佐々々木さん

性別 男性
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15/06/12 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:1件 佐々々木 閲覧数:950

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空が青かった。憎らしいほどの、快晴。その空を分断するように、山と空の境界線上から細く雲が伸びている。
 小さな駅の、せいぜい2、3人程度しか座れないであろうベンチが2つ置かれている小さな待合室。正面を向くと、ガラス越しに差し込む光がまぶしくて、目を逸らした。そこで2人で、時間を待っていた。
「200ってなんだろうね」
 何のことだ、と聞き返したかった。視線を辿って数秒後、理解する。
 駅前のちんまりとした、決して人が好んで寄り付くとは思えない商店街。鉛色のシャッターが下ろされている店も目に付いた。そのシャッターが開けられることがないということを、俺は知っている。
 その商店街のある店に、緑色の横看板に少し霞んだ赤で「200」と書かれていた。
「確かに」意味は分からないが、「200だな」
 開店はしているようだが、何の商売をしている店かは判別できなかった。
「何のお店かな」
「俺には」何もわからない。「わからない」
 だよね、といつもと変わらず無邪気に笑ってくれた。
 それからは5分、10分、20分と、他愛もない会話をして過ごした。
 最近熱くなってきたね、とか。いや、でも夕方は肌寒いよ、とか。この前傘をコンビニに忘れてきた、とか。明日の降水確率は70%らしいよ、とか。今日の射手座の運勢一位だった、とか。
 なぜ、こんな会話しかできないのだろう。言いたいことが言えなかった。ただ一言。口をついてでるのはどうでもいい言葉や相槌ばかり。神様に声を奪われた。返してくれ、と叫びたかった。ほんの一瞬でいい。たった一言、言葉にするだけだから。返してくれないなら、勇気を与えてほしい。一欠けらだけ。たった一言、発するだけの、勇気を。
 ごめん、と。



遠くから電車が近づいてくる。一定のリズムで車輪の音を響かせている。
「もう、来るね」
そう言いながら立ち上がり、外を見ている。釣られて俺も立ち上がった。なんと声をかければいいか迷った。言い淀んだ、の方が正しいかもしれない。
 その迷いは、あ、という声で遮られた。
「ZOOだったんだね」
「え」
「200じゃなくて、ZOO」
 さっきの「200」の店のことを言ってることに気付いた。商店街の方に目を向けると、緑の横看板の下に、3人組の家族と、おそらく店主であろう60代あたりの男がいた。
 子供は小学校低学年ほどで、子犬を抱えている。家族は笑顔に溢れ、幸せそうに見えた。店主も嬉しそうな、また誇らしげな顔をしていた。
「なるほど」苦笑いが混じる。「ZOOか」
 あれは動物園ではなくペットショップだろう、と呆れにも似た気持ちが湧く。なぜそんな店名にしたのだろう。英語の意味を知らなかったのだろうか。それとも、いずれ動物園にしようとでも思っていたのだろうか。わからないが、ひどく滑稽に思える。ただ、それは俺も同じだ。
 いつも近くにいてくれていた人の気持ちも知らず。空いている時間を使い、いずれ、何かで、成功してやろうと大した努力もせずに考えている。
 動物園気取りのペットショップ。
 自由人気取りのフリーター。
 ただ一つ、はっきりと違うことがある。あの店主は、自分の店に対して誇りがある。同じなはずなのに、それだけのことで、まったく違くなる。そうだ。同じではない。
 滑稽なのは、俺だ。



「じゃあね」
「ああ」
「元気でね」
「ああ」
 電車のドアが、閉まる。閉まり始めたドアの向こう側で、口が動いた。声は聞こえず、ドアが完全に閉まった。何も聞こえなかったはずなのに、ある言葉が耳に残った。
 さよなら。
 締め付けられる喉から嗚咽がもれた。


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このストーリーに関するコメント

15/07/02 光石七

拝読しました。
「200」の文字のからくりとそこから展開される主人公の思考がいいなと思いました。
二人はどういういきさつがあってこの結末になったのか、いろいろ想像が掻き立てられます。
雰囲気のあるお話でした。

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