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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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お蔭参りしたシロ

15/06/15 コンテスト(テーマ):第八十四回 時空モノガタリ文学賞 【 江戸時代 】 コメント:10件 草愛やし美 閲覧数:1224

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 なめくじ長屋の熊さん、朝早くから何やらゴソゴソしてると思ったら、なんと旅支度していたんだ。人間一生一度はお伊勢さんに参りに行くのが習わし。けどよ、お種ばあさんはいまだに伊勢参りできていない。死ぬまでにお蔭参りできなきゃ死んでも死にきれねぇっていうのに、つれの大工の茂作と死に別れてから心の臓が弱っちまって臥せっている。近頃じゃめっきり弱っちまって心残りで死に切れねぇってうわ言まで言い出す始末だ。隣りでばあさんのうわ言聞きつけた熊さん、何とか安心させてやりてぇってお種ばあさんが飼っている犬のシロをばあさんの代わりに参らせてやろうって考えたんだ。
「お種ばあさん、伊勢参りにシロを代わりに行かせてやるぜいいだろう」
 床に臥せっているばあさん用意している伊勢参り必需品を指さした。熊さん、すぐさま『お伊勢参り浅草村なめくじ長屋シロ』って木札をお陰参りの印のへぇった柄杓と共に括りつけてやり、首には初穂料を入れた巾着をぶら下げた。旅立ちの挨拶にワオーンとシロが長鳴きした。
「頼んだよ、シロ……」
「おめえさんの分までシロ公にちゃぁんとお伊勢さん参らせるから安心しな」
「ありがたや熊さん……」
 病の床から出て行くひとりと一匹に手を合わせた。

 ◇

 ひとりと一匹は早足で城下町小田原に差し掛かったところ街道沿いに和菓子屋が二軒向かい合わせに並んで建っていた。かたや『ねぼけや』もう一軒は『めざめや』、元祖と本家の看板をそれぞれ掲げている。
「わしとこねぼけやは寝呆けて砂糖入れすぎたちゅう甘い菓子、あらまあを食ってっ行ってけろや」
「何を言うか、おらのねざめやのほらまあは三年寝太郎も起き出すくらい甘い菓子、一個食って行ってけろ」
 互いに譲らず二軒の店の前を熊とシロは引っ張られあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。そこへ寺の小僧が息せき切って走ってきて熊さんとぶつかっちまった。「アイテテテ、どうしたってんだい?」
聞くと寺のお堂に誰かが入り込んでいるって言うじゃねぇか。寺の仏像は街道を往来する旅人の無事を祈る大事なもの、喧嘩はそっちのけでみなで泥棒を捕めぇることにしたんだ。
 寺の本堂の前に何やら黒いもんが落ちているじゃねぇか。よっく見るとあらまあとほらまあの餡子のようだ。こりゃどうしたことだってみなが恐る恐る本堂に入ってみたところ、何と高いびきで大きな男が眠りこけている。
「こいつはダイダラボッチだ。おらたちの店が供えた菓子食って眠っているだ」
 みなで考えたんだが、寝ている間にこいつを捕まえようってことになり、みなで男を荒縄でグルグル巻きにしていると騒ぎに気づいたダイダラボッチが起きちまいやがった。シロがワンワン吠えるとびっくり仰天した奴は縄をつけたまま逃げ出した。みんな縄を握ったまま大男に引っ張られ街道をビューンとすげぇ速さで駆けだした。
熊さん、じいさん二人、寺の小僧、加えてシロが連なってビュワンビュワンと上下してみるみるうちに、一行は箱根の山へ、樫木坂に猿滑坂も難なく越えちまった。昼も夜も駆け抜け島田宿の大井川もザブザブ泳いで渡った。速い速いあっという間もないくれぇだ。そのうち熊さん大男に巻きつけた綱を手綱みたいに操りだした。熊さんは猟師をやってるもんだからこういう扱いに長けてたんだ。四日市宿辺りから、伊勢へ大男の頭を向けた。さすがに疲れてきたダイダラボッチは伊勢神宮についたとたん鳥居の手前で倒れてしまった。みなで無事、お伊勢参りを済ませ、倒れていたダイダラボッチにねぼけやとねざめやのじいさんが懐に入れていたあらまあとほらまあを食わせると、すぐさま元気になってスクと起き上がり来た道を走り出した。熊さん巧い具合に今度は江戸へ向けひたすら走らせた。

