ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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SAIGO

15/06/02 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1166

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閉館日まであと6日と迫っていた。
多摩ふれあい動物園で飼育されている40種の動物達の引き受け先は、ほぼ決まったが、今年、人間の年齢にすると80歳を迎えるアフリカゾウの花子だけは、引き受け先がまだ見つかっていなかった。花子は老衰が激しく、自力で立ち上がるのもやっとで、獣医からは、もっても今年いっぱいだろうと診断されていた。そんな花子を他の動物園が引き受けてくれる訳もなく、園長の長谷部は安楽死させてやることがベストだろうと、ミーティングルームに集まった職員に話した。
「園長、花子を最期まで生かしてやってください」
長年、花子の飼育係りだった清野タケシが言った。
「どこも引き受けてくれるところは見つからないんだ。閉館日までもう1週間を切ったし、それに親会社の社長からも引き受け先が見つからないなら、安楽死させるようにと命令されてるんだ」
清野は足元を見つめながら、唇を噛んだ。
「さあ、開園時間の10分前だ。残りわずかの日数だけど、今日も来園してくれたお客さまに驚きと笑顔を届けられるように、頑張ろう!」
長谷部はそう職員に行って、ミーティングルームを出て行った。
他の職員達も、開園時間に向けて部屋を出て行ったが、清野は足元に顔を向けたまま、立ち尽くしていた。
サルの飼育係りの牧野洋子が、清野の背中をトントンと軽く叩いた。
「清野さん、仕方ないよ。もう時期、死んでしまうゾウを引き受けてくれる動物園なんてないよ。花子のためにも、園長が言うように安楽死が一番いいんだよ」
清野は拳に力をこめた。
「俺は他の職員よりも花子と触れ合う時間が一番長いんだ。そんな俺には分かるんだ。花子は自分が薬で殺されるのを理解していると。もちろん言葉なんて話せる訳ないんだけど、俺に向ける目が時おり、『殺さないで』って訴えてくるような悲哀の滲んだ目をしてくるんだ。俺は15年近く花子の飼育係りをしてきたけど、こんな目を俺に向けてくるのはここ最近になってからなんだ。間違いなく、花子は薬で殺されることを理解しているよ」
清野はそう言うと、園長にもう一度、直談判してくると言ってミーティングルームを出て行った。
この日の閉園時間の午後5時を過ぎ、多摩ふれあい動物園の園内から客がいなくなると、ようやく動物達のエサの時間になった。
大きなバケツにリンゴやバナナなどのエサをつめて、清野は花子のそばに寄った。
花子は動くのがしんどいため、一日中座りっぱなしでいる。そのせいで花子の腹には痣がいつもできている。清野は花子のためを思って、花子から少し離れた場所にバケツに入ったエサを置いた。
「ほら花子、腹減っただろう。向こうまで自分で歩いてエサを食べな」
花子はゆっくりとしんどそうに立ち上がって、一歩また一歩とエサに向かって歩いて行った。
「清野さ〜ん!」
振り向くと牧野洋子が手を振りながらこちらに、笑顔で近寄って来た。
「何?」
「園長が呼んでますよ」
「何の用かな?」
牧野は左右の口角を上げながら「行ったら分かりますよ。きっと清野さん喜びますよ」と言った。
数回ノックして、園長室のドアを開けた。
「園長、話ってなんでしょうか?」
「決まったよ。ようやく決まったんだ」
「何がですか?」
「花子の受け入れ先がね!」
清野は「本当ですか」と言って、手を叩いて喜んだ。「どこの動物園が引き受けてくれるんですか?」
「動物園じゃないんだ。私の知り合いが運営する私立幼稚園で引き取ってくれることになったんだ」
「幼稚園ですか?」
「うん。そこの幼稚園はヤギとか羊も飼育しているんだ。そこの園長先生は、動物に接しながら幼児に命の尊さと優しさを育んでもらいたいという理念のもとに幼稚園を運営しているお方なんだ。最初、花子の話を持ち掛けたら、難色を示したんだが、どこも受け入れてくれるところが見つからない場合には、安楽死をさせることになると話したら、『そんな酷いことをしてはいけない』と言って、幼稚園で引き受けましょうと言ってくれたんだ」
「園長、本当にありがとうございます」
「いや、いいんだ。それに、お礼を言いたいのは私の方だよ。君が私に、花子を最期まで生かしてやってくれと熱心に言ってなかったら、私は花子を薬で殺すことにサインを押すところだった。もしそんなことをしていたら、動物園の園長として恥ずべき愚かなことだった。それと清野君にお願いしたいことがあるんだ」
「何でしょうか?」
「動物園が閉館した後、暇ができたらでいいんだが、たまに幼稚園で飼育される花子に会いに行ってくれないか?」
「もちろん、会いに行きますよ。花子の最期を看取ってやることが、私が花子にできる、唯一の恩返しですから」
園長室を出ると、廊下の窓から目を細めてしまうほどの夕日が差し込んでいた。



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このストーリーに関するコメント

15/06/03 南野モリコ

ポテトチップさん、拝読させて頂きました。

私が子供の頃よく行った動物園の松子を思い出しました。

教育とは、心の美しさを教えることだとあるドラマのセリフにありましたが、
文学も同じですよね。

何でも時間で区切って、効率を重視する現代にも起こりそうな奇跡に、
前向きな気持ちにさせて頂きました。

ありがとうございました。

15/06/04 ポテトチップス

ミナミノモリコ 様へ

コメントありがとうございます。
私は動物の中ではトラが一番好きです。
ちなみに、動物占いによると私はトラなんだそうです。

いつか動物園に行くことがあれば、じっくりとトラを見てみたいです。

コメントありがとうございました。

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