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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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江戸時代婚活噺

15/06/15 コンテスト(テーマ):第八十四回 時空モノガタリ文学賞 【 江戸時代 】 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1858

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皆さん、ご存知でしょうか?
江戸時代は現代よりも、ずーっと結婚難だったのです。
よく落語に出てくる、長屋暮らしの八っつぁん熊さんには嫁のきてがなく、生涯独身で過ごす者がほとんどでした。
そういう男性のために繁盛したのが吉原などの遊郭だったのです。

――では、なぜ結婚難だったのか。

早い話が男性に比べて女性の絶対数が不足していたのです。
人間の出生性比は地域、時代にかかわらず、おおむね男女が105:100前後になっています。
江戸時代は医学が進んでいないため、妊娠出産による女性の死亡率が高かった。
また江戸城にある大奥などは最盛期には、1000人とも3000人とも言われる女性が仕えていた。
それだけではない、大名や豪商などは多くの側室や妾などを囲い、一人の男性が複数の女性を独占していたのだ。
しかも貧しい家の娘たちは遊郭に身売りしてしまう。
どうしたって結婚ができない男性が一定数出るのは当然といえよう。
そういう事情で、貧乏な八つぁんや熊さんの元に嫁にくる女なんていない。
江戸っ子の「宵越しの金は持たねえ」というのは、気風の良さを謳ったのでなく、結婚できない彼らにとって、金なんか貯めてもしょうがない。使っちゃえ、使っちゃえー、という半分やけくその心理だったのである。

   *

勘兵衛長屋に住む、大工の熊さんと行商の八っつぁんはろくに仕事もせず、毎日ぶらぶらしていた。たまに小金が入ると吉原にくりだして、すってんてんになるまで使ってしまう自堕落な暮らしだった。
大家の勘兵衛は日頃から、この二人には手を焼いていた。
「おめえら、いいかげん家賃を払いやがれ!」
熊の部屋でこいこいをしていると、勘兵衛が怒鳴りこんできた。二人とも三月も溜めていたのだ。
「へえ、大家さん、あっしら宵越しの金は持たねえんだ」と熊がいうと、
「江戸っ子がいちいち小銭で目くじら立てるもんじゃねーよ」八が言う。
「そんな性分だから、いい年して嫁のきてがねぇーんだ」勘兵衛が痛い所を突く。
「てやんでえ! あっしらに嫁なんかくるもんか」やけくそで二人が叫ぶ。
「わしが嫁を世話してやろうか」と勘兵衛がいうと、
「へ? 本当ですかい」
「二人ともわしについてきな」

勘兵衛についてきた二人は浅草寺の参道にある、茶店の前に立っていた。
「大家さん、お目当ての娘はここに居るんですか?」
昼時なのでは若い娘たちが忙しそうに膳を運んでいた。
「紫のたすきを掛けたあの娘じゃ」
小柄で色白の可愛い娘が紫のたすきを掛けていた。熊も八も大家が世話してくれる嫁が想像以上に可愛いのに驚いていた。
「あの娘はお清というて、今年十八、働き者でなかなかの別嬪じゃろ。わしの遠縁にあたる娘だが、おめえらが真面目に働くっていうなら嫁にやってもいいぞ」
「ほ、本当ですかい? 真面目に働きます!」二人共、色めき立つ。
「そうか。ひと月働いて稼ぎ多い方にお清を嫁にやろう」
「がってん! 承知でさあー」
そして嫁取りを巡って熊と八は勝負になった。
怠け者だった二人が必死で働くようになろうとは、熊は大工道具を背負って、どんな遠い現場でも休まずに毎日通っていた。行商の八は朝早くから夕暮れまで、魚の干物を売り歩いていた。
ひと月後に稼いだお金を比べたら、棟上げの祝儀を貰った熊の方がほんのわずかに多かったので、お清は熊の嫁に決まった。勘兵衛が仲人になって二人は祝言を挙げて夫婦になったのである。めでたし、めでたし。

