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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ライオンスーツ

15/06/10 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1610

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動物園の園長を親友にもったりすると本当にろくなことはない。ときに大変なことを頼まれることがある。彼は僕がいい加減な人生を送っていることを見こして、今回の依頼を申し込んだことはまちがいない。その依頼とは、ライオンの檻に入れというものだった。最初に電話でいってきたとき、てっきり冗談とばかり思って、「報酬はいくらくれる」ときくと、「10万だすよ。ただし一日かぎり」10万ときいて僕の食指が動いた。心のどこかでこの依頼が本当であってくれと祈っている自分に気づいた。「きみの安全は保障するから心配するな。なにも体ひとつで入れといってるわけじゃない。特別誂えのライオンスーツを着てもらうから大丈夫だ」
そのスーツとやらがどのようなものなのか、わからないまま僕は、とにもかくにも動物園におもむいた。
すると園長は、彼にしてはめずらしく悲痛な調子で話しだした。世界的に動物の数が激減し、ライオン一頭手にいれるのにもいまは大変な時代だ。動物園業界も死活問題に直面している。そこで打開策として考案されたのがこのアニマルスーツだ。ライオン以外にも、いろんな動物たちのスーツもあるのだという。いずれ動物の獲得が不可能になれば、人間がスーツをきて動物になりきる事態が到来することはまちがいない。そのためには誰の目にも本物そっくりでなければならない。それでこのスーツが開発されたらしい。しかしそれでは動物をみにくる客をだますことにならないかと僕がとうと、CGで蘇る恐竜と同じて、それがリアルであれば誰も文句は言わないというのが彼の持論だった。
僕がその依頼を受けたのは、報酬もさることながら、そんな風変わりでそして貴重な体験は、おそらく死ぬまでまずないだろうという思いからだった。
すでにまちかまえていたスタッフに手伝ってもらって、僕はライオンスーツを着ることになった。
なるほどよくできたスーツだった。鏡をのぞきこんで驚嘆した。目の前に本物のライオンがいると本気で思ったほどだった。「これはすばらしい」その声も、ライオンの口をとおすと低いうなり声にアレンジされた。園長の説明では、怪獣映画のスーツを制作している会社が作った特製で、人間が入っても後足などはまるっきりライオンのそれで、窮屈感はまるでなく実にスムーズに動けた。顔もまた精巧そのもので、僕が口あけると口をあけ、目を動かすと目玉が動くというIT技術には疎い僕にはただただ舌を巻くほかない完成度の高さだった。僕はすぐにもライオンたちのいる檻に入りたかった。本物に通用するかどうかが、僕にとっての最大関心事だったことはいうまでもない。がいまライオンは食後の昼寝の最中で、せっかくこのスーツを着て、ライオンたちと昼寝をしたところではじまらなかった。
ひとまず僕はスーツをぬぐと、一時間ほど、ほかの動物をみてまわることにした。
園長のはからいで、檻の裏側からの見学を許された僕は、ライオンの隣にある虎の檻を見にいった。おなじ四足の虎の生態を知っておくのも何かと役に立つだろうと思って僕は、裏の通路側から虎をのぞきこんだ。すると、虎のやつ、なんと肘で頭を支えて横たわっているではないか。実物の虎が、いくらなんでもこんなぐうたらな姿勢をとるわけがない。僕はピンときた。なんだ、この虎も、人間が中に入っているんだ。人目のないのをいいことに、中に入った誰かが、すっかり油断してあんな恰好をとっているのにちがいない。
そこから、さらにひらめくものがあった。ほかのライオンたちもきっと、スーツを着こんだ人間たちなのではないか。いくら僕を軽視しがちな園長でも、考えてみればまさか本物のライオンのいるところに親友を入れるような無茶はしないだろう。そう思うと僕は、ずいぶん気持ちも楽になり、目の前にちらつく報酬の10万円におもわず舌なめずりした。
その時はきた。眼前で檻が開くのを、僕はライオンスーツの中からながめていた。
「さ、すぐに」ライオンたちの動きを監視しながら、スタッフがせきたてるなか、僕は檻の内側に身をすべりこませた。
それまで寝そべっていた雄のライオンが、こちらに向かって頭をもたげた。僕にはそれが人間だとわかっていたので、平気で彼のほうにちかづいていった。「やあ」それは唸り声となって相手に伝わった。相手もまた、口をひろげて唸った。一瞬、もしこれが本物だったらという危惧が僕の頭をかすめた。だがすぐ、僕はその考えを否定して、オッスとばかり片手をふってみせた。すると相手もまた、前足をあげた。それをみて僕は、スーツの中で安堵の笑いをうかべた。笑い声は雄叫びと変って檻中に響きわたった。雌ライオンたちがちかづいてきた。それもまたスーツのはずだったが、雄同様あまりに本物らしく見えるため、にわかにこみあげる緊張感にまたしても胸をしめつけられる僕だった。


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このストーリーに関するコメント

15/06/10 たま

スープレックスさま、拝読しました。

タイトルがすごく面白くて、読ませてまらったのですが、本編もすごく面白かったです。
メスに囲まれた主人公がこの後、どうなるのかと思うと、おかしくて、おかしくて、涙がでます^^

15/06/10 W・アーム・スープレックス

たまさん、はじめまして。

涙を出しておかしがっていただいて、ありがとうございます。
ほかのライオンたちがはたしてスーツなのかどうかはわかりませんが、いずれにしろ主人公のその後は、極めて際どい状況にあることだけは確かのようですね。

15/06/11 クナリ

導入から面白く引き込まれたのですが、最後がちょっと物足りなかったです。
アイディアの光る作品なので、他の動物の正体や主人公の結末などで、驚きのエンディングが待っていてくれたら…と思いました。

15/06/11 W・アーム・スープレックス

貴重なご意見ありがとうございます。実は私もラストに関してはクナリさんと同じ気持ちで、途方もないオチをと考えてはいたのですが、たまにはこんな落差の低い終わり方で、あとはみなさんですきなように想像してもらえばいいかなと、言い方を変えれば手抜き作品を書いた次第です。

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