 ◇

「ばあさん今けぇったぞ」
 お種ばあさんは今際の際の虫の息、シロと熊さんを床で見て正気に返った。
「シロもう間に合わんと覚悟を決めてあの世への旅立ちを始めかけてたわ」
「ばあさん気をしっかり持つんだ、お前さんの代わりにシロ公はちゃんとお伊勢参りしたからな安心しろ」
 熊さんの言葉を聞き俄かに元気を撮り戻したお種ばあさん、シロの足と手を取り合って泣き出した。
「シロありがと」
「ワオーンワンワン」
 ついでに、むっくり起き上がり布団を片づけ始めたじゃねぇか。それも、伊勢だけに威勢のいい片づけっぷり。
 どうでぇ良い話だろう? 何だって、信じられねぇってのかい。大男なんていねぇ、それにいくら何でもそんなに早く東海道を往復できねぇだろうって? 兄さんおいらが嘘ついてるってのかい、べらぼうめこちとら江戸っ子でぃ、嘘と坊主の頭はゆったことがねぇってんだ。熊公とシロはつごう十日でちゃんとお種婆さんのいるなめくじ長屋に戻ってきたんだよ。

 なんたって東海道だけに、十日移動だ。

  お粗末


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このストーリーに関するコメント

15/06/15 草愛やし美

説明:お蔭参りとは、江戸時代に起こった伊勢神宮への集団参詣のこと。江戸からは片道15日間、往復では約1か月かかってお参りしたそうです。

江戸時代、人々が一生に一度はと参拝したいと願った伊勢参りですが、最盛期には何と6人に1人が伊勢へ参ったという記録が残されています。中には怪我や病に倒れお参りできない人もいました。そういう人の代わりに飼い犬がお蔭参りをしたそうです。そんなお蔭犬シロの話は有名で、伊勢ではお土産物として様々なグッズが売られています。画像右はその中のひとつ、お蔭犬の手ぬぐいです。

当時の人々はだいたち一日に十里強(約40km)歩いたと推測されています。もちろんこれは成人男子の場合ですが、歩行速度を時速4kmとすると、単純計算で約8〜10時間も歩くことになります。そのためには夜明け前に出発し、夕方日が暮れないうちに次の宿に着くようにしていました。
『東海道中膝栗毛』の弥次郎兵衛・喜多八の二人が江戸を出て最初に泊まったのは戸塚宿ですが、2日目は戸塚から小田原まで約40km、3日目は小田原から箱根まで約30km強を歩いています。

毎日10時間も歩きつづけながら目的に向かうというのは、現代では考えられそうもありませんが、履物も草鞋履きであったことも考え合わせると、一般的に昔の人は想像以上に健脚だといえそうです。弥次郎兵衛・喜多八の2人は江戸から四日市まで12日かかっています。このあと東海道を離れ伊勢参りをしたあと奈良を回って京に出たと書かれています。

15/06/16 泡沫恋歌

草藍やし美 様、拝読しました。

お伊勢参りと四国のお遍路さんは、昔から日本人の宗教活動でした。
うちの母から聞いた話だと、九州(大分県)から私の祖母はお伊勢さんへ村人たちと一緒に
お参りにいったそうです。
明治時代のことだから、列車は走っていたかもしれないけれど・・・
相当な長旅だったと思います。

ダイダラボッチがいたら、さぞ早かったでしょうね(笑)

15/06/17 レイチェル・ハジェンズ

お種ばあさんも吃驚するほどのスピードで帰ってきたシロ。くれよんしんちゃんでも、商店街までお買い物に行って偉いな〜って思いますが、お蔭参りまでしてくれるとは……!

