1. トップページ
  2. 世界に一つだけの動物園

ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

投稿済みの作品

1

世界に一つだけの動物園

15/06/01 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:2件 ちほ 閲覧数:1094

この作品を評価する

「……届いたわ。ようやく届いたわ」

 翌朝、あかねはバネのように跳ね起きた。昨夜のお母さんの声が気になる。あれは隣の部屋からきこえた。夢でなければ。もしかして、お誕生日のプレゼントのことかもしれない。そう思うと、心が落ち着かなくなってくる。隣のベッドで眠りこんでいる弟の翔太が目を覚まさないように、ゆっくりとベッドから下りて、そっと部屋を出た。
 隣の部屋の前に立って、少し迷ってからドアを開け、パチリと電気をつける。
「あっ!」
 部屋いっぱいの動物園を見て、何が起こったのか理解できず呆然と立ちすくんだ。木彫りのミニチュアの動物園だった。
「昨夜、届いたのよ。三年前に予約したオーダーメイドの動物園よ。全て職人さんの手によるもので、同じものは世界に一つもないという結構すごいものなの!」
 あかねは振り返った。お母さんは腰に手を当てたまま、嬉しそうに続けた。
「どうしても、今日のあかねちゃんのお誕生日に間に合わせたかったのよ。素敵でしょう?」
 動物一体一体が、みんな違う表情をしている。どれも中指くらいの大きさで、雑に彫られているようで、それがまた魅力的に見えるという不思議。特徴をつかんでいて、今にも動き出しそうに見えた。園内は、動物だけでなく客の様子も収められていて、風船売りのお姉さんなど可愛らしくて気に入った。それぞれに彩色されて、その色の具合で動物の年齢まで想像できるほどの出来栄えだった。緑の丘も再現されていて、檻は一つとして造られてはいない。檻の代わりが高い塀や深い堀なのだ。自然を生かした動物園。動物たちにとって幸せな環境だろう。
「あら、ライオンが一体ないわ。全てペアで注文したのに。あとで問い合わせてみないと」
 二人であれこれと動物園の魅力について話し合っていると、パジャマ姿の翔太が目をこすりこすりやってきて、ドアから顔を覗かせた。
「お母さん、ずるいよ。お姉ちゃんはあんなにすごいプレゼントなのに、この前のボクのお誕生日、欲しかったジープじゃなかった!」
「だって、ラジコンのジープ、七歳の子にはお値段が高すぎるわ」
「でも、お姉ちゃんは……」
「この動物園は、お母さんも三年前から欲しかったの。だから、特別なのよ」
 ルンルン気分で部屋を出ていくお母さんに、翔太は不満そうに舌を出す。そして、あかねに視線を向けて、まったく同じようにべッと舌を出してみせた。あかねはそっぽを向いて相手にしなかった。
 翌朝、動物園からキリンが一体消えていた。そのまた翌朝も、ペンギンが一体消えていた。毎日、一体ずつ動物が消えていく、ペアのうちの片方が。
「もし、このまま消えていったら……どうなるの?」
 あかねが不安そうにお母さんに訊く。
「……全部なくなってしまうかも」
 あかねはびっくりして動揺する。この窓一つない元々倉庫だった広い部屋。
「ともかくねぇ、問い合わせてみたのは早すぎたかもしれないわね」
「そうよね。三体も消えているんだもの。失くしたか、盗んだ犯人がいるはず」
 そのとき、”リーン”と電話が鳴った。お母さんは慌てて部屋を出ていった。
 あかねは、一人でじっくり考えてみた。
(犯人は翔太? ううん、わたしが初めてこの動物園と出会った時、翔太は後から眠たそうにやってきて、ちゃんと見もせず『すごいプレゼント』と言っていた。その時にはもうライオンは消えていた)
 疑いたくはないけれど、調べてみないと。翔太のとりそうな行動を思い浮かべてみる。
 子ども部屋に戻ると、翔太のベッドの掛け布団を勢いよくはがした。
「なにするんだ!」
 寝ていた翔太の手には、ライオンがあった。
「あなたが犯人ね!」
「ライオンだけだよ! 他は知らない!」
 二人睨み合っていると、お母さんが慌ててやってきた。
「大変よ! 問い合わせの返事があって、動物園を本当に大切にしないと、動物が一体ずつ消えていくんですって。それぞれに魂を込めているから、そんなこともあるんだとか!」
「動物たちが怒って?」
「そうらしいわ」
 翌朝、キリンとペンギンが動物園に帰ってきた。子供部屋で翔太がポツリと言った。
「ほんとうはね、お母さん問い合わせてなんかいなかったんだよ」
「どうして?」
「だって、犯人が誰か、もうわかっていたから」
「誰?」
「ボク。……ごめん」
 盗みを犯した翔太に反省を求めたお母さんの嘘。その嘘をつかせてしまった翔太の後悔。あかねは、翔太が本当は優しい子だということを知っていた。だから、動物が帰ってきた以上に、ちゃんと反省してくれた翔太を見て嬉しかった。
「ねぇ、翔太。一緒にこの動物園を大事にしていこうね」
 あかねが言うと、翔太は驚いた顔をした後、嬉しそうに目を輝かせた。





コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/06/02 クナリ

最後がちょっと、いい話としてきれいにまとめすぎかなと思いました。
ですがこんな動物園、ほしい!…と思わされましたし、中盤からのミステリアスな展開も面白かったです。

15/06/02 ちほ

クナリ様
コメントをありがとうございました。
ジ―プがもらえなかったかわいそうな弟を放っておけなく、
また姉弟仲良く……という思いが強すぎてしまいました。
動物園の魅力が少しでも伝えられるかとても心配でしたが、
クナリ様にお言葉をいただいて、とても嬉しく思います。
ありがとうございました。

ログイン