた。
煉瓦敷きのテラスに、大きな素焼きの植木鉢が置かれ、バラがみごとな弦を這わせている。
「へえ、しゃれてますね」
ベテラン警察官は、興味がなさそうにサッシを閉め、「次は、〇〇さんの家だ」と新人に指示をし、失礼を詫びながら出て行った。

「裏庭は、調べなくていいんですか?」
ドアが閉まった時、若手警官が聞いた。
「必要ないだろ。庭にあるのはバラだけだ。死体を隠すようなところはない」
「埋められているのかもしれませんよ」
「ははは、まさか」

その夜、清美は、警察が来たことを夫に話した。
「殺人事件だったら怖いね」

洗面台に行くと、見かけない除光液に気が付いた。
「マニキュアしないのに除光液を買ったの?」
「テーブルにペンがついたから落とそうと思って」
夫は笑った。
「君のきれい好きは、完璧だね」


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このストーリーに関するコメント

15/06/20 南野モリコ

作者より、訂正。

「これだけ上手いんだから、何かに役立てるべきよ」
家は家に来る度、磨き上げられた家を見て感心して言った。

→友達は家に来る度、磨き上げられた家を見て感心して言った。

です。失礼致しました。

15/06/28 Nyaok

 何事もなかったかのように、が徹底されていてとても面白かったです。
 証拠隠滅すら掃除とかかっていて深みがありますね。
最後の数行で犯行シーンがありありと思い浮かびました。
綺麗好きという一般的な感性が肥大している単純な異常者というわけでなくて、
それとは別に個人的動機がくっきり分かるのも素晴らしく感じました。
秀逸な小説です。

 レストランに場面転換したところだけは一文つけてほしかったです。一瞬混乱しました。

15/07/04 南野モリコ

Nyaokさん、コメントをありがとうございました。

初めてミステリーに挑戦したので、感想を言って頂き、とても嬉しいです。
ご指摘もありがとうございます。
勉強になりました。

15/07/14 光石七

拝読しました。
さりげなく散りばめられた伏線が効いてますね。
最後の夫の台詞には背筋が凍りました。まさに完璧な掃除ぶり。主人公は今後も同様のことを続けるのでしょうか……
とても面白かったです。

15/07/15 南野モリコ

光石七さん、感想をありがとうございました。

最後の除光液の下り、お分かり頂けましたか?
分かりにくかったかなと気になっていました。

初めてミステリーに挑戦したのですが、書いている本人が1番、はらはらドキドキするものなんですね。

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