しかし数日後、熊は血相変えて勘兵衛の家にやってきた。
「お清はべらぼうな大飯喰らいだあー!」
貧乏暮らしの熊は大飯喰らいの嫁は養えないから離縁したいというのだ。その言葉に勘兵衛は一喝した。
「てやんでえ、わしが世話した嫁が気に入らないだとこの野郎!」
「だって……並みの女の三人分は飯を食うんでさあー」
「お清みていな気立てのいい娘が何も欠点がなくて、おめえなんぞの嫁にくるもんか。あの娘は働き者だけど大飯喰らいで奉公先から暇を出されてきたんだ。一度抱いて夫婦になった女は死ぬまで面倒みるのが江戸っ子ってもんだ!」
決してお清が嫌いなわけではない。勘兵衛の言葉に熊は腹を括った。
「大家さんすまねえー。あっしが間違ってた。お清のために一生懸命働くぜい」
その誓い通り、嫁を貰って人が変わったように真面目に働くようになった。そんな熊のためにお清も精いっぱい尽くす。やがて熊は大工の棟梁と呼ばれ、夫婦には子どもが生まれて、一軒家で仲睦ましくに暮らすのであった。
だが、しかし働き過ぎが原因で熊は厄年の前に、この世を去ってしまう。
かたや嫁を貰えなかった八っつぁんの方は、相変わらず吉原通いの自堕落な日々を送っていたが、それでも生気溌剌と白寿まで天命を全うする。

江戸時代婚活噺でした――。
めでたし、めでたし。


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このストーリーに関するコメント

15/06/15 泡沫恋歌

イラストは江戸時代の借家|土地活用|土地からお借りしました。
http://s.token.co.jp/estate/history/edo/

15/06/15 泡沫恋歌

イラストは江戸時代の借家|土地活用|土地からお借りしました。
http://s.token.co.jp/estate/history/edo/

15/06/18 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。

江戸時代も現代並みに男性にとって、嫁で困ったとは知りませんでした。なるほどと感心して読み進みました。
昔は、長生きしてもせいぜい50歳だったでしょうが、熊さん40ほどで逝ってしまうのは早すぎますね。長生きしても八つぁんはどうなのでしょう、幸せというか満足度はどちらなのでしょうね、人の原点は江戸も今の世と同じかもなあと思いました。

15/06/18 光石七

拝読しました。
私も今回のテーマに関してちょこちょこ調べるうちに江戸時代は男性に対して女性の数が少なかったと知り、「江戸時代だったら私もモテたのかなあ……」などと考えてしまいましたが(笑)、そう単純なものでもないですね。
熊さんは家族に恵まれたものの働き過ぎで早死に、嫁を貰えなかった八っつぁんは自堕落な日々だけど天寿を全う。うーん、どちらが幸せかといえば、個人的には熊さんのほうかなあと思いますが、結局は本人たちの満足度次第ですかね。
面白かったです。

15/06/18 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、拝読しました。

寓話のようにわかりやすくて、気っぷのいい江戸弁も楽しく、面白かったです。
江戸時代の人も婚活で苦労していたと思うと、親近感湧きますね。
どっちもそれなりに幸せな人生だったように思います。

15/06/20 鮎風 遊

人生いろいろですね。
江戸時代がこんなのだったとは、ちょっとびっくりです。
それにしても皆さんしんどかったかも知れませんが、面白い生き様ですね。
このお話しの中の誰になりたいかと聞かれたら、
やっぱり大家さんかな。
婚活を応援する側にまわりたいです。

15/06/30 泡沫恋歌

草藍やし美 様、コメントありがとうございます。

そうなんですよ。
江戸時代は実は結婚難の時代で独身男性が多くて、そのせいで吉原などの遊郭が繁盛したそうです。

結婚して幸せか、不幸かは相手次第でしょうが、満足な人生なら・・・
早死にでも、まあいいかってことです(笑)


光石七 様、コメントありがとうございます。

私も以前に、江戸時代を調べている時に女性が少なくて、結婚できない男性が多いってことを知ったのです。

元々少ない上に、、「出産は女の大厄」というくらいで、出産で命を落とす女性も多かったみたい。

15/06/30 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、コメントありがとうございます。

江戸っ子弁がサマになってましたか、昔、じいちゃんと一緒に「銭形平次」をよく観てましたから(笑)

熊さんがいいか、八っつぁんがいいか、評価の別れるところですが、私個人なら、
八っつぁんの自由さも悪くないと思うなあ〜でも一度は結婚もしてみたいとは思うのが人情ですよね。


鮎風 遊 様、コメントありがとうございます。

大家さんは美味しいポジションですよね(笑)

しかしロクに家賃を払わないタナコばかりでは大家さんもやっていけない。
たぶん嫁を持たせたら、ちゃんと働いて家賃を入れると思っての策かもしれない。

15/06/30 泡沫恋歌

志水孝敏 様、コメントありがとうございます。

志水さん、そりゃあ〜熊さんも嫁を貰ったら必死で働いて食べさせなくっちゃ〜
現代のお父さんだって、家族にATMとか言われてるんですから・・・江戸時代も同じだったと思う。
この時代の女性は命懸けで子どもを産むんですから、男性はちゃんと面倒みてあげないとね。

そういうのが煩わしいなら、八っつぁんのように貧民独身者になるしかない。
ああ、こういうタイプも現代にいるよね(笑)

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