つつい つつさん

twitter始めました。 @tutuitutusan

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

殿

15/06/07 コンテスト(テーマ):第八十四回 時空モノガタリ文学賞 【 江戸時代 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:1289

この作品を評価する

 授業が終わって、隣の六年三組の教室に入る。周りを見渡したけど、殿の姿がない。近くにいたマッチャンに聞いたら、慌てて廊下に連れ出された。
「なんだよ、マッチャン?」
「あのな、カケル。殿、タクトに嫌がらせされて、すぐ帰っちゃったんだ」
「なんで?」
「休み時間に体育館のそばで財布拾ったんだ。それをタクトが使っちまおうって言ったのに、殿が反対して、先生に届けちゃったんだよ」
 俺はムカついて、すぐに教室に戻り、偉そうに仲間と騒いでいるタクトに近づきローキックをおもいきり入れた。
「カケル! なにすんだっ!」
「お前、殿いじめたらしいなっ?」
「なんだよっ! あいつが空気読めないからだよ」
「知ってるよ! でも、それが殿だろっ」
 タクトと取っ組み合いになった。蹴ったり蹴られたり、もみくちゃになって机も椅子も倒れて、周りにいた女子達も騒ぎ始めた。そしたら、すぐに先生が駆けつけてきて二人揃って職員室で怒られた。でも、反省なんてしてやるもんか。帰り際、タクトにもう一回ローキックかまして逃げてやった。
 そのまま帰るのも癪だから、近くにある街を見おろせる公園まで歩いた。すると、公園にはやっぱり殿がいた。
「殿、タクトは俺が締めといたから」
「……」
 くそ、殿に無視された。
「殿、自分の街を眺めてるんですか?」
「その、殿っての、やめてよ」
「はぁ、今さら、何言ってんだよ。殿は、ずっと前から殿だろ」
「僕は名前が徳川ってだけで、殿様でも、将軍でも、何でも無いんだから」
 ふてくされて、俺の方も向かず殿はずっと前を睨みつけている。
「殿、泣いてもいいぜ」
「はぁっ?」
「いや、ほら、あるじゃん。えっと、泣くまで待とう……とか、なんとか」
「字が違うよ。それに、僕は家康とは関係無いって言ってるだろ」
 むすっとして怒ったままの殿の横顔を見ながら、家康と関係無くても、殿は殿だよって、言ってやりたかった。空気も読めない。運動も得意じゃない。それに、勉強だってそんなに出来るほうじゃない。なのに分厚い眼鏡してるし、なんだかあんまり取り柄の見つからない殿だけど、日本中探したって殿みたいに殿らしいやつなんていないんだ。俺はそれを一番知ってる。
 俺がこの街に引っ越してきたのは幼稚園の頃だ。母さんが父さんと離婚したから、それまで住んでいた場所から母さんが生まれ育ったこの街に帰ってきたんだ。それから、この街の幼稚園に通うことになった。だけど、幼稚園に入ったとたん、俺はヒトシって奴に目を付けられ、いじめられた。
 せっかく俺も母さんも暴力から解放されたのに、すっかり怯えきって臆病になった俺は相手の目もまともに見れずおどおどしてたから、乱暴なヒトシの格好の標的になった。弱虫の俺は毎日泣きながら「幼稚園行きたくない」って訴えたのに、母さんは離婚したばかりの俺を強く育てたかったのか、無理矢理幼稚園に引っ張って行った。
 それからの一週間は地獄だった。幼稚園に着くとすぐにヒトシに捕まり砂かけられたり、叩かれたり蹴られたりして泣かされた。たぶん、あのままだったら俺は幼稚園をやめて家から一歩も外に出れなくなってたんじゃないかって思う。でも、そんな時に殿が現れた。インフルエンザだか風疹だかで二週間ぶりくらいに幼稚園に来た殿は俺がいじめられているのを見ると颯爽と俺とヒトシの前に立ちはだかった。
「ヒトシ君、いじめはだめだよ」
 あの頃から殿は当たり前のことを恥ずかし気も無く真っ直ぐ言う奴だった。俺は救世主が現れたと思って、びっくりした。もうヒトシに怯えなくていんだってすごく安心した。でも、そうおもった瞬間、殿はヒトシに叩かれて、大泣きしていた。殿は救世主なんかじゃ無かった。ただの弱い奴だった。俺はがっかりした。
 でも、それからもやっぱり、殿は殿だった。俺が幼稚園に行くと、相変わらずヒトシにいじめられた。でも、すぐに殿が駆けつけてくれた。だけど、すぐにヒトシに殴られて泣かされていた。俺はこいつはバカなんじゃないかって思った。なんで、殴られるのがわかって、強くもないのに毎回しゃしゃり出てくるんだってあきれた。あきれたし、逆に腹もたった。
 なのに、幼稚園に行くのが嫌じゃなくなったんだ。ひとりでいじめられてるときは怖くて悲しくて、つらいだけだったのに、いつも殿が助けにきてくれるから叩かれるのも、なんだか怖くなくなっていたんだ。叩かれる痛みなんかより、殿が助けに来てくれる嬉しさのほうが何倍も強かったんだ。
 あれから俺は体も大きくなったし、強くなったけど、殿には全然かなわない。殿はやっぱりひょろひょろして、弱っちいままだけど、いつも正しいし、いつも誰かの為に戦ってる。
 なあ、殿。俺は殿にだったら、仕えてもいいぜ。殿よりすごい奴なんていないぜ。だから、殿、元気、出してくれよ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/06/16 光石七

拝読しました。
初めは「現代で『殿』?」と不思議でしたが、そういうことでしたか。
殿の純粋さやまっすぐさ、正しさ、優しさが伝わってきて、単なる名前からのあだ名ではないのだと、殿と主人公を応援したくなりました。
こういう本物の友情って尊いと思います。
理不尽なことも多いだろうけれど、これからも二人で乗り越えていってほしいです。

15/07/06 つつい つつ

光石七 様 感想ありがとうございます。返事が遅くなり申し訳ございません。
 殿みたいな不器用でまっすぐな人が居ればいいなと思い、書きました。気にいっていただき、本当に嬉しいです。

ログイン