ダイダラボッチに会うって、それだけでも大冒険ですよね。会わないままだったら、戻った時には種おばあさんがこの世にいないかもしれなくて。何が幸運になるのか、分からないものです。

15/06/18 光石七

拝読しました。
江戸らしい人情と笑い、落語を聞いているようでした。
「なんでダイダラボッチが出てきたんだろう?」と思っていたら、オチのためでしたか。
無事にお伊勢参りもできたし、お種婆さんも元気になったし、めでたしめでたしですね。
面白かったです。

15/06/18 そらの珊瑚

草藍やし美 様、拝読しました。

わあ、このオチ、落語みたいに冴えてます。
江戸時代、お伊勢参りといえば、人々が憧れるイベントであったらしいですね。
お金もかかるし、何より健康でなくては行って帰ってこられないし。
最後にご利益があってよかったです♪

15/06/19 クナリ

やじさんきたさん、あんな珍道中を繰り広げながらも、すばらしい健脚だったのですね…。
その脚力なら、五右衛門風呂の底も抜けるというものです(違)。

昔の出来事を題材にされている話はたいてい少しとっつきづらく感じるのですが、今作はテンポも良く、魅力的な登場人物もめまぐるしく現れるので楽しく読めました。
ラストも秀逸ですね!

15/06/20 鮎風 遊

なるほど十日移動。
テンポのよい、盛り沢山で濃い味なお話しでした。
お陰で、面白い一緒にお伊勢参りさせてもらいました。
こんな落語調の話しを書いてみたいです。

15/07/31 草愛やし美

>泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

昔の人は大変だったと思います。お金も要ったので、旅行はこういう信心などでないと行かないものだったでしょうね。今は楽しいものになって凄く幸せな時代になったものだと感謝しています。

>レイチェル・ハジェンズさん、コメントありがとうございます。

そっか、くれよんしんちゃんのわんちゃんもシロでしたね、年代の差を感じます。大汗 

昔の文献にわんちゃんが伊勢参りを代行したと書かれており、そこから今も伊勢ではお蔭参りするシロを使った土産が売られているそうです。私自身この話を書くまで知りませんでしたが、驚きでした。

>光石七さん、コメントありがとうございます。

ダイダラボッチくらい大きくないと伊勢まで距離がありすぎでした、苦しい選択ですが、何とかオチまでいけてほっとしています。滝汗

>そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

オチはおやじギャグかもですが、自分では落語風味に書くことができ気に入ってます。褒めていただきとても嬉しいです。

>クナリさん、コメントありがとうございます。

今回この作品を書くためにやじきた道中の日程を調べ、私も驚きました。健脚でないと江戸時代は生きていけなかったのでしょうが、素晴らしいと思います。人間、本当はもっといろんなことができるのでしょうね、現代人は便利さに頼り本来の持てるパワーを減らしていると思います。私などその典型かも……です。溜息

>鮎風遊さん、コメントありがとうございます。

落語調の話、私も興味あります、機会ありましたら違ったものも考えてみたいなあと思います。鮎風さんもぜひ書いてくださいね、楽しみに待っています。

15/08/04 滝沢朱音

十日移動!笑
お蔭犬シロの話、初めて知りました。面白いですね!
このまえ「超高速!参勤交代」っていう映画を見たのですが、当時の人はすごいなあとあらためて。
ちょっと歩いてバテてるの、反省しなきゃです。
ワオーンワンワンU^ェ^U

16/06/09 やっちゃん

シロが身代わりに行ったお蔭参りがおばあさんに届いて良かったと思いました。
昔はお伊勢参りと言ったら徒歩でお参りしたため生きて帰れないかもしれないと水杯を交わして近所や親戚から餞別をもらって出かけたそうです。
ちなみに私も三回お参りしました。

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