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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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嫁はつらいよ

15/06/01 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:1426

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 自分で言うのもなんだけど、私はおおらかな方だと思う。少々のことなら、まあ、いっか、で済ませられるし、自分が我慢して丸く収まるなら、あえて波風は立てたくない性格だ。

 まして嫁という立場なら、なおさらだ。だけど、あれはあんまりな出来事だった。
 
 ◇

 正月に帰省した時のこと。
 二歳になったばかりの息子が、義母から、日本で一番有名な乳酸菌飲料をもらった。
「ヤックルーだぁ♪」
 息子はその商品名を正しくは言えないが、普段から飲みなれているそれが大好物で、すぐさま私のところへ持ってきて
「あーけーてー」
とねだる。アルミホイルのようなフタを自分で開けるのは幼児にはまだ難しい。
「はいはい」
 それを開けようとして、ふと容器に印刷された賞味期限が目に入った。

 ――2014、8、7.

 見間違いかと思い、おもわず二度見する。

 にせんじゅうよねん、だと! もしかしたら、前にお盆に帰省した時に買って、残ったものではないだろうか? 今は2015年の1月だから、約5ヶ月まえ? ま、まさか。賞味期限切れにしても、切れすぎだろー!!

 私はすぐさま夫にそれを告げる。それを手にした夫は
「あ、ほんとだ」
 拍子抜けするくらい、あっさり言い放つ。息子は
「ママーはやくぅーはやくぅー」
 と騒ぎ出す。
「まあまあ、ずいぶん、にぎやかねえ。なあに、どうしたの?」
 義母が台所からリビングにやってきた。

 そうだ、きっと、お義母さんはうっかりしていたに違いない。
「かあさん、これ、賞味期限切れとるよ」
 夫が言う。
「あら、そう? でも5ヶ月でしょ、どうってことないわよ。乳酸菌飲料は腐らないけん、大丈夫やよ、死にゃあせんわ」
「……だって」
 夫が再びその容器を私に戻した。

 大丈夫だってー? 1日、2日なら私も目をつぶろう。5ヶ月前だよ。死なないにしても、腹は壊すだろう。大丈夫なわけないじゃん。母親として愛する息子にこんなもの、飲ませるなんて、出来ない。ええ、断固として。私は笑顔をヒクつかせながらも、やんわりと拒否した。

「でも、この子、すぐお腹こわすし、心配だから、飲ませるのはちょっと……」
「あら、アイコさんって案外神経質なのね。男の子はもっとおおらかに育てなきゃ。だめよ」
 そうなのか? 私が気にし過ぎなのか? この家の法律が、もう私にはよくわからない。そんな義母に育てられた夫こそ、よく下痢をして会社を遅刻するくせに。

 義母は
「捨てるのはもったいないし、仕方ないわねえ」
 と言い、フタを開けて、鼻で匂いを嗅いだあと、ぐびっと自分で飲んだ。
「匂いも味も、どうもないわよ。残りはお父さんにやろう」
 お義父さん、お気の毒。
 それより長年連れ添った夫婦というものは、同じものさしを持つようになるのだろうか。賞味期限の半年やそこらは、もはやどうでもいい問題になってしまうのだろうか?

「ボクもーボクもー」
 と息子の声はますます大きくなる。仕方ないので、私と夫はぐずる息子を連れて、近所のコンビニに出かけた。
「ねえ、なんか怒ってる?」
 夫が聞く。
「怒ってるっていうよりも、私、嫁なんだなあって、しみじみしちゃうよ」
 そういえばあの家で、夫も息子も、義母とは血がつながっていて、私は血がつながってない、いわば他人だ。当たり前だけど。
 こういうのを疎外感、と呼ぶのだろうか? いつか年を重ねれば、そんな感情も義母みたいに、平気で飲み干す日が来るんだろうか、私。

 すれ違う人、すれ違う人に
「賞味期限の5ヶ月切れた乳酸菌飲料を、あなたは飲めますか」
 と聞いてみたい衝動に無性にかられるのだった。

 翌日、義母も、アレを飲んだであろう義父もピンピンしていた。おそるべし。

 今まで捨てていた賞味期限切れの納豆、今度からは夫に食べさせてやる! 5ヶ月、というのは、さすがに出来ないけど、2、3日なら、まあ、いいだろう。

 

 


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このストーリーに関するコメント

15/06/02 たま

珊瑚さま、拝読しました。

うーん、五ヶ月はちょっとと思いますが、昭和一桁生れの義母なら十分有り得るお話でしたね。夫婦ふたり暮らしってのは、消費と購買の按配がむずかしいのです。少々の賞味期限はという感じで食品が残っていきます。
ですから、二、三日であれば、妻の過失にはならないでしょう^^
ぼくも目を瞑ることにします。
面白い発見のあるお作でした♪

15/06/03 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

そうなのよ、ヨーグルトなどの乳酸系や、納豆などの発酵食品は賞味期限切れても食べられます。私は5か月は腐ってはいないけれど、納豆はさすがに固くなったり白いブツブツが出てきたりして不味くなるのでたぶん捨てるかもですが、3か月くらいなら食べます。
ヨーグルトは酸っぱくなるのでカレーなどに入れて処分しますが、お腹壊すことはない。
昔は賞味期限も消費期限も自らの鼻と舌で確かめたものです。そういう時代を生き抜かれた姑や舅はそのくらいではくたばりませんよ。苦笑 嫁も頑張らないと負けますよ〜〜! でもまあ勝負しないほうが無難だろうけどね。汗 時間切れとしてとても面白かったです。

15/06/03 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

乳酸菌飲料と納豆は少々賞味期限切れでも大丈夫だと思いますが・・・
さすがに5ヶ月前というのは、ちょっとねぇ〜(-д-`*)うぅ〜

昔、友人と海の家でコーヒー牛乳を飲んだら、友達の方が賞味期限が
10日ほど切れていた。
飲んでから気がついて、海の家のおばさんに文句を言ったら、
なんと!「正露丸」を黙って渡してくれたことが一生忘れられない。

しかし、結局、友人はお腹を壊しませんでした。

15/06/07 鮎風 遊

確かに、お嫁さんは夫の家の家風には馴染めないでしょうね。
だけど待ってれば、義父も義母も人生の時間切れ。
あとは天下ですよ。

こう思えば、5ヶ月くらいの賞味期限切れ、どうってことないし、
心配なら煮沸。
栄養は飛びますが。

15/06/19 そらの珊瑚

たまさん、ありがとうございます。
実はこの話し、私の実体験を基にしております。
私はこっそりそれを捨てましたが(笑い)

草藍やし美さん、ありがとうございます。
発酵食品は、おおざっぱに言えば腐っているわけだから(?)賞味期限のことを考えるとなんだかややこしいです。
私の実母も賞味期限、あんまり見ないので、実家に帰ったら気をつけてます(笑い)

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
「正露丸」がすぐ出てくるあたり、その海の家のおばさんは常習犯かもしれませんよ(笑い)
客商売に賞味期限切れってどうなの?って思いますが。
なんでもなくてよかったですね。

志水孝敏さん、ありがとうございます。
嫁と姑の微妙な位置関係というか、そんなものを日常の事件とも
呼べないような小さな事件を通して描けていたとしたら嬉しく思います。


鮎風 遊さん、ありがとうございます。
自分にこともができてから賞味期限に気をつけるようになりました。
だいぶ大きくなった今は、結構ずぼらに帰ってます(笑い